第22話:修学旅行はメンバーで八割が決まっていく

 うちの学校の二年生は、一年や三年生に比べて行事が多い。特に二年生三大行事の一つ修学旅行は、恐らく二年生ほぼ全員が待ち望んだ行事だろう。

 しかし時期がなかなか面白い。普通は春頃に行われる高校が多いのだが、うちの学校は前期期末試験が終わってから二週間後に行われ、それが終わったらすぐに夏休みに入る。なのでこの時期を、怒濤の三週間と呼ばれている。

 今日はその修学旅行の班を決める大事な日。どこかクラスの雰囲気はそわそわしている。


「え~、修学旅行の班決めなんですが、めんどいのでくじ引きで決めていきたいと思います」


 ……嘘だろマイティーチャー。


 担任のその一言で、クラス内がブーイングの嵐になる。


 修学旅行における班決めは極めて重要だ。二泊三日の中、あまり仲のよろしくないメンバーで行くと、お互いがお互いを気遣ってしまい気苦労が絶えなくなる。さらに修学旅行中に互いの関係に亀裂が生じれば、後の時間は地獄に変わるだろう。

 だからこそ修学旅行という行事に限りは、生徒同士の関係性を重視しなくてはならない。完全に運任せの班決めは、地雷元に突っ込むのと同じだろう。友達がいる人間にとっても、友達が全くいない人間にとっても。


 よく人間勘違いをしていると思うが、こういう時に困るのはなにも友好関係が広い人だけではない。むしろ困るのは友達の少ない、友好関係が狭い人間だ。そして大抵厄介者扱いを受けるのは、その狭い人間になる。というのも、そういう人間は当たり前のように人付き合いが苦手で、そのせいで輪に馴染めず疎まれるからだ。

 全く面白くない冗談をぶちこまれ、反応がよくなければ可笑しい人間扱い。ノリが悪い。冗談が通じない。それぐらいわかれって……いやいや待て待て。お前たちの考えてることなんて、わかるわけないでしょうが。

 なのでこのブーイングには俺も多いに賛成だ。俺の少ない友好関係じゃ、組めるメンバーなんてたかが知れてるかもしれないけど、それでもくじ引きなんかの運に頼るよりはマシだ。


「自分達で出来るなら別にいいぞ? 俺は面倒事はごめんだからな。けどもし、問題が起こるようなら速攻くじ引きだからな」


 先生はあまり強く反論はしてこなかった。むしろこうなることは予測していたようで、何食わぬ顔をしている。

 先生は黒板を五分割して一班五名とだけ書き入れる。数から一班から五班まであることはわかった。


「一班五人。別に男子五人女子五人でも問題ないから、さっさと決めてくれ」


 その言葉を皮切りに、皆が一斉に動き出した。あちこちですぐにグループが組上がっていき、俺はその様子を見ながらなるべく迷惑にならないところに入ろうと考える。できるだけ話したことのある男子。高垣とかなら入れてくれるかな。


 そう考えて席を立った時だ、そのまま腕を捕まれ引っ張られる。

 引っ張っている張本人、俺の後ろの席に座っている女子、浅見紗枝はそのまま教室の出入り口の方に向かっている。


「おい何だよ!?」

「寺氏~、一緒になろ~」


 そのまま寺島のいる席まで引っ張られ、席に座って頬杖をついていた寺島は「いいよ~」と二つ返事で応える。


「じゃあ後二人だね」

「ちょっと待て浅見。俺も入ってるのかそれ?」

「当たり前じゃん。私と寺氏と相馬の三人。後二人」


 俺の同意とかも何もなしにいつの間にか班のメンバーになっていた。


「嫌?」


 首をかしげて訪ねる浅見。別に嫌ということはないが、できれば一声かけてから引っ張ってほしかった。


「嫌じゃないけど……俺がいていいのか?」


 自分があまりクラスには馴染めてない自覚はある。というよりも、先程から言ってはいるが、友好関係が極めて狭いのだ。もしこれから入るメンバーが俺を見て、相馬がいるんだ……。みたいな微妙な空気になるかもしれないと思うと、誘ってくれた浅見や寺島に申し訳がたたない。

 被害妄想甚だしいとは思うが、実際に中学のころに起きたことなので、あながちないとは言えないのだ。あの時の空気と来たら……別に俺が悪い訳でもないのに、謝りたくなるんだよな。


「なんで……?」

「なんでって……」


 こいつ、俺が普段どれだけ人と話してないのか見てないのか?


「私が相馬と一緒にいたいから誘ったんだから、一緒にいていいに決まってるじゃん」


 それだけ言って、浅見は他のメンバーを誘うために人だかりの方に向かっていった。その姿を見ながら呆けていると、寺島が「相馬の言いたいことは、まあわかるよ」と話しかけてくる。


「けどそれで、私たちに遠慮することはないと思うな。特に紗枝には」


 浅見の姿を追う。どうやら自分から誘うだけでなく、他の人からも誘われている。しかし人数などの関係から、断っているように見える。


「それとここだけの話なんだけど」


 寺島はちょいちょいと手招きするので、顔を寄せる。寺島は耳元に手を当てると、「紗枝。相馬と一緒の班になりたいってぼやいてたんだよ」


 衝撃の事実に顔をあげて寺島を見る。こいつは浅見と違って、冗談を言うようなやつじゃないのはわかっている。けれども現実味が帯びてこない。だってあいつが、わざわざ俺と一緒になりたいと思う理由がわからないからだ。寺島を誘うならわかる。寺島ならわかるのに……なんで俺なんだよ。


 浅見を見る。今は瀬川さんと何か話しているようだった。


「だからさ、相馬。別に遠慮しなくていいんだって」

「……わかったよ」


 さすがにそこまで言われて、これ以上グチグチと言うこともあるまい。あいつが一緒にいたいと言うなら、俺はそれに応えるだけだ。

 いや……違うか。

 あいつだけじゃないな、俺もなんだかんだ言って、浅見と一緒の班になれればいいな、なんて……そう思ってたんだから。

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