第6話:体育は男女別でよかったと思った①
原則的に、体育の授業は男女別で行われることになっている。
どうしてそうなっているのか、なんて言われても俺はよくわからないが、学校側の都合でそうなっているんだからそうなんだろうと素直に受け入れている。というよりは、気にしていないと言ったほうが正しいか。
こういうところで異を唱える奴や、独自に調べたりするような奴は、後々もしかしたら大きな業績を残すのかもしれない。自分の置かれている状況を客観的に捉え、その根底にある問題を理解しようとするのだから、自ずと世の中を見る目も養われるのだろう。
まあ。俺はその限りじゃないけどな。正直どうでもいいし、別に男女別でも男女一緒でも全然問題ない。むしろ男子よりも運動神経いい奴なんて大勢いるし、現に俺の目の前にもいる。
「やったー! イェーイ!」
ポニーテールに結った髪をピョコピョコ跳ねさせながら、楽しそうにペアの女子とハイタッチをしているのは、浅見紗枝。俺の後ろの席に座る女子だ。
本日の体育は男女別ではなく、男女共にバドミントンを行っている。もちろん実力などを考慮して、運動神経のある者とない者でグループは別けられてるし、男女で不均一にならないようメンバーも調整されている。
俺はどちらかと言えば運動ができる方で、昔から器用だったからか大抵ことは人並み以上にこなしていた。バドミントンに関しても別に苦手ではない。
俺が唯一できないのはサッカーだけだ。あれだけはどうしてもできない。どうやったら、あんな風に足だけで自在にボールを操れるのだろうか? 不思議だ。
話はそれたが、まあ運動ができることもあり、俺は運動ができるグループに放り込まれている。メンバーは男子三人、女子は四人だ。案外多いと思うが、他のグループに比べても少ない方だ。
体育はコマ数は少ないが、一回の時間が二時限ほどある。しかも二クラス合同で行うので人数が多い。その中で少ないということは、それだけここのグループのメンバーは取り分け運動神経がいい方なんだろう。
実際、メンバーの中にはテニス部やバドミントン部の面々もいる。その中に自分が入ってることに異様さを感じる。
まあ、目の前でテニス部相手に普通に勝ってる帰宅部もいるけど。
浅見は運動部でもないのに、八面六臂の大活躍をしていた。元々バドミントンをやってたのか、はたまたテニスなどの類似競技をしていたのか、とにかく上手かった。ゲームをしてても、負けたところは今のところない。細かく動いては強打で攻める、かと思えば軟打で緩急をつけて敵を翻弄する。ゲームの組み立て方が上手いんだろう。
最後の一本を決め、浅見たち女子ペアは男子ペアを下した。また勝ったよあいつ。
達成感に満ちた浅見は、コートの脇に立っていた俺のところにやってくる。俺はゲームの前に投げ渡されたタオルを投げ返し、「お前強いんだな」と浅見に意外だと伝える。
「でしょ? これでも中学はテニス部だったんだ~」
「なるほど、その名残か」
「そういうこと。相馬は? バドミントン経験者?」
「いや、授業でやる程度だよ。そこまで上手くない」
「そうなんだ。経験者だからこのグループに放り込まれたのかと思った」
「何事も程々にできるだけですよ。買い被られても困る。たぶんこの中では一番弱いと思うよ」
客観的な評価をして、実際本当にそう思っている。
運動部に入ってた訳じゃないし、スポーツごとに熱くなることもなかった。中学は運動部と類似する、マイナー体育会系に所属していた関係で鍛えてはいたが、今は帰宅部だ。昔よりスポーツごとに離れてしまって、筋力も落ち気味だろう。あと二年もすれば腹筋がプルプルになるに違いない。
なので悲観も何もなく、弱いと言える。
「ふ~ん」
浅見は興味なさそうに相槌を打つ。まあ面白い話でもないしな。
次の人たちが中に入る。今度はシングル戦が始まったのか、先程浅見に負かされた男子二人がコートに入った。
順番的に俺かと思ったが、積極的にコートに入らない限り、順番でどうこうはこの場において関係ない。やりたい奴がやるのだ。
またこれから数分間暇になるなと考えていたが、突然「次、試合してよ」と浅見が頼んできた。
「試合するぶんには別にいいけど、俺そんなに強くないぞ?」
「わかってるわかってる。けど~。やっぱり試合するんだからさ、ただ試合するだけじゃ面白くなくない?」
何かを企んでいる顔だった。そしてこういう勝ち負けが絡んでくる物事において、定番とも言えることを持ちかけてくる。
「次の試合、勝った方が負けた方の言うことを聞くとか」
「それ、完全にお前の一人勝ちじゃないか。ふざけんじゃねぇぞ」
俺は弱いって言ってるのに、何を抜かしてるんだこいつは。これじゃあ俺は、なす術なく殴られるだけだ。不公平過ぎる。
「それもわかってる。ちゃんとハンデをつけてあげるからさ」
「そのハンデってなんだ?」
「私はワンゲーム先取、相馬はその半分以下の五点でいいよ!」
こいつ。大きく出やがったな。
確かに俺は強くない。むしろ弱い。だがそれでも、五点ぐらいだったら浅見相手でも取れる自信はあった。
浅見は俺が弱い弱いと連呼したことで、自分でハンデを上げに上げまくってくれたのだろう。いや、もしかしてそれでも勝つ自信があるのだろうか? だとしたら笑止。いくらお前でもそのハンデは多き過ぎるぞ!
「いいだろう。俺は五点先取。浅見はワンゲーム。十一点先取だ。二言はないだろうな?」
変えるなら今だぞ? と、弱い癖に強者ムーブをするが、浅見は笑いながら「全然OKだよ。むしろ一点も取らせずに完封してあげる」と強気に出た。
「その言葉、後で後悔させてやる」
「そっちこそ。
かくして、俺と浅見の賭けは成立した。
最近調子に乗ってるこいつに、お灸を添えるいいチャンスだ。このさい全力で叩き潰してやる!
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