第109話:脈絡もなく来たね
普段、俺は昼食は塚本と取るようにしている。1年生の時にお互い仲良くなって、それを期に一緒にご飯を食べるようになった。それが今もなんとなく続けている。たまに塚本が部活の集まりでいない時もあるが、ほとんどは俺と一緒にご飯を食べ、少しの間だべってから余裕をもって教室に戻る。
それが当たり前で、変わらない昼休みの風景だった。
その日もいつものように塚本の教室に足を運び、教室に入らず塚本が出てくるのを待ち、疲れた様子のあいつの顔を見て「お疲れ」と労いの言葉をかける。
王子様キャラとして女子から羨望の眼差しを向けられるこいつは、昼休みに教室を出るのも一苦労なのだ。それだけ毎日のように女子たちからアプローチを受け、囲まれ、キャーキャー言われる。男子ならば一度でもいいから体験してみたいことではあるだろうが、俺はこいつのこの現状を知っているがために、苦い顔になってしまう。
ただこいつの場合、自分が好きでやっていることなので、疲れた顔はするものの文句を言ったことはない。それに関しては、本当にすごいと思う。
塚本を回収してから、俺たちはいつものように屋上手前の階段に向かう。塚本はすれ違う女子の挨拶に応えながら、俺はなるべく空気になりながら、少し速足で歩いていく。これもいつも通りの光景。変わらない風景。
しかし屋上手前にくるとどうだろう。誰もいないはずのそのスペースに、二人の女子が陣取っていた。
「あっ、遅かったね」
「やっほー」
彼女たちがさも当たり前のように振る舞うので、状況についていけない俺は眉を顰める。
「なんでいんだよ二人とも」
彼女たち、寺島真紀と浅見紗枝はキョトンとした様子で俺を見つめる。その後すぐに、寺島は塚本を睨んだ。
「あんた、相馬に何も言わなかったの?」
視線を向けられた塚本は「言わない方が面白いかと思って」と、悪びれもなく説明した。
いや、言ってほしいんですけど。
人が増えるなら増えるで心構えとかあるし、もし知らない相手とかだったら俺めちゃくちゃ気まずいし、せめて誰かがいるくらいは伝えてほしい。
塚本の返答に寺島は「ほんとクズね」と、学校1のイケメンと言われても差し支えない塚本にストレートば罵倒を浴びせる。おそらくこの学校で塚本相手にこんなこと言える女子は寺島を置いて他にいないだろう。やはり幼馴染だからこその距離感か。
まあ、それよりも先に聞かないとな。
「塚本がクズなのはどうでもいいんだけど」
「相馬? 俺も人だよ?」
「寺島たちはなんでここにいるんだ? 普段は教室で食べてるだろ?」
俺が教室を出るタイミングで、紗枝はお弁当を持って寺島の机の方に向かい、そのまま一緒に昼食を取っている。それを知っているから、余計になんでここにいるのかが疑問だった。わざわざ遠い、しかも食べにくい場所にいる理由なんてないだろうに。
俺の質問に寺島が「それは――」と口を開きかけたが、それを遮るような形で「俺が前々から誘ってたんだ」と塚本が答える。
「お前が?」
「うん。真紀とも一緒にご飯食べたかったから」
「やっぱお前ら、なんだかんだ仲良いんじゃ……?」
「やめて相馬。本当にやめて」
いらぬ考えを回した俺に、寺島は真顔で止めに入る。
う~ん。この二人の関係は色々と闇が深そうだな。
この問題は藪蛇になりそうだったので、ひとまずはスルーすることにした。
「まあ理由はどうあれ、とりあえず一緒に飯食べるってことだろ?」
「うん。たまには大人数も悪くないでしょ? 真紀と浅見さんだったら見知った仲だしね」
「そうだな。これで一度も話したことない相手とかだったら、俺は塚本を置いてどっか行ってたわ」
「さすがの俺でもそんなことはしないよ」
「わからんぞ? 寺島の言う通りお前はクズだからな」
「クズにもクズのやり方ってものがあるんですよ。それより早く食べよ。真紀たちも待ってるし」
「ああ、ごめん」
改めて二人を見ると、お弁当を膝の上に抱えて俺たちが座るのを待っていてくれている。塚本のせいで来るのも遅れてしまったし、かなり待たせてしまって申し訳ない。というか、塚本が人を待たせてることを言ってくれたらもうちょっと急いでここに来たんだが、いまさら文句を言ってもしかたがないか。
「と、その前に飲み物買ってくる。お前ら先食べてていいぞ」
持っていた弁当の包みを塚本に渡し、階段を下りる。すると「私も行く!」と紗枝が立ち上がった。
紗枝は寺島に自分の弁当の包みを差し出し「寺氏何か飲む?」と尋ねた。寺島は特に考えもせずに「いつものでいいよ」と紗枝から包みを受け取った。
そのやり取りに便乗するように「俺、お茶ね」と塚本がお願いしてきた。普段だったら人をパシらせるようなこと言わないんだが、珍しいな。
「後でちゃんと払えよ」
「わかってるよ。紙パックね」
「了解」
視線を少し上に向けると、紗枝も財布を片手に準備できたようだった。
「いけるよ?」
「おう。じゃあちょっと行ってくる」
「「いてら」」
そう告げて、俺と紗枝は階段を下りていった。
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