第168話(サイドh):かなり怪しいんだよね~
「とりあえず、曲目はこんな感じで。二日目はオオトリ任されちゃったし。半端なことはしたくない」
久しぶりのバンド練習。最近は私が文化祭実行委員やらなんやらで忙しかったこともあり、四人でこうして合わせて演奏することも懐かしく感じる。
音楽室の隅っこで、四人でスケジュール表を確認中。バンドリーダーである寺氏が一日目と二日目のセットリストの説明を終えると、ドラムの
今回のセットリストには、私たち
オリジナルの一つは私が無理を言ってお願いしたものだけど、残り二つに関しては寺氏が独断で決定したものになる。ちなみに私への相談は一言もなかった。
バンドのセットリストの決定権はギター&ボーカルの寺氏と、ベース&ボーカルの私がほとんどを握っている。彩菜と望愛の意見が採用されることはもちろんあるけど、最終的には私たちが歌えるかどうか。曲を仕上げられるかどうかになってしまう。
歌いながら曲を演奏するのは、慣れていたとしてもパッとできるものではない。曲を覚えててもミスをするし、合わせるのも苦労したりする。
そのため、私たち二人で会議して、後で四人ですり合わせる方が効率的だったりする。
だというのに。寺氏は私に一言も相談しなかった! 一言も!
なので少しご立腹ではある。
「それにこれ……やるの? アストラ」
「本当に珍しいよね~。最後にやったのって……三か月前? 今から合わせられるかな~」
そう。なにより解せないのはこのアストラだ。この曲は私たちが結成当初に、寺氏が元々作っていた曲に四人で手を加えた、私たちのデビュー曲でもある。去年の後夜祭で初めてお披露目して、それからライブに呼ばれた時に何度か出したぐらい。やっぱり初めて作った曲だから、そうそう表に出ることなんてない曲なのだ。
それを文化祭の、しかも二日目に持ってきているんだから、驚きもするだろう。
「やる。たまにはほら……原点に戻るじゃないけどさ。そういうのあるじゃん。それにたまにやらないと、曲忘れちゃうし」
なんだかそれっぽいことを言っているけど、これは明らかに嘘をついている。寺氏という人間を知っているならば、彼女がこんな安っぽい言葉を吐く人じゃないことは容易に理解できるはずだ。
だからこそ疑問なのだ。強行してまで『アストラ』、そして『ミモザ』を使うわけがない。
ミモザは、女の子受けも狙っていこうと作った、恋をテーマにした楽曲。寺氏が唸りながらなんとか書き上げて、そのあまりの純粋さと奥ゆかしさに思わず感動してしまった曲。少なくともここにいるバンドメンバーは、その歌詞に共感をした。
ただ寺氏に言わせると「あんなのはただの黒歴史だ」っていう話なので、彼女が自分から歌おうと言い出すことがなく、私たちがあの手この手でなんとか引っ張り出す曲で、そのため練習でもあまりやったりしない。
彩菜と望愛に目配せすると、彼女たちもさすがにおかしいと思っているのか、少し困った様子で顔を見合わせた。
寺氏がなんでこの曲を選んだのか理由はわからない。たぶん聞いたところで何食わぬ顔で、はぐらかすだけだろう。ただ私には一つだけ思い当たる節がある。ここ最近、体育祭を超えたあたりで少しだけ寺氏の雰囲気が変わったのを感じた。
「そういえば……」
つついてみるか。
「塚本くんってこの曲好きだったよね~」
わざとらしいまでに話題を変えると、寺氏もわざとらしいまでに無表情で「ふ~ん」と興味なさげに返す。
もうこれではっきりしただろう。バンドメンバーならほとんどが知っている。寺氏には塚本くんの話題はほぼNG。話題にだせば必ず嫌な顔をするというのに、この薄い反応……明らかに彼女の感情に変化が訪れている!
「えっ? ちょ……マジか寺――」
何かを口走りそうになった彩菜の口を、望愛と私で抑え込む。
突然目の前で繰り広げられる光景に寺氏も肩をビクリと震わせ、戸惑った顔で私たちを見るが、私はいつも通りの笑顔で「まあ原点に帰るのもありかもね~」と適当にかぶせ、望愛も「私もアストラ、久しぶりにやりたかったんだ~。ミモザもいいよね~」と何を考えてるのかまったくわからない真顔で答える。
「そ……そう……」
若干引き気味になりつつも、今日の練習内容について話始める寺氏。私たち三人はそれを聞きながらも、ひとまずここは泳がせておこうと、アイコンタクトでやり取りをするのだった。
後ろの女子がちょっかいをかけてくるのですが 滝皐(牛飼) @mizutatu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。後ろの女子がちょっかいをかけてくるのですがの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます