第129話(サイドt):体育祭の種目決め問題

 文化祭の日が迫る中、もう一つの巨大行事も動き始める。


 何を隠そう、それは体育祭だ。


 文化祭が文化部の祭典であるなら、体育祭は運動部の祭典。これまで無駄に鍛えてきた筋肉だとか持久力をフルに使って、とにかく相手よりも自分が上なんだと誇示するためのお祭りだ。

 小学生の時なんかは、徒競走で足が速ければモテたものだが、さすがに高校生ともなると、そんな単純は思考回路で相手のことを好きになったりはしない。高校生でモテる人と言うのは、顔がよくて実力もあって、チームを勝利に導くようなそんな男だろう。


 結局は総合力が全てだ。


 そしてこの学校でそんな人間がいるのかと問われれば、私は嫌だと思いながらもヤツのことを言わざる終えない。


 塚本誠治。バスケ部のエースにして学校の王子様プリンス。ヤツに笑顔を向けられたら最後、恋に落ちる音が聞こえるとか聞こえないとか。

 とにかく、身体能力と顔のスペックが高いヤツだ。モテるのも頷ける。でも私は、そんなあいつのことが本当に気に入らない。


「真紀」


 甘ったるい声に呼びかけられるも、私はそれを無視して遠くを見やる。明確な拒絶を見せるも、ヤツはそんなことお構いなしに「真紀もクジ運なかったの?」と隣にやってくる。


「災難だったね。まさか紅白対抗リレーに選ばれるなんて」

「ほんと……」


 最悪だ。なんでったってこいつがここにいるんだ。本当に、私の運を呪いたくなる。


 今日は体育祭に向けた準備として、紅白対抗リレーの顔合わせが行われていた。紅白対抗リレーとは、各学年の各クラスから代表者を1名募って構成された、1年生~3年生の合同競技だ。うちの学校は1学年6クラスで赤と白に分けられる。赤が3クラス、白が3クラス。それが各学年なので赤9の白9。なので紅白対抗リレーは9対9のリレーになる。

 だいたいがくじ引きなどでアトランダムに選ばれるという話だが、最後の体育祭だからと3年生は希望者が出ることが多いそうだ。ちなみに私のクラスは希望者はいるわけもないのでくじ引きが行われ、私が貧乏くじを引いてしまった。


 持久走なんかはまだできる方だけど、徒競走となるとさすがに無理がある。私は運動ができる方じゃないから、50m走でも大体10秒台、高校生2年生女子の平均を大きく下回る成績だ。

 これもちなみになのだが、うちのクラスで一番運動ができるのは当たり前に紗枝で、一番運動ができないのは意外にも瑠衣。幸恵も苦手っぽいけど、瑠衣の運動音痴具合は本当に驚かされる。

 特に球技なんかやらせた日には、大体こけて見学してるか、トンチンカンな動きをしてるかのどちらかだ。本人としてもそんな姿を見せたくないので、基本は手を抜いている風にしている。こういうところで、あいつの面の皮の厚さが出てるよな。


 まあそんなわけで、私はこの種目に乗り気ではない。くじ引きで決めさせられたわけだし、できることなら走りたくもない。ただ決まってしまったことなので、仕方なく参加はしている。それが礼儀だと思っているから、文句を言うつもりはない。ただそれは、この場に塚本誠治がいなかった場合によるだ。


「あんたがここにいることが災難だわ」

「うん。真紀ならそういうと思ってた」


 理解されていることが気持ち悪い。鳥肌が立ちそう。


「なんで何種目もあるのに、ピンポイントで会いたくない奴が隣にいるのよ」

「俺はピンポイントで会いたい人が隣にいてくれるのは嬉しいよ?」

「あんたの意見なんか聞いてないから。勝手に口を開かないで」

「横暴にもほどがあるね」


 私は大きなため息を吐いて、いつも通りの笑顔を向ける塚本のことを見やる。


「というかなんで白組なのよ」

「それはどうあがいても変えようがないよ、真紀」


 ヤツがつけている鉢巻は、私が今している鉢巻と同じ色。くしくも同じ色のチームメイトになってしまったのだ。これがまだ敵とかだったら、このやり場のない怒りを闘争心に変えることもできたろうに、味方となるとどうしようもない。


 もう一度大きなため息を吐いて「とりあえずもう話しかけないで」と塚本を突っぱね、適当にその場を離れる。

 さすがに私の憔悴した姿に、あの塚本も追ってくることはなかった。

 ひとまずはこれでなんとかなればいいけど……なんか嫌な予感がするんだよな~。


 一抹の不安を抱えながら、リレー担当の先生がやってきたので、説明が始まった。


 ~~~


「ということで、順番はこの通りでいく」

「……」

「……まあ、仕方なかったんじゃない?」

「ちょっと黙って」

「はい……」


 一通りの説明が終わり、色ごとに集まっての作戦会議。リレーの順番を決めることになったのだが、そこで悲劇が起こった。

 私は集まったメンバーの中で最も足が遅く、そして塚本が最も足が速い。別にそれはまあよかった。塚本の足の速さは知っていたし、私の足の遅さも知っているから。問題はその後だ。


「トップバッターは安達、次が寺島で、3番手は塚本だ」


 3年生の先輩が淡々のリレーの順番を読み上げていく。それを聞きながら、私は自分の足の遅さを呪った。


 私は足が遅い。だからその時に生じるロスを一番足の速い塚本で補うというのが今回の作戦だ。だから私の後に塚本が置かれることになった。


 いったい私が何をしたっていうんだ!


 できる限り関わりたくなかったと言うのに、否応なしに絶対関わらなくちゃいけなくなってしまった。


「大丈夫だよ真紀。俺がフォローするから」

「その心配はしてねぇよ……」


 私が足が遅いのを気にしているとでも思ったのか、はたまたただの気遣いか。けれど、その言葉は私に対しては逆効果だ。


 ほんと……災難すぎる。

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