第79話:待ち合わせした人間違ったっけ?
土曜日、お昼の駅前。普段だったら家でのんびりとしているか、バイト先で仕事に励んでいるかの二択になるのだが、今日は珍しく遠出をして都心に繰り出していた。
俺だったらまず来ないような、いわゆる陽キャというかテンション高めの人たちが集まるところ。若者の街と言われ、よくテレビとかでも取り上げられる場所。土曜日ということもあってか、駅改札口はこれでもかと賑わいをみせていた。
つらい……。
人込みに嫌気がさす。できることなら、もう少し人が少ないところに行きたい。
人にぶつからないよう気を付けながら、駅に近くかつ人がまばらな、自販機横に移動する。
そもそもなぜ俺がこんな場所にいるのかというと、昨日の夜にある人物から呼び出されたことが原因だ。
~~~
風呂を終えて部屋でまったりとしていたところ、いつもなら音さたのないスマホが震えた。最初はメッセージかメールかなと思っていたが、振動は収まることはなかった。少し遅れて、それが電話だということに気づく。
慌ててスマホに手を伸ばすと、画面に表示されていた名前に目を細める。なんせ相手は、普段から俺に連絡をするような人ではないからだ。
「新嶋さん……?」
バイト先の同僚で同じクラスの新嶋佳代さん。
彼女とは特に交流が深いというわけではないが、バイト先で一緒になるとたわいもない会話をする仲ではある。しかしお互いのプライベートに踏み込むようなことはあまりせず、メッセージでのやり取りとか電話などしたことがない。
そんな彼女からの電話なので、何か急ぎの用事があるのかもしれない。そう思い応答すると、『あっ! 相馬さんですか? 新嶋です』と元気な声で話してきた。
もう夜なんだが……。
周囲への配慮はいいのだろうかと思いつつ、「うん、どうかした?」と尋ねた。
『相馬さん、明日暇ですか?』
「えっ?」
暇かどうかと言われれば、バイトもなく勉強をする以外の予定がないので、暇になるかもしれない。勉強はあるけど。
「まあ、暇と言えば暇だけど」
『明日、ちょっとデートしません?』
「は? デート?」
『デートです。男女の密かな交流です』
「いや、それはわかってるけど……」
わかっているけど、意味がわからん。
先ほども言ったが、俺と新嶋さんの関係はけして深いわけではない。そりゃあ他の人を交えて、夏休みはキャンプなどに行ったものの、それ以外に遊びに行ったりなどしたことがない。それなのに突然デートとか言われたら、頭の中がハテナにもなるだろう。
「なんで?」
あまりにも急だったから、疑問しか浮かばなかった。すると新嶋さんは、ちょっと悲しそうに『デート、嫌なんですか?』と返してくる。
「嫌ってわけじゃないけど」
『浅見さんとはしょっちゅうイチャイチャデートしてるくせに』
「イチャイチャはしてないし、デートでもない!」
二人で出かけたりはするけれど!
たびたび浅見絡みで茶化してくる新嶋さんに、呆れてため息がこぼれる。
「用がないなら切るよ?」
『だからデートしてくださいって言ってるじゃないですか』
「いやだから、それがよくわからないんだって」
『私がデートしてほしいからですが』
なんだか会話が噛み合わない。
「なんでデートしてほしいんですか」
『聞いてくださいます?』
「むしろそれが一番知りたいところだろ」
俺のツッコミに、何かが面白かったのだろう『確かに!』と笑われた。マジでなんだこの人。
『いや~、実は今度作る漫画でデートシーンを描こうと思ってまして。ただ私自身、そういうことには無縁でして』
「ああ~……」
『なんですかそのああ~って。バカにしてますよね?』
「自分で言ったのに……」
なんて答えればよかったんだよ。
「いやでも、新嶋さん前髪を上げればそれなりに美人さんだし」
なんとかフォローをしようと褒めてみたが、新嶋さんは『これだからたらしは!』と何故かキレられた。
なんか情緒不安定なんだけどこの人。
『そういうことは浅見さんとか瀬川さんに言ってればいいんですよ』
「そこで二人の名前が出ることに疑問しかないんだけど……そもそも俺はたらしではない」
『あんだけ女子を侍らせておいてよく言いますね』
「えっ? そんなことしてなくない?」
全く身に覚えがない。そりゃあ紗枝とか幸恵は一緒にいる時間が長いかもしれないけど、毎回毎回一緒にいるわけではないだろ。昼休みとかは塚本のところに言ってるし。放課後だってたまに紗枝と一緒に帰る程度で、ほとんどは一人で帰ってる。幸恵との勉強会だって週に3回だし、侍らせてるってことはないと思う。
『そんなことありますよ』
「いや、そこまで言われることでもないだろ」
『それを一般的だと思ってる時点でアウトなんですよあなたは』
そんなこと言われても困るんだが。
理不尽な怒られたが、新嶋さんは『まあそれが相馬さんなんですがね』とバカにしてるのか褒めてるのかわからないことを呟いた。
『ともかく、デートについてはそういう理由です。私の作品の資料のために、協力してほしいんです』
「ああ、うん。まあそれだったら協力するけど」
『本当ですか!? さすが相馬さん。持つべきものは友達ですね!』
「勝手に漫画の題材にしたくせによく言うよ……」
あの時には、新嶋さんが漫画を描いているということにも驚いたし、俺が漫画のキャラクターに使われてるということにも驚いたものだ。まあ修学旅行の時とか一緒にバイトしてて、見た目に反して案外明るいし、変な人だなと思ってはいたから意外にすんなりと受け入れてしまった。
『では詳しくはこの後ラインします。お休みなさい』
「うん。お休み」
~~~
とまあ、こんなやり取りがあった。
俺には似つかわしくないこんな場所にいる理由も、全ては新嶋さんの要望によるものだ。でなきゃわざわざ足を運ぶことはない。
「にしても遅いな……」
スマホで時間を確認する。10分ほど予定を過ぎていた。しかし見渡しても新嶋さんの姿はなく、ラインにもメッセージは入っていない。
これだけの人込みだからな……見つけられてないって可能性もあるか。
ひとまず『今どの辺?』とだけ送って、のんびりと待つことにした。どうせ今日は新嶋さんに振り回されることになるんだから、今のうちにゆっくりとしておく方がいいだろう。
そんなことを考えて、SNSアプリを開いた時だった。
「優くん?」
「ん?」
俺の名前を呼ぶ声に顔を上げる。するとそこには、可愛らしく着飾った幸恵が立っていた。
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