第149話:やっぱり大きいですね
阿鼻叫喚の応援合戦が終わり午後の部が始まる。
ここからは個人競技はなく、全てが団体競技や色物競技などが行われる。部活対抗リレーや借り物競争、障害物リレーなど多種多様で、一つの競技が終わるたびに少し長めに入れ替えの時間が入る。しかし一つ一つの競技に見どころが沢山詰まっているからか、不思議と見てる側は飽きがこないのだ。
ちなみに俺は前半で全ての競技を終えることになるので、ここからは観客席でゆっくりと過ごせる。
今は幸恵が参加している玉入れ競争が行われている。隣には足を怪我した関係で競技に出れなくなった日角と、最後の最後に出番があるためまだ時間がある寺島と塚本しかいない。紗枝と新嶋さんはこの後、借り物競争で出番があるから待機場所に移っている。
玉入れはなかなか白熱しているが、観客席では男子たちが白熱していた。彼女が玉を拾って頑張って籠に入れようと全力で投げる姿に、なぜか男子諸君は「お~……」という感嘆の声が漏れているのだ。
まあ言わずもがな。たわわに実る彼女の胸が原因だろう。
投げる玉が全く入らず、高さを出すためにぴょんぴょんと飛び跳ねているせいで、あの二つの大きなふくらみがすごく……上下してしまうのだ。
それを見ない高校生男子はまずいないだろう。どうしたって目につく。かくいう俺も、恥ずかしくなりながらも目で追ってしまう。
「これだから男子は……」
冷ややかな声と、幸恵の胸という単語に敏感に反応してしまい、肩が跳ねた。俺の隣に座る日角は、難しい顔をしながら後方で観覧している男子たちを見ていた。
自分のことを言われたわけではないので少し安心したところがあるものの、バレれば冷ややかな目を向けられると思うと、自然と申し訳なさが勝ってくる。
でも仕方ないんだ。あれには目を逸らそうとも、逸らすことのできない魔力が備わっているんだ。俺の意志ではないんだ。
「っで? やっぱいいものなんですか?」
日角は突然こちらに振り向き。満面の笑みで返しにくいワードを、渾身のストレートで投げてきた。いつものような天使の笑顔だが俺にはわかる。これは確実に怒りがにじみ出ている。
「それは……人それぞれじゃないか? なあ塚本」
問答から逃れるために塚本に話題を振るが、あいつもあいつで隣にいる寺島が圧力をかけているためか、「どうだろうね~」と曖昧な返しをする。
「男子って胸大きい子、好きだもんね~」
追撃の手を緩めない日角に、何も言えずに押し黙ってしまう。同意しても軽蔑され、否定したとしても疑惑の目を向けられる……これはもはやつんでいる。
さらに言いずらい状況を作っているのは、隣にいるのが寺島と日角というところだ。彼女らは言ってしまえば小ぶりな方で、紗枝や新嶋さんと比べても足りないと思う。特に寺島は。
新嶋さんは見ただけだからなんとも言えないが、紗枝は意外にもあるというか……思ったよりも大きいというか。何度か押し当てられた過去があるので、ほんの少しはわかっている。
それと比べてしまうと、まあうん……確かになと思わざる終えない。けれどそんなことを女子に言うなんてセクハラだし、失礼だろう。
ここは黙ってサンドバックになろう……。
覚悟を決め、背筋を正して心を無にした。
「大きい方がいいのかな……」
小声で何かを呟いたような気がして、日角の方をチラリと確認する。
彼女は前かがみになって、自分の膝に頬杖をついて難しい顔をしていた。見つめる視線の先はもちろん幸恵。日角も何か思うところがあるのかもしれなかったが、触れたら触れたで返答が怖かったので口をつぐむ。
応援はしつつも妙な空気が流れる中、競技は終わった。
~~~
「戻りました~」
満面の笑みの幸恵が戻ってくると、各々「お疲れ~」「勝ったね~」など幸恵を労う。
「勝ててよかったです」とやりきった様子で、日角の隣に座るとホッと胸を撫でおろすが、「けど、きっと私がへたくそだったんですかね」と今度は落ち込んでしまった。
「いや、別にそんなことはないんじゃないか?」
見てる限りでいえば、幸恵も頑張って籠に玉を入れていたようにしか見えなかったし、周りの人も皆同じように玉を投げ入れしてるんだから、へたくそどうこうは見た目で判断はできないと思うんだが。
しかし本人は「そんなことないです!」と断言する。
「だって、すごく見られてましたもん!」
その言葉を聞いて、脳裏に浮かんだのはあの光景だった。そしてそんな俺の様子があまりにも露骨だったからか、幸恵は「やっぱりそうだったんですか!?」と心配そうに尋ねてくる。
そんなことはなかったよと言いたい。けれど言ってしまえばなんで見られていたのかも説明しなければならない。それを俺や塚本のような男子がするのは酷というものだろう。しかし周りにいる女性陣は一切手を貸してくれないようで、ジッと俺の言葉を待っている。
何かうまい言い訳を考えなくては!
「がっ……頑張ってる姿が良かったんじゃないかきっと! 応援だよ!」
言ってて、少し苦しいか? とも思ったが、幸恵は「応援……」と言葉を噛みしめると、「そうだったんですね!」と満面の笑みを浮かべる。
なんとか危機的状況は去ったものの、両隣の女子の視線が苦しい。
その後、嬉しそうに玉入れで頑張ったことを話す幸恵に罪悪感を覚えながらも、世の中には知らない方がいいこともあると自分に言い聞かせ、女子たちの冷たい視線をやり過ごした。
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