第77話:予想に反したプレゼント

 なかなかプレゼントが決まらない。


 一通り家電量販店の中を見て回った俺たちだが、残念ながら姉に渡すプレゼントを見つけることはできなかった。

 正直、何を買うべきなのかわからずパソコン用のハードディスクかな? なんて思っていたんだが、紗枝が「さすがに味気なくない?」と却下された。実用性とかも考慮したんだが……。

 というわけで、今は適当に歩きつつよさげなお店を探している。

 ただ、さすがショッピングモールといったところ。基本的にブランドものの衣服店などが多く、他にも高級そうな時計店やジュエリーショップ、高校生が手軽に手を出せないような小物店などしか見られない。

 こういう時こそチェーン店があればいいのだが……そういえば、3階くらいにロ〇トがあったような気がするな。


「お姉さんって、何か好きなものってあるの?」


 歩きながら思案していると、紗枝が突然そんな質問を投げかけてきた。ただ姉の好きなものと言われても、パッと思いつくようなものはなく、「なんだろう……」と眉をしかめる。


 好きなもの……というか、趣味でやっていることはモデル撮影と雑誌作り、あとはファッションチェックなどがあげられる。


「……服?」


 総合してみると、姉は服が好きなのがわかる。なので素直に答えたのだが、紗枝は「服か……」と少し渋い顔をした。


「服だな……あっ、もしかして服をプレゼントするってことか?」


 お姉は服が好きだし、それはそれでありなのではないか?


 これぞ名案とばかりに伝えたのだが、紗枝は「それだけはやめといた方がいいよ」と釘を刺してくる。


「なんで?」

「服が好きな人に服を贈るのって、相当リスキーだなって私は思うので」

「だからなんで?」

「服はセンス。好きな人は、それを大事にしてると思うの。だから服を選ぶのも、自分の感性で選びたいんじゃないかな」


 ふむ……一理ある。さすがにファッション雑誌を独自に作っているだけあって、お姉のファッションセンスは高いからな。自分が着る服は自分で選びたい可能性は十分にある。

 ちなみに俺はファッションセンスとか皆無だから、お姉が選んでくれるならとりあえず鵜呑みにして着てしまう。


「それに、お姉さんのサイズわからないでしょ」

「確かに」


 自分の服のサイズですら曖昧なのに、お姉の服のサイズなんかわかるわけがない。身長だってわからないんだから。


「だから服は却下。というか、そもそも候補にいれるものじゃないね」

「だとしたら、他に好きなものなんかわからないぞ? ……モデルの撮影とかは好きみたいだけど」

「モデル……」


 俺の言葉に、紗枝は腕を組んで考える。何か思いついたのか?


「モデルはありなんじゃない?」

「えっ?」


 どういうことだ?


「俺にモデルの知り合いなんかいないぞ?」

「私だっていないよ。そうじゃなくて」


 そう言って紗枝は、俺を指さす。


「……俺?」

「そう」


 俺をモデルにしようっていうのか? 確かに前に一度、撮影を手伝ったこともあるけど……だからってそれがプレゼントになるのか?


「ほら、かっこよかったし」

「いや、かっこよかったって……ちょっと待て、お前俺が撮影手伝ったときいなかったよな?」

「あっ」


 困ったように視線をそらす紗枝。追い詰めるようにジーっと見つめると、観念したように「お姉さんに見せてもらったの」と白状する。その時、キャンプでのある一幕が頭の中によぎる。


「キャンプか!?」

「まあそうだけど」


 お姉の仕事の話題になって、その時俺が一度だけ手伝ったことを話したのを思い出した。結局あの時の見られてたのか。


「お姉さん、素材はいいのにもったいないよね~って言ったよ?」

「そんないい物でもないだろ」


 塚本もそうだけど、なんで俺の容姿を褒めるのかなわからん。自分ではその価値を全くと言っていいほどわかっていない。毎日鏡で見てるし、いたって普通の顔だろ。


 けれども紗枝は「かっこいいよ」と褒めてくれる。しかし俺は俺のことをかっこいいとは思えないし、そもそも紗枝も気を使って言ってくれているかもしれない。そんなひねくれたことを考えてしまう。


「んなお世辞言われたって……」


 だから冗談と受け取って、自虐的に答える。すると「優」と呼びかけてきたので、紗枝の方に向くとジッと俺を顔を覗きこんでいた。

 びっくりして自然を足が止まり、紗枝もそれに合わせて止まった。お互い向かい合うようななり、不意に紗枝の手が俺の額に伸びてきた。


「っ!」


 俺の顔が見えるように手で前髪を上げられた。大きな瞳でジッと俺のことを見つめる姿にどぎまぎしつつ、紗枝はどこか満足したように「かっこいいじゃん」と笑みを浮かべた。


 不意打ちを受け、顔が熱くなる。照れた姿を見られたくなくて、咄嗟にそっぽを向いた。


 しかしそれで紗枝が逃してくれるわけもなく、「どした~?」と楽しそうな声色で俺の表情を確認しようとする。俺はそれを逃れようと、その場でくるくると回って、紗枝もそれに合わせて俺の周りをぐるぐると回った。

 はたから見ればバカな高校生がバカなことをやっているとしか思えない恥ずかしい光景だが、俺はそれ以上に紗枝に今の顔を見られるのが恥ずかしかった。


「だー! もう行くぞ!」


 埒が明かないので、強引に振り切って先に進む。


「あっ! ちょっと、怒んないでよ~」


 なおも楽しそうな紗枝の声。やっぱりからかってたんだなあいつ。


「モデル、私もやっていいよ」

「……はっ?」


 足を止めて振り返る。


「だからモデル。優だけだと力不足かもしれないし、私も一緒にやってあげる。これならプレゼントになるんじゃない?」


 確かに紗枝がモデルをやってくれるなら、お姉も喜んで承諾してくれるとは思うが……でもだからって俺のために友達を売るようなことをしたくはない。


「それは――」

「それに前も言ったかもだけど、興味あるんだよね。モデル」


 ダメだ、と否定しようとした。けれどそれよりも先に、手を打たれてしまった。正直、俺は反対した気持ちでいっぱいなのだが、紗枝がやりたいと言っているのにも関わらず、俺がその気持ちを否定するのは違うだろう。


 やってほしくないという気持ちと、紗枝の気持ちを尊重したいという思いがぶつかって。その一瞬で多くのことを考えた。そして出した答えは「わかったよ」と、紗枝の提案を飲む言葉だった。


 予想とは反した誕生日プレゼント。お姉が喜ぶ姿は目に浮かぶが、果たしてこれが正しかったのかと言われると、俺は素直に頷くことができなかった。

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