第153話(サイドt):なんの決意?

 借り物競争が終わり、次は部活対抗リレーが始まる。そろそろ体育祭も大詰め。部活対抗リレーの後はおおとり競技、紅白対抗リレーが行われる。

 そのため競技に出る生徒は準備のため待機場所に移動となるのだが、正直なことを言えば待機なんてほっといて紗枝たちが戻ってくるのを待ちたかった。


 だってあの紗枝が、競技とは言え思い人の手を引っ張ってそのままゴールしたんだよ? これは親友としては褒めてあげたいじゃないか。まあ周りに幸恵と瑠衣がいる以上は大手を振っておめでとうなんて言えないけど、それでもやったね! ぐらいは言いたかった。


 ただ他の人に迷惑をかけるわけにも行かないので、気持ちを押し殺してここに来た。


 組ごとに走順で2列に並ぶ。奇数が右で、偶数が左。部活対抗リレーに出ている人もいるので、開いてるところはひとまず開けておくことになる。なので私の右斜め後ろの3番目のところは、ありがたいことに空席だ。


 バスケ部のエースである塚本が、さすがに出ないんてことはないからね。あいつの出番はまだっぽいけど、たぶん走る時になったら女子たちの黄色い声援で会場が湧き上がるだろう。

 その塚本と言えば。先ほどの借り物競争で佳代のお題として連れられたわけだけど、内容を聞かされて納得した。彼女が引いたお題は、学校一のイケメンと楽しそうにゴールすることだったのだ。

 さすがにこのお題なら、あんなふうに手を繋いでスキップしながらゴールするわけだよ。実際、すごく楽しそうだったし。聞かされた女子たちもさすがにこれには納得するしかなく、怒りはどうにか収まったようだったが、代わりに羨ましいという嫉妬の炎が燃え上がっていた。


 まあ女子たちからしたら、あいつとあんなことできるのは本望でしょう。私は絶対ごめんだけどね。手を繋いだ瞬間に鳥肌立ちそう。


「キャー!!!!!!」


 そんなこんな考えている内に、どうやら塚本の番が回ってきたようだ。あいつのことだからアンカーかなと思っていたので、思いのほか早いお出ましでビックリしている。たぶんこの後に走ることになるから順番を調節したのかもしれない。


 しかしまあ……すっご。


 部活対抗リレーはただ走るだけではなく、部活ごとの特色を生かした走り方で競うお祭り競技だ。例えば野球部だったらグルグルバットをしてから走るとか。サッカー部だったらリフティングしながら走るとか。剣道だったら素振り10回やってから少し進むとか。そういう縛りをいくつもかして、全然ゴールしないのが面白い競技だ。

 基本的には運動部しか参加しないが、申請があれば文化部も参加したりできる。ただうちの軽音楽部はやれることが少なく、かつ面白くできなさそうだったので残念ながら辞退した。

 こういう競技は笑いを取ってなんぼだからね。ただ楽器持って走るだけなんて面白くない。

 ちなみにバスケ部は、パスを回しながら進むグループと指先にボールを乗せてクルクル回すやつをするグループの2つに分かれている。塚本はクルクル回す方。

 小学校……いやいまだにあれをする男子を見たことはあるけど、絶対あれって難しいよね。普通、ボール指先に乗せたままあんなふうに走れないって。


 けれどそれを難なくこなすのが塚本誠治という男なのだ。走ってる間に一度もボールを落とすことなく、次の人にバトンという名のボールを渡す。ああいうことがスマートにできるからこそ、この男がモテるのだろう。

 しかもしっかり女子たちの声援にも応え、ちゃんとファンサをしたりと抜け目ない。ウゼェ~。


 あいつが喜ばれるたびに眉間に皺が寄っていく気がする。あんまり気にしてても仕方がないんだけど、やっぱりあいつのああいう姿を見るとイライラしてしまう。


「寺島先輩って……」

「ん?」


 唐突に、隣に座っている一年の安達くんが声をかけてきた。


「塚本先輩のことよく見てますよね」

「……え?」


 見てるというか、あんな目立つ奴を目に入れない方が難しくない?


「やっぱカッコイイですもんね、塚本先輩。俺たち一年の間でも、すげぇー人気なんすよ。特に女子から」

「まあ、それは仕方ないでしょ」


 見た目だけはカッコイイし。


「でも、男子からも結構尊敬されてて。バスケ部の友達とかもやっぱすげぇー人だって……」

「へぇ~」


 あいつがそんなに尊敬されてるなんて。まあ確かに運動はできるだろうし、頭も悪くないし。いつも夜まで体つくりとか頑張ってるみたいだしな。そう考えたら、確かに後輩からは尊敬されたりするか。


「でもだからこそ、負けたくないって思うんですよ」

「うん? うん。頑張って」


 なんだか決意に満ち溢れている安達くんだけど、なんでそんなに意気込んでいるのかがわからなかった。とはいえ、努力することは悪いことではないので、私からは応援の言葉をかけることしかできない。


「俺、頑張りますからね!」

「えっ? うん……頑張ってね」


 うまく話が嚙み合ってない自覚はあったが、何をどうしてあげればいいのかわからず無難な返しになった。安達くんは少しだけ寂しそうな表情をしたが、パッと表情を切り替えてなぜか私と塚本の関係について聞き始めた。

 正直、私としてはあまり話したい内容でもなかったので、それとなく合わせながら適当に流すのだった。

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