第53話:いざ、キャンプへ
八月も半ばに差し掛かり、そろそろ夏休みも佳境に入った。
夏らしい楽曲が流れる車内では、サングラスをかけた俺の姉、日花が車を運転している。俺はと言うと、助手席に座ってスマホを弄っていた。
「ねえ、北口でいいの?」
「北口集合」と、グループラインを見返して伝える。
「いや~、まさかあんたが友達と一緒にキャンプとはね~。去年とか考えもしなかったわ」
「お姉、別にわざわざレンタカー借りてまで一緒に来なくてもよかったんだけど」
「アッシーがいた方がなにかと楽でしょ? それに私も暇だったし、可愛い女の子とカッコイイ男の子がいるって聞いたら、そりゃあいかない訳にもいかないでしょ?」
「勧誘かよ」
「スカウトって言えし」
それに差があるのかよ。
今日は、かねてより浅見と企画していたキャンプに行くことになっている。来年は受験生でもあるので、もしキャンプとか旅行をするなら二年生の今しかないということで計画していたのだ。メンバーは浅見と相談して決め、俺も二人ほど誘ってはいる。いちおう浅見と俺で幹事ってことになってるし、立案者なのだから仕事はしないといけない。
当初の予定としては電車を乗り継ぐことになっていたのだが、お姉が俺と浅見が電話しているところを盗み聞きして、なぜか一緒に行きたいと言ってきた。お姉は運転免許を持っているので、「それなら車を借りて来てやる」と八人乗りの車を借りて来てくれたので、お言葉に甘える形でお姉には運転手、兼保護者として付いて来て貰うことになった。
車になったおかげで料金がかなり抑えられるので、非常に有り難いのだが……身内に自分の交友関係を知られるというのは、どことなく恥ずかしい。別に問題があるわけじゃないけど、知らないところで仲良くされるのもなんだかな~、と思ってしまう。
お姉の参加については全員の了承を得ている。浅見と瀬川さんは何故か、しっかりとご挨拶しないと、というような気迫が文面からも感じ取れ、そこまで気を使わなくてもいいんだよと思った。
「今日、何人くらいで行くの?」
「男子は俺含めて二人、女子はお姉含めて五人」
面々は修学旅行のメンバーとあまり変わらず、浅見に寺島、瀬川さんと新嶋さんに塚本が追加されたものだ。
「なにあんた、意外とモテモテなのね」
「別にモテた試しないけど……」
「でっ? 女子の中に好きな子でもいるの?」
「いねーよ」
といいつつも、一瞬頭の中ではあいつの顔が浮かんでいた。
「そういうお姉はいつになったら男作るんだよ?」
「私に釣り合う男がいたら考えるよ」
こいつに釣り合う男なんて現れるのだろうか。謎だな。
そうこうしている内に、学校最寄の駅に到着した。駅の前にはバスターミナルがあり、そこの一角の邪魔にならない場所に一時的に車を止める。
「んじゃ、ちょっと待ってて」
「あいよ~」
シートベルトを外して、車を降りる。待ち合わせ場所は北口改札にしてあるので、一度駅の中に入らないといけない。
階段を登ると、すぐに皆のことは見つけることができた。駆け足で近づくと、こちらを見た浅見と視線が合う。
「相馬!」
「ごめん、お待たせ」
皆、準備バッチリといった具合で、ボストンバックを持っていたり小さ目のキャリーを持っていたりしている。
「大丈夫だよ。私たちもついさっき集まったところだから」
浅見は他の面々を見渡す。瀬川さんは「今日は誘ってくれて有り難うございます」と丁寧にお辞儀をするが、そんなお礼を言われるようなことはしていない。
「いいよ、お礼なんて」
「私、キャンプとか初めてなのですっごく楽しみでした」
可愛らしい笑顔を向けられ、ちょっと頬が熱くなる。
「そう。ならよかった」
「いや~、相馬さんからキャンプのお誘いがあった時は驚きましたけどね」
新嶋さんが考え深そうに頷いている。
「せっかくだし、皆で来た方が楽しいかなって」
「でも誘い方は気を付けたほうがいいですよ? 一緒にキャンプ行かない? なんて言われたら、一瞬二人だけかな? なんて思っちゃいますから」
「それはこないだ謝ったでしょ」
新嶋さんにはバイトが被った日に誘いをかけたのだが、その時は珍しく取り乱した姿を見せた。何をそんなにと思っていたが、話しているとお互いの食い違いがあることがわかったので、さすがに言葉足らずということで謝罪はした。
