第148話(サイドt):意外にも謎が多い
昼食後には、体育祭イベントの一つでもある応援合戦が行われる。女子たちが騒いでるせいですでに私の耳にも入ってるが、なんとわが白組には学校の
ただ聡明な人はすでに気づいていると思うけど……はい、なぜか知らないけど情報が洩れてるようです。
サプライズだって言うのに、きっとこらえ性のない誰かが口を滑らしたのだろう。おかげで昼食の時から塚本くんが塚本くんがって、周囲の女子たちがうるさいのなんの。
こっちはゆっくりご飯が食べたいっていうのに、余計なストレスが溜まってしまった。
それに気がかりなこともあったから、できれば無駄なことに頭を使いたくなかったんだよね。
グラウンドの座席に戻る最中、右隣で幸恵と楽しそうに話す紗枝を見る。
午前中に何があったのかわからないが、えらくスッキリしたような雰囲気だった。だからと言って上機嫌ではなく、むしろ少しだけ落ち着いた様子で、大人びても見えた。
もしかしたら相馬とのあれこれが解消されたのかもしれない。結局何についてモヤモヤしてたのかわからないが、大丈夫そうならそれに越したことはない。
ただその一方で、こちらの方が問題かもしれない。
私の左隣で少し元気のない様子を見せる瑠衣。前半で体力を使い果たしたのか、明らかに疲れているように見える。
疲れているだけならまだいいのだが、ご飯を食べている時もやけに消極的で、特に紗枝にたいする態度がよそよそしい。普段からべたべたするような間柄ではなかったが、それでも明らかに避けているような雰囲気を感じ取れる。
そういや、保健室から帰ってきてから様子おかしかったからな~。
何があったのかわからないが、ちょっと不安になる。
座席に戻り、各々席に着いたところで、教室に水筒を置きっぱなししていることに気が付いた。
「しまった。ちょっと教室戻るね」
「うん。忘れ物?」
紗枝の問いに「水筒」と完結に伝えて踵を返す。するとそれに便乗するように「あっ、私も行きます!」と佳代が手を上げた。
「飲み物買わないといけないので」
「とりあえず行ってくるね」
「は~い」
~~~
「浅見さん、なんだか雰囲気変わりましたね」
一度教室に戻り水筒を確保した後、飲み物を買いに行く佳代に付き添う。佳代は自販機でスポーツ飲料を買うと、唐突にそんなことを切り出す。
思い当たる節はあるが、私からするとさほど違和感を感じることはなかったので首をひねる。
「そんなことはないと思うけど」
「そうですかね~。なんだか懐かしいといいますか……」
「懐かしい?」
1年の時のことを言ってるのかな? でもその時から佳代って紗枝と仲良かったっけ?
「はっちゃけてる浅見さんもいいですけど、私は今の雰囲気の方が好きなんですよ」
「……あんたの口からそんな言葉が出てくるとはね」
私が佳代と仲良くなったのは2年の頭。けれど数か月経った今もこいつについては、よくわからないことが多すぎる。普段からおちゃらけてて突然訳のわからないことをするけど、実は計算づくのような気がしないでもない。
瑠衣以上に腹の底が見えない。でも何かを考えていることは確かだと思ってる。
そんな風に自分を隠すこいつが、屈託のない顔でそんなことを言うとは思ってもみなかった。あまりにも珍しい。
しかし本人からしたら心外だったのか、頬を膨らませ「私をなんだと思ってるんですか? 失礼ですよ寺島さん」と怒る。ただわざとらし過ぎて何も言えず、眉を顰める。
そんな私の心情をキャッチしたのか、急に真顔に戻る佳代。「まあそんな時もあります」と話題を切り替えてきた。
「けど不思議なことは何一つないですよ。これでも浅見さんのことは好きなんです。もちろん寺島さんや瀬川さん、日角さんのことも好きです。友達として」
「そう。まあ、ありがとう」
直球で言われるとさすがに照れるな。
「ただ別にわからなくてもいいんです。私が好きだろうがなんだろうが、知らなくていいんです」
「は? 意味わかんないんだけど」
突然、脈絡もなく重めの話が来た。他人との付き合い方は人それぞれだと思うようにはしてるけど、こいつの考えは理解できない。誰かに自分の気持ちを知ってもらいたいと思うのは普通だから、それをいらないというこいつの気持ちが嫌な気持ちになる。
「言葉で直接確認を取る必要がないというだけですよ? 気持ち的に雰囲気で伝わってればいい、ということです」
「ああ、まあそれなら」
多少は理解できるけど……。
恥ずかしいから口に出せないこともある。特にこの手のものは顕著だろう。私も普段からそんなことは言わない。
頭っから突然全否定するものだから戸惑ったけど、そういう気持ちだったらわからなくない。私だって紗枝のことは好きだけど、それを口にするのは難しい。
「なので私としては、この件は内密にしてほしいということですね」
珍しく照れくさそうに、人差し指を唇に当ててお願いをする。その姿も意外すぎて、なんだから調子がくるってしまう。
「わかったよ」
「さすが寺島さん。そういうところが大好きです」
「やめろそれ。キモイ」
明らかに嘘とわかる甘えた声に鳥肌が立った。
「早く戻るよ」
「は~い」
自販機を離れ、グラウンドに向かう。正直見なくてもいいかなと思うが、いなかったら紗枝たちを心配させてしまうので戻るしかない。
それに、少しだけ佳代の素顔を見れて気分もいいので、応援合戦くらいは黙って見といてやろうと思った。
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