第150話(サイドa):その借り物はなんですか?
体育祭も後半に入り、ようやく私が担当する競技がやってきた。
私は種目決めの時に後半にまとまるようにした関係で、前半戦は観戦と応援しかしてなかったので正直暇だった。
まあぶっちゃけ、それどころじゃない精神状態だったので、今ではこの構成にしてよかったなと思う。たぶんあのまま競技に入ってたら、ボロボロな結果だったに違いない。運動ができる女子としては、あんまり他の人に見られたくない姿だ。それに調子が悪いところを見せれば、たぶん優にも心配されると思う。それは個人的にはとても嫌なので、色々と気持ちを切り替えてベストな状態になった今を見てもらいたい。
全然運動してなかったので、待機場所で体を伸ばしながらそんなことを考えていると、「元気そうですね」と隣にいる新嶋さんに声をかけられる。
「さっきまでとは別人みたいです。何かいいことでもありました?」
午前中のことを言われているのだと思って、苦笑いする。確かのあの時の私は元気がなかったな。
「ちょっと、気持ちが楽になったからかな。ちょっとだけね」
覚悟が決まったとは言え、今までの自分のキャラを少しずつ戻そうとしているのだ、言葉とは裏腹に気持ちにはまだ不安が残る。
でもそれを含めて私だし、これから長い付き合いをしていこうと思うなら、好きな人には私の弱い部分も見せていきたい。こういう人間なんだよって、もっと知ってもらいたい。
「よかったです。少し心配だったんで」
彼女に心配されるというのが少し意外に思ったが、その気持ちがすごく嬉しい。
「心配してくれてたんだ、ありがとう」
「そりゃしますよ。友達ですからね」
素直に気持ちをぶつけられると、それが少しこそばゆくて照れくさくなる。
『ただいまより、学年別、借り物競争を行います――』
放送部のアナウンスを合図に、まず待機していた1年生が移動する。その後ろについていくように、私たち2年生も入場した。
借り物競争は先ほどのアナウンスにもあったように、学年別で各三回、計六回行われる。参加者はスタート地点からほど近いおみくじ箱の中から借りてくるお題を引き、それに合った人を連れていく仕組みになっている。
例で言えば、バスケ部の人とか、柔道着を着てる人とかそういうの。この後に部活対抗リレーを控えてることもあって、そういうのをグランドに持ってきている人が多いからこそできる競技でもある。
他にはちょっと色物があるとのことだが、それは引いてからのお楽しみ。そして学年ごとにお題がなるべく被らないようにしているとのことで、色物お題も各学年によって変わっていたりするらしい。
「変なのがでないといいんですけど」
「ねっ。学年のプリンス~とか出るのかな?」
「それは2年生限定じゃないですか? でたらでたで面白いですけど」
雑談をしながら、先を行く1年生の競技を見守る。お題を引いては観客席の方に向かい、お題にあった人を連れていく。スムーズに行っている人もいれば、中には中々見つからず右往左往してる人も。
お祭り騒ぎに観客席のテンションもどんどん上がっていっている。
『では最後にゴールした方のお題を確認します!』
そしてこの競技において最も楽しいと思えるのはおそらくここだろう。お題の答え合わせ。
『お題は! 髪が長い人!』
そして、男女にゴールをした時だ。
司会の人がお題を読み上げて、髪の長い人で一人の女子を連れてきた男子。競技としては別におかしな部分は一切ないけど、野次馬根性というかなんというか、どうしてもそういうことを連想してしたくなるのだ。
『ということで成功ですが! どうして数ある中からこの子を連れてこようと?』
マイクを向けられた男子は『えっと、女子の中では仲がいい方なので』と遠慮気味に言葉を選びながら答える。
『なるほど。とのことですが?』
今度は女子の方にマイクを向け、彼女は『そうですね。あの……クラスでもよく話かけてくれたり、優しくしてくれたり』と恥ずかしそうに答える。そして何事も見逃さないのが司会者のすごいところで、すかさず『ちなみにどんなところに優しさを感じますか?』と追撃する。
あからさまに戸惑っていたが、『その……気遣ってくれるところとか、必ず朝とか帰りとか挨拶してくれるとか……ちょっとこれは優しいとは違うのかな?』と照れながらも話してくれる。
そのういういしさに、見てるこちらも恥ずかしくなっていく。
『なるほど~。やはり大切にされてるって思うと、こちらも嬉しいですもんね。どうですか? こう言われてみて』
まだ男子の方にマイクを向け、彼は『いや……嬉しいです』と恥ずかしそうに答える。
『はい! いただきました! ということで、残念ながら6位という結果になりましたが、後で特別点を上げます! あっ、ない? そっか~……まあちょっと残念ですが、まだまだ逆転の余地はありますので、続いて2年生グループ行ってみましょ~!!』
司会者の陽気な進行に、観客や応援席も大いに盛り上がる。
「さて、行きましょうか!」
気合を入れ直す新嶋さんに引っ張られ、私も「がんばろ!」と気合を入れる。
「異性を連れてくのは勘弁ですね」
「あははっ……」
私もそれはあんまりだけど、もしも優を連れていけるようなお題だったら、それはそれで嬉しいかもしれない。
まあそういうお題が引ける確率はそうそうないだろうけどね。
2年生の1組目、私と新嶋さんは初っ端なので、スタートラインに並んだ。
『それでは1組目! よーい……スタート!』
スターターピストルの合図と共に、全員が一気に駆け出す。私は足が速いということもあってか、一番乗りでおみくじ箱に辿り着いた。手早く引いて、他の人の迷惑にならないように少しよけて、四つ折りに折りたたまれたお題が記された紙を広げる。
「これって……」
まさかのお題に、目を見開いた。
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