もう過ぎたことなんだから弄らないでくれよ。
「私はそれでガッカリしましたけどね」
ボソリと呟く瀬川さんの言葉が上手く聞き取れなかったので、「えっ? どうかした?」と訊ねるが、慌てた様子で「何でもないです」と愛想笑いを浮かべた。
「あと二人誘うっていうから誰かと思ったら、まさか瀬川さんと新嶋さんで私は驚いたけどね」
少し冷めた様子で俺を見つめる浅見。何か不満でもありそうな雰囲気を感じ取るが、隣にいる寺島が「本当にね~」と乾いた笑みをするので、そっちの方が気になってしまう。
「いや~、これだけ美女が揃ってると花があるよね~」
この中でも塚本は呑気なもので、感慨深そうに四人の美女を見比べていた。
「瀬川さんはお嬢様らしい清楚な雰囲気がいいし、新嶋さんのラフな格好も捨てがたい。それと浅見さんのこないだとは違った可愛らしい恰好がまた新鮮でいいし、真紀も少しは見習うべきじゃない?」
「口を縫われたくなかったら黙れ」
寺島は割りとボーイッシュな格好が好みなのか、確かにこの面子で比べてしまうと一人だけ女子っぽさからは遠いかもしれない。けれど別に悪くないとは思うけど。
「塚本さんはイケメンですが、喋るとなんだか残念な感じがしますね」
言い得て妙とはまさにこのこと。新嶋さんは人を見る目があるかもしれない。
「私の恰好は結構適当なのでさて置き、瀬川さんの服装は確かに清楚ですよね」
ジロジロと頭のてっぺんから足の先まで値踏みするように見る新嶋さん。瀬川さんは少し照れた表情で「最近新しく買ったんです」と話してくれる。
「どうですか相馬くん。似合ってますかね?」
「えっ? 俺?」
「はい」
そんな満面の笑みで、期待に満ちた目で見られても困るんだけど……。
一度瀬川さんの服装を確認する。
モスグリーンの七分袖のシャツにクリーム色のフレアスカート。清楚系を地で行く格好で、瀬川さんに非常によく似合っている。
「えっと……似合ってると思うよ」
「本当ですか?」
「嘘ついてどうするの?」
「そうですけど……嬉しいです」
頬を緩めた表情で照れる瀬川さん。なんかもう、服装うんぬん除いて瀬川さんが可愛いんだけど。
「車待たせてるんじゃないの?」
不満そうな声で、浅見は俺を睨みつける。
「ああ、そうだった。早いとこ行こう」
ずっと路上駐車をしていると、警察に目を付けられかねないし。
浅見の一言で、皆せかせかと移動し始める。場所は俺しかわからないので先頭を歩くのだが、その横にぴったりと不機嫌そうな浅見が付いてくる。
「……ねぇ、相馬」
「ん? どうした?」
「……どう?」
「……えっ?」
「だから、私の服装はどうかって聞いてるの」
「ああ、えっと……」
歩きながら浅見の服装を見る。
先程塚本が言ったように、こないだ見た動きやすそうな格好ではなく、初めて一緒に出かけた時のような格好に近いかもしれない。白のシャツに黒のキャミソールワンピのモノトーンコーデ。そしてハーフアップにした髪型。正直凄い可愛いと思う。
「ああっと……いいと思うけど」
「けど?」
「……えっ?」
「け~ど~?」
ジーっと睨んで来る。
「なんだよ?」
「別に? さっきはあっさり似合ってるって言ったのにな~っと思って」
瀬川さんに言ったことを言っているんだろう。確かに言い方が悪かったのは認めるが、今のでなんとなく伝えたい意図を汲み取って欲しいものだ。
「似合ってるよ」
「本当に?」
「嘘は言わないって」
「可愛い?」
「えっ?」
「かわいい~?」
これは……言わないといけないのかもしれない。ただ正直、素直に言うのはこっぱずかしいな。
「……可愛いよ」
「……フフッ」
「なんだよ?」
「ううん。ありがと」
先程とは打って変わって、上機嫌になる浅見。本当になんだったんだ?
ほとんど言わされた感はあるが、浅見が不機嫌にならなかったからいいか。それに本意と言えば本意なんだよな。浅見の服装が似合ってるのはそうだし、正直本当に可愛いと思っている。ただやっぱり……直接言うのはむず痒い。
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