第137話(サイドt):塚本くんも男の子
私の家からほど近いところにある公園。私たちが小学生のころはほとんど毎日のようにそこに訪れては、夕方の5時の鐘がなるまで遊び倒していた。
子供のころだったから特に何も気にするようなこともなく、一緒にいるのが楽しかったからただ遊んでいた。
こんな話をしても、きっと紗枝も幸恵も信じてはくれないだろうと思うけど、これでも私と塚本は幼馴染だ。最初っからこんな関係だったわけじゃない。それこそ輝かしい幼少期時代と言うか、忘れたい黒歴史というか……ただ私は、夢を見ていただけなんだろう。
「二人で来るのは、なんか懐かしいね」
「……そうね」
公園の前に辿り着くと、さすがに夜も遅いこともあって園内には人の気配がない。遊具が街頭に照らされたポツンと佇む姿は、少しだけもの悲しさを感じさせる。
体が大きくなったからか、久々にちゃんとみる遊具のサイズ感に驚く。ブランコ、ジャングルジム、滑り台。あんなに大きいと感じたこれらが、いまじゃ一回りくらい小さく感じてしまう。低身長の私がそう感じるんだから、きっと180cm以上の塚本は相当だろう。
「ブランコってこんなに小さかったっけ?」
「背伸びしたら、上に届くかもね」
「さすがに……届きはしなかったね」
「もっと身長伸ばしたら?」
「一応、去年から1cmは伸びたんだけどな」
まだ伸びるのかこの男。
2つあるブランコに、それぞれを腰を落ち着かせる。ベンチでもよかったんだけど、なぜか自然とこちらの方に来てしまった。
「昔もよくこうしてブランコで遊んだよね。飛距離競ったり」
「確かにやったね。なぜかあんたには勝てなかったけど」
「あのころから、真紀はわりと運動苦手だったよね。それなのに、遊ぶときはだいたい外だった」
「うるさい。昔の話でしょ」
「ごめんって。でも……それが楽しかった」
当時の塚本は、今の煌びやかさを最小限に抑えたくらいの暗い人間だったと思う。だからかなりのインドアで、本を読んでいるのが好きなタイプの子供だった。今となっては全く想像できない。
逆に私は、今とは真逆でアウトドア思考の人間だった。子供だったから体力が有り余っていたのか、女の子と一緒にお話をするよりは、男の子に混ざって走り回る方が楽しかったのだ。ただ歳を重ねるにつれてそういう思考はなくなり、中学に上がる頃には完全にインドア思考の人間になっていた。
そういう理由から、小学生の頃に塚本と遊ぶ場合は、だいたいこの公園に集まるようになったのだ。
ただそれも、高学年になる前までの話だ。
「それで? なんか話でもあんの?」
珍しくこいつが、このな遅くに寄り道をしようと言い出したことに、ずっと違和感を覚えていた。なんだかんだで規則には厳しいというか、スポーツマンだからなのかルールには厳格というか。バイトで遅くなるたびに、早く帰るように促してくるのだ。
だから呼び出しにも理由があるのだと思っていた。そしてそれは案の定正解のようで「意外に鋭いね~」とバカにしたような口調で白状する。
「話ないなら帰るぞ」
ただその態度がムカついたので帰ることにする。
「待ってごめん。話すから座ってて」
「……仕方ないな」
ブランコに座りなおし、適当にゆらゆらと揺られながら塚本の話を待つ。
「あ~……あの一年生のことなんだけどさ」
「一年生……?」
誰のことだ?
「あれからなんかあった?」
「なんか……とは?」
そもそも誰のことを言っているのかわからない私には、塚本が何に対してそこまで心配してるのかがわからなかった。そんな様子の私に、塚本は「ぷっ」と吹き出す。
「何笑ってんだよ」
「いや、何もないならいいんだ。そもそも真紀がそこまで気にしてる様子もなかったから、本気にはしてなかったんだけど」
「だから何の話し?」
「俺でも気にするってことだよ」
何に?
本当に話の見えないから頭を悩ませていると、塚本は「体育祭、楽しみだね」と話題を変えてくる。
「別に楽しかないでしょ。疲れるし」
「昔はあんなに走り回ってたのに」
「昔は昔。今は今。もうそんな元気はない」
「そっか」
話しながら、塚本はブランコに立ち乗りし、大きく前後に揺らし始める。その勢いを利用して前に大きくジャンプした。その姿は学校のプリンスと呼ばれているような、済ました笑顔を浮かべるあいつではなく。小学生のころに一緒に遊んでいた、あのころのあいつに被って見えた。
「俺もリレー頑張るよ。全員抜かすつもりでいく」
「3走目なんだからあんま関係ないでしょ」
どこかしらで遅れるだろうし、何だったら私のところで確実に遅れるし。
「そう? 一位で抜けだしたらかっこいいじゃん」
「まあ……」
塚本なら余裕でやれそうな気がする。こいつ足速いし。
「もし一位でバトン渡せたらさ。今度のライブ、アストラ歌ってよ」
「はぁ? なんで私があんたの言うこと……」
「いいじゃない。ファンサービスってことで」
「……まあいいけどさ」
それくらいのことだったら渋ったりはしない。それに一応、ファンの言葉だからね。
「一位抜けだったらね」
「もちろん」
そくわからないうちに変な約束をしてしまった。私は歌うだけだから別にいいんだけど、それにしても意外なのが……そんなに好きなのか、あの曲。
自分でも、あの曲はよくできると思っているけど、作ったのがバンド結成初期ということもあって自信が持てなかった。だからいままでアストラは出し渋っていたし、大きい場では歌わないようにしていた。
だというのにこいつは、それを好きだと言ってくれている。
ちょっとした気恥ずかしさと、意外にも嬉しいと思っている自分に戸惑ってしまう。まあでも、私が足遅いから、いくらあいつが速くても本当に一位が取れるとは限らない。
……体育祭、ちょっと頑張ってみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます