第81話(サイドs):はっ、謀りましたね!
要するに、ストレス発散のために色々遊びましょう。そういう意味合いでのデートであると新嶋さんは言っていた。たぶん、いろいろと悩んでいた私を思って気を使ってくれたのだろう。
これで私の悩みが解決するということではないとは思うが、それでも気分転換になると思う。
土曜日。私は普段だったら来ないような、若者たちが集う街にやってきた。テレビでしか見たことないようなところ。憧れのようなものは正直あったけれど、どうしても人混みの多さに行くのを躊躇ってしまうので、今まで一度だって来たことはない。
改札を抜けると、活気ある街の雰囲気に感動すると同時に、人の多さから来る息苦しさのようなものを感じて眉を寄せる。
人混みが辛い……どこか人通りが少ないところ……。
うまく呼吸をするために改札口周辺を離れ、比較的人の少ない自販機の横に向かう。
あそこなら風通しもよさそう……あれ?
歩いていくと、見慣れた人物がそこにはいた。
彼の性格を考えれば、こういう場所は毛嫌いしそうなものだと思っていたから。彼を見つけたときは、私はすごい驚いた。
「……優くん?」
「ん?」
私の思い人でもある彼、相馬優は気だるそうに見つめていたスマホから顔をあげると、私の姿を見てたいそう驚き、自然と背筋を伸ばした。
「えっと……」
「……」
突然出会って、それもこんな場所ということもあり、私はどう反応してあげればいいのか考えが追い付かない。たぶん優くんもそんな感じで、次の言葉を探している。
「待ち合わせ?」
なんとか声を出したのは優くんだった。私はひとまず「はい」と頷き、小走りで彼の横に失礼する。
「優くんも?」
「そんなとこ」
誰とだろう……。
真っ先に思い浮かんだのは、優くんのお姉さんだった。けれどお姉さんだったらさすがに待ち合わせなんてまどろっこしいことせずに、一緒にいるようにも思える。でも大学生だから一人暮らしなのかな?
「お姉さん?」
相手が気になったので質問を投げたが、優くんは「あ~……いや」と濁した。なんとも釈然としない雰囲気に、女の勘が働く。
これは……もしかして相手は女性!?
可能性としては多いにありえる。だって優くんの性格を考えると好んでこんな場所くるとは到底思えないし、だとしたら居る理由なんて相手が決めたからだ。それなら誰が? こういう街が似合ってて、かつ優くんを誘う相手……。
そう考えてしまうと、どうしても真っ先に浮かんでしまうのは、あのお人形さんのような笑顔だった。
「その……差し支えなければ、誰と待ち合わせしてるか、聞いてもいいですか?」
「えっ?」
「聞いてもいいですか!?」
ズイッと詰め寄っていく。優くんは反射的に体を反らして私から距離を取ろうとするが、後ろが自販機なので逃げられるスペースがない。
「ちょ、幸恵さん!?」
「もしかして日角さんですか!? どうなんですか!?」
「近い! 近いから!」
その言葉に、優さんの顔が目と鼻の先であることに気がつき、慌てて後ろに下がる。
「すっ! すみません!」
「いや……大丈夫だから」
ああ~恥ずかしい……また変なところ見せちゃった。
火照った顔を覆うように両手で隠して、優くんから距離を取る。ある程度離れたことを確認してから、咳払いを一つ。
「その、すみません。突然」
「いや、本当に大丈夫だから。それより何だっけ……あ~待ち合わせの相手ね」
優くんは困ったように頭の後ろを掻く。私には、話せないような相手なんだろうか。それとも、やっぱり……デート?
考えるだけで、胸が痛い。相手が女性なら、デートであることは明白。人の恋愛は人それぞれだということは、もちろん理解はしている。けれどもそんな考えとは裏腹に、気持ちは全くといっていいほど受け入れていなかった。
もしデートなら、私は邪魔になっちゃうし……離れた方がいいよね。なんだったらこの質問も、なかったことにした方が。
それでも感情を圧し殺して、愛想笑いを浮かべて「ごめん、言いたくないよね」と身を引く。自分でもうまく笑えているかわからなかった。けれどもそうする他ないし、取り繕わないと……気持ちが前に来ちゃう。それだけは、避けないといけない。
「いや、言えない訳じゃなんだけど……事情がちょっと特殊で……あ~なんて説明したらいいんだろう」
それでもなお、困ったように腕を組む優くん。デートなんじゃないの?
「実は今日、新嶋さんにあることをお願いされて」
「新嶋さん……?」
なぜそこで新嶋さんの名前が出てくるんだろう。……あれ? 私って誰と約束してたんだっけ?
「ちょ! ちょっとすみません!」
「えっ? うん……」
優くんの話を遮り、自分のスマホを取り出して昨夜のラインのやり取りを見返す。そこには確かに新嶋さんと今日、会う約束をした履歴が残っている。だけど優くんも今日、新嶋さんと約束してる?
えっ!? どういうこと!?
一人で混乱していると、タイミングよく新嶋さんからメッセージが飛んできた。
『サプラーイズ!』
その一言で、思考が停止した。
『私は遠くから見守ってますので! 存分にイチャイチャデートしちゃってください! それが私の糧になる! あっ、相馬さんには私は遠くで見てるので、男見せてくださいとお伝えください。それで伝わると思うので!』
テンションの高いメッセージに、正直ついていくことができない。けれど、たぶんこれはそういうこと……なんだろう。
はっ、謀りましたね~~~~!!!!!!
この日、初めて友人を殴りたい気持ちになりました。
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