第154話(サイドt):いっちょ頑張りますか
部活対抗リレーも終わり、参賀していた人たちも合流してようやく体育祭最後の種目、紅白対抗リレーが始まる。
走者はグランドのトラック半周を走り、手に持ったバトンをアンカーに繋いでいくだけの、見た目は本当にただのリレー。ただ最終種目とあって盛り上がりが最高潮であったり、得点の配分が大きかったりと、色々と優遇されている種目でもある。
なので大抵この種目には足の速い人が起用されるのだが、何の冗談か徒競走でも足の遅い部類に入る私が選ばれてしまった。
選ばれたというか、くじ引きなんだけどね。
自分の不運を呪いたいところではあるが、それでもやるからには真面目にやるのが私だ。例え足が遅かろうが何だろうが、この一瞬だけは全力でやる。でないと他の人に申し訳ないしね。
「よっしゃー! 白組勝つぞ!」
アンカーを飾る白組団長の3年生が大きな掛け声を上げると、特に打ち合わせをしてないにも関わらず、なぜが皆「おーーーー!!!!」と大きな声を上げる。それに負けじと、紅組の方も「ぜってー勝つぞーー!!!」と団長が声を上げ、それに呼応するように紅組の人たちも空に向けて手を掲げて「おーーーー!!!!」と掛け声をあげた。
なんだかステージに上がる前の気合入れみたいで、テンションが高まる。あんまり暑苦しいことは好きじゃないけど、こういうノリと空気はわりかし好きだ。
『ただいまより。紅白対抗リレーを始めます。参加している生徒は、入場してください』
アナウンスが入り、全員が駆け足で一斉に走り出す。私たち偶数番の走者は学校とは反対側、生徒たちの応援スペースの方に。奇数番は父兄のいる校舎側に集まる。9対9のリレーで、アンカーがグラウンド1週なので、ゴールは必然的に父兄側の方になる。
位置について、第二走者である私はすぐにレーンに入る。
さすがにちょっと……緊張するな。
ステージに上がる時に感じる不安と、少しだけ似てる部分がある。練習してきたからこそ、うまくやろうという気持ちがそうさせているんだろう。
ただ私はもう何度もそういう経験をしてきた。これでもバンドマン。立ってきたステージの数が違う。うまくやる必要なんてない、ただ普通に、自分の持ち味を発揮すればそれでいい。
気持ちを落ち着けていると、何故か観客席の女子たちが騒ぎ始める。視線の先は奇数番の走者がいる側のようだったのでそちらを見る。原因が分かって眉間に皺が寄った。
なんかわかんないけど塚本がこちらを見ていたのだ。そしてあいつは、私の視線が向くとすぐに親指を立ててグッドサインを作ると、女子たちは「キャーー―!!」と黄色い声をあげた。
たぶん私に向けて、お互い頑張ろうぜ的な意味でしたと思うけど、私を通り抜けて後ろに女子たちの燃料となった。
ここで大っぴらに動くと女子たちから嫌な視線を向けられることはわかっていたのでスルーしようと思っていた、けどあいつは特に悪いことはしてないわけで、ただ応援してくれているのも知っている。何もリアクションを返さないのは、あまり気分がいい物ではない。
なので後ろの女子たちに見えないように体で隠しつつ、ほんの少しだけ手を振ってやった。するとあいつは満足そうに微笑んで、第一走者の安達くんの方を向いて何か声か掛けをする。
なんか……うまく乗せられたような気がして癪に障る。けれど、不思議と悪い気分ではなかった。
「いっちょ頑張りますか」
静かに気合を入れ直すと、スタートを担当する先生が「よ~い!」とスターターピストルを上に掲げた。
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