第145話:幼馴染の関係は謎

 いろんな人に応援されたからか、久しぶりに全力で走ってしまい体が悲鳴を上げている。この後のことを考えて抑えようと思ったんだが、テンションが上がって無意識にペースを上げてしまった。


 息も絶え絶えで席に戻ると、何故か日角と塚本しかおらず、他二人の姿は見えなかった。


 塚本と日角はそれぞれ「おつ~」「お帰り~」と労いの言葉をかけてくれるが、俺をそれを他所に辺りを見渡す。


 あいつ……いつになったら来るんだ?


 先ほどの競争の最中、こことは違うところから応援をしてくれた紗枝のことを思い出す。あいつからはここ数日避けられているような感覚があったので、あそこで声をかけてくれたことが嬉しかった。

 だから自然と俺たちがいる方に来てるものだと思っていたので、逆にまだ姿を見せないことに疑問が生じる。


 とはいえ俺から必要以上に構うのも、からかわれる材料になってしまうので行きづらく。行ってみたとしてもなんと声をかけていいのかわからないので、どうしようもない。


 向こうから来てくれるのを待つしかないか。


「おう、ただいま。日角、足は?」


 日角の隣の椅子に腰かけ、彼女から俺が買っていたスポーツドリンクを受け取る。なぜ持ってるのかというと、日角が座っている椅子は先ほどまで俺が座っていたはずの椅子なのだ。今は占拠されてしまったが、そこの上に飲み物を置いていたので、日角が座るときに手に持ったのだろう。


 彼女は怪我をした方の足をさすると「歩くとまだ痛いけど、ひとまずは大丈夫。でもこの後の大繩は無理かな~」と苦笑いを浮かべた。


 学年種目はお昼の前に行われるので、こればかりは仕方がないだろう。


「無理はダメだからな。ここで応援しててくれ」

「は~い。力の限り応援するから期待してて」

「お前が声荒げてる姿とか想像できねぇな」


 普段から大人しい印象が強い日角が叫んだりするのか……似合わねぇ~。


「そういえば、他の二人は? 飲み物?」

「うん。寺氏が早々に飲み干しちゃって。幸恵はそれの付き添い」

「なるほどな」

「部活の時も思ったけど、寺氏ってすごい水飲むんだよね。びっくりする」

「へぇ~。まあ水飲むのは悪いことじゃないけどな。一日2リットルは飲まないといけないみたいなことは聞くし」

「2リットルは飲めないな~」

「俺もさすがに無理だな~。運動とかしてると話は別なのかもしれないけど、そこらへんどうなんだ?」


 日角の奥にいるに塚本に視線を飛ばす。彼は「まあ1リットルくらいは普通に飲むけどね~。深く考えたことないな」と腕を組む。


「でも、真紀は昔からよく水分取ってた印象はあるね。トイレ近くならないなかって疑問に思ってた」


 それは確かに。


「……昔の寺氏ってどうだったの?」


 ふとした疑問だったのだろう。日角が唐突に尋ねる。ただそれについては、俺も多少なりとも興味があった。

 寺島との仲は良くも悪くも普通といった感じなので、お互いのことについては全く言っていいほど分かっていない。それで不便は全然ないけど、友達のことなので気にはなる。

 ただ塚本にこのことを聞くのはなんだかタブーのような気がしてならない。というか、塚本と寺島の関係については詮索することが許されないような、不可侵条約に近い物を感じる。この二人の関係は闇が深そうだからからな。


「そうだね~……」


 塚本は一瞬渋ったように見えたが、「今よりももっと可愛かったかな」と話し始めた。


「ああ見えて昔は夢見るお姫様みたいなところがあってね。きっと自分にも白馬の王子様が――」


 意気揚々と話している塚本だったが、次の瞬間鉄拳が奴の頭に降り注ぐ。


「お前……お前ぇ!!」


 そこには恥ずかしそうに顔を真っ赤にした寺島が立っていた。本人にとって相当恥ずかしかったことなんだろう、いつになく取り乱している。

 そんな珍しい寺島を見ることができたので、こちらとしても弄りたい気持ちはやまやまなのだが、体をくの字に折りたたまれてピクリとも動かない塚本が心配でそれどころではなかった。この惨状に、俺含め寺島と一緒に帰ってきた幸恵も隣にいる日角も絶句している。

 かなりの勢いが先ほどの寺島の拳に乗っていたのだろう。洒落にならない威力に、さすがのタフネス塚本であっても耐えきれなかったようだ。


「記憶なくさす!」


 なおもそこから掴みかかろうとする寺島にさすがに命の危機を感じ、俺と幸恵で抑え込み日角は動かなくなった塚本を支える。


「落ち着こう! 落ち着こう寺島!」

「そうです寺島さん! 一度冷静になりましょう! 人殺しはダメです!」

「離しなさい! 絶対に許さない! 絶対に許さないから!」

「塚本くん生きてる? 返事して~……お~い?」


 ここに留まってしまえば問題になるので、引きずるようにグラウンドの端っこに連れていく。なおも暴れる寺島を必死に説得、もとい抑え込み、何とか死人を出さずに済んだ。

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