第119話(サイドh):好きな私でいたい

 なんか予期せぬ形であの二人を引き離すことができたけど、さすがにデートってわけにはいかなかったな~。


 放課後。あさみんと瀬川っちの誕生日プレゼントを買うという口実で、なんとか相馬を連れ出すまでは良かった。けれどその買い物に当然のように寺氏が付いてきて、結局は3人で仲良くお買い物となってしまった。

 ちなみに新嶋ちゃんはバイトがあるため泣く泣く離脱。「なんでこんな面白そうな時にバイトなんですかね~」とかなんとか、ぶつぶつ呟きながら駅の改札を抜けていった。


 今、私たちが来ているのは学校の最寄り駅にあるショッピングモール。ここは多くの学生が頼りにしているレジャースポットで、食べるものもあり遊ぶところもあり、ある程度なんでも揃っている優秀な施設だ。

 もちろん、意中の人へのプレゼントなんかも売ってるだろう。高校生にも優しい良心的な価格のお店もいくつかあるので、お目当ての物が見つかるはずだ。


 本当は二人っきりで来たかったけど、こればっかりは仕方ないよね。それにあさみんや瀬川っちの誕プレ選ぶんだったら、仲のいい寺氏がいてくれた方が参考にはなるし。


 自分の欲望はあれど、目的は誕生日プレゼントを選びだ。それを間違えてはいけない。正直あの二人とはあまり仲がいいとは言えないけれど、むしろライバルだと思っているけれど、仲良くなりたくないわけではないのだ。

 奇跡的にも同じ人を好きになった女の子たち。彼女たちがどういう気持ちで相馬と向き合っているのか、どれくらい大きな思いを持っているのか、興味がないわけがない。

 知りたいと思っている。知って、仲良くなりたいと思っている。ただそれでも、相馬を渡すつもりなんて毛頭ないけど。


「ひとまず、どこ見ようか?」


 隣にいる相馬と、その奥にいる寺氏に話かける。

 ここは寺氏が先導してくれるものと思っていたが、ジッと隣で考え込む相馬を見ていた。


 寺氏が付いてきたのは、相馬にあさみんが好きそうな物を買わせるためだと思ってたけど……意外に相馬の意見を待つんだ。


 十分に考えた相馬は、眉間に皺を寄せて「ダメだ。ノーパソしか出てこねぇ」と、かなり高価なものを思い浮かべていた。


「ノーパソは高すぎじゃない?」


 いくら仲のいい関係でも、突然ノーパソプレゼントされたらさすがに重すぎて引くレベルだよそれ?


「いや、紗枝が前にノーパソ欲しいって言ってたの思い出して。よくよく考えたら、俺はあいつの欲しい物ってそれぐらいしかわからないなって。幸恵は幸恵で、あんまりそういう話題にもならないからさっぱりだし。意外になんもわかってないんだな、俺」


 普通に他人のことなんて、そうなんでもわかるものじゃないと思うけど。そういうところで気を使っていると、いつか相馬がハゲそうで怖い。けれどそれは、理解したいという彼の意思表示でもあり、それだけその二人が彼の中で大きなものなんだと言うことになる。


 妬けるな~、本当に。いっそのこと、適当に当たり障りない誕生日プレゼントでも選ばせてやろうか。


 そう考えて、そういう風な思考に至ってしまう自分に嫌気がさす。


 嫉妬心が悪いものとは思ってない。これはそれだけ、相馬のことを思っている証だから、私はそれをしっかりと肯定する。けれどもその心に任せて、人をむやみに傷つけるのは違うと思う。

 ちょっとのイタズラなら目を瞑ることはできるけど、これはそれで済む話じゃない。

 それにそんなことをすれば、私は相馬に失望されてしまう気がする。


 私が何より怖いのは、好きな人に嫌われることだ。


 いままで本心を隠してきて当たり障りなく生きてきたから、誰かに本気で嫌われることも、誰かに本気で好きなってもらおうと思うこともなかった。だからかもしれないけど、関係を築きたい相手に拒絶されるのが怖い。

 だから嘘をつくのかと言えば、それもそれで違う。

 私はただ、彼に好きだと思ってもらえる自分でいたい。彼が心の底から、日角瑠衣を好きだと言えるような、そんな自分でいたのだ。

 無理をしていると言えば、そうなのかもしれない。けれどそんな自分も肯定してしまう。それだけ恋というのは、人を変える力がある。


「なら今日は、いろいろ見て回らないとね。ちゃんと二人に喜んでもらうもの、見つけよ?」

「うん、そうだな。頼りにしてる」


 何気ないその一言に、心躍る自分がいる。


 結構単純なんだな~、私って。


「任せて。ねっ、寺氏」


 そう声をかけると、寺氏は「えっ? まあ……そうね。最善は尽くす」と、武士かよ。とツッコミたくなるような返事をした。


「ひとまずは適当にぶらつこっか」

「おう」


 そうして、私たちはプレゼント選びに向かうのだった。

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