第147話:男同士だから相談もする
体育祭、前半の種目をすべて終えお昼休憩に入ると、外にいた生徒たちはみな一様に教室の中へと入っていく。小学校であったようなシートを引いて外で家族と一緒に食べるというようなことはせず、生徒は生徒、保護者は保護者で分かれて食べる。
まあ……さすがにこの年で親と一緒に食べるのはちょっと恥ずかしいところはあるからな。こういう制度はちょっとありがたい。
一応スマホを見てみると、お姉が母親と来てはいるみたいでメッセージに連絡があった。
影ながら見られるのも恥ずかしいが、まあ大手を振って最前席で応援されるよりかはましなので、まあ良しとしよう。気持ちとしては別に来なくてもいいと思っている。
教室に戻り、いつも通りお弁当を手に取ると教室を離れる。すると丁度塚本と居合わせた。
「かいくぐったか」
「去年は塞き止められたからね。学習はしたよ」
体育祭という特別な行事の最中でも、塚本のお昼を狙うやからは存在する。というか、体育祭だからこそお近づきになろうと画策しているやからが多いということだろうか。
なので俺と塚本だけは、いつも通りの場所でいつも通り昼を過ごすことになる。
「女子来る前にいくか」
「いつも悪いねぇ~」
「おばあちゃんか」
「そこはおじいちゃんじゃないの?」
そんな茶番を混ぜつつ、屋上手前の階段の踊り場に向かった。
~~~
「そういえば、浅見さんとかは良かったの? 誘わなくて」
飯を食べながら、塚本が不意にそんなことを尋ねてきた。
「どう……だろうな。まあ、あいつのことだからたぶん寺島とか幸恵とか、そこら辺と食べてると思うけど」
「おっ。じゃあ仲直りはしたんだ」
「別に仲たがいしてたわけでもないけどな」
妙な感じになっていたから、強く否定することはできないが。
「結局、原因は何だったのさ?」
「……それはよくわからん」
気づいたら普通になっていたというか、なかったかのように接してきたというか、俺からは本当によくわからない。
けれど、けして悪い方向に行っているとも言い難かった。
大縄跳びの最中も、大縄跳びが終わった後も、紗枝は普通に俺に話しかけてきた。無理をしているような雰囲気もなく、かといってこちらを必要にイジッてくるようなそぶりもなく、さもその状態が当たり前のように接してくる。
今までのあいつとの関係性は何だったのかと、そう思いたくもなってくるが、何だかその姿がしっくりくるような、本来の姿のようにも感じる。
けれど俺からすると、雰囲気が別人のようにも思えるから、どう接していいのかわからない部分もあった。
「なあ……聞いていいか?」
「ん? 相馬から相談事って珍しいね」
「女子の扱いが上手い塚本だから相談するんだが」
「まあ酷い見られ方してるけど、続けてどうぞ」
「突然、人が変わったように態度が変化するってこと、あったりするのか?」
「それは浅見さんのことかな?」
なんでわかるんんだよ。
「なんでわかるんだよって顔してるけど、相馬が浅見さん以外のことで相談するなんてそうそうないだろうからね」
「そんなわかりやすいか? 俺」
「だって、いつも浅見さんのこと気にしてるでしょ? それに何かあった時は、大体浅見さんが絡んでることの方が多いしね」
それは……確かに。
塚本の言う通り、ここ最近……というか2年生になってからというもの、俺の周りには常に紗枝がいた。そのせいで困ることも多々あったし、悩むことも多かった気がする。
それもこれも、あいつが変にちょっかいかけてきたりするからで、そのせいで俺の悩みの種が消えないというか。かと思えば急にしおらしくなって不安にさせられたりするし。あいつが何を考えてるのか、よくわからない時が多すぎる。
「ちなみに相馬からはどう変わったように見えたの?」
「どうって……雰囲気が大人しくなったというか、子供っぽさが抜けたというか。なんか変な感じなんだよな」
「ふ~ん……」
「ふ~んってお前。聞いてきたくせになんだそれ?」
人が真面目に悩んでるっていうのに。
「逆に聞くけど、俺から見たらそっちの方が浅見さんっぽい気がするけど」
「……はぁ? いやありえんだろ?」
塚本との解釈の違いに絶句する。塚本にあの紗枝の姿が、そんな風に見えているのか?
「これはまあ、真紀から聞く印象も含めてになるけどね。案外、そっちの方が素なんじゃないの?」
「じゃあ……いままでのは無理してたっていうのかよ」
それはそれで、すごく複雑なんだけど。
「それは違うよ。あれもあれで浅見さんなんだよ」
「……よくわからん」
俺にちょっかいをかけてくる、今までの姿も紗枝で。さっきみたいに少しの距離感と、雰囲気をまとってるのも姿も紗枝の本心。矛盾してる気がする。
「相馬はさ。たぶん他の人と比べると、人付き合いはかなり不器用なんだよ」
「唐突にディスってくるなお前」
急にバカにされたものだからけんか腰になるも、塚本は「まあ聞いてよ」とやんわり返す。
「不器用ではあるけど、それが相馬のいいところでもあり、悪いところでもある。裏表がないというか、直球でわかりやすいとこ」
まあ確かに。人の裏を探ったり、機嫌を伺ったりってのは苦手な部分ではある。そういう風におそるおそるやるくらいなら、スパッと言ってしまいたいことの方が多い。
でもそういう距離感を全員が望んでるわけではないから、どう言ったって気を伺う必要はある。きっと俺はそれが不得手だから、友達とかが少ないんだろう。
「だから素直に全部見ちゃうんだろうけど、浅見さんは相馬が思っているよりずっと器用な人で。人によって態度とかもちゃんと変えるし、変な諍いを起こさないように調節もできる。そういう人なんじゃないかな?」
「……お前が女子にする顔みたいにか?」
「う~ん、それはそう。でも無理してるわけじゃないけどね」
「それはわかってるよ」
「話を戻すけど。いままでの浅見さんは、相馬に見せる態度と他の人に見せる態度とでは明らかな違いがあった。相馬に対してはフランクに、その他の人にはかなり淡泊。けど真紀とか瀬川さんとか、友達にたいしてはかなり優しい」
「まあ、そうだな」
「でもたまにだけど、相馬と話してる時だけ、すごく落ち着いた空気を出す時があるんだよ。俺も一緒にご飯食べるようになってから知ったんだけどね」
「お前……まさか紗枝のこと?」
「安心して、俺は真紀一筋だから。彼女のことは取らないよ」
「いや、別にそういうことじゃないんだけど」
というか、なんで俺は一瞬焦ったんだ? 紗枝は普通に友達だろ。
「とりあえずまあ、そういうことがあって。なんでかわからないけど、その浅見さん見た時に、しっくりくるな~って思ってさ。本来の浅見さんの姿なのかなって思ったわけよ」
先ほどの紗枝の様子を思い出す。確かに塚本が言うように、年上のお姉さんのような、そんな落ち着いた空気を纏っていた。それが本来の、紗枝の姿なのか?
「なんで……」
なんで隠してたんだろう。
だからこそ思う疑問に、塚本は「いろいろと器用な彼女が素を見せるって、俺らが考えてるよりも勇気がいることだと思うよ?」と答える。
紗枝は言っていた、覚悟ができたと。きっとあいつの中で何か変化があって、それを形にしようとしているかもしれない。だったら俺は、あいつのその決意を無駄にしてはいけない。
けれども、ため息は零れる。
仲良くなったと思っていた。けれど俺は思っているよりも、紗枝のことを何を知らなかった。
俺は見てるようで見てなかったみたいで、それが思ってるよりもショックだった。
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