第42話:待ち合わせ

 デートとは、男女が日程を決めて会うこと。その約束。


「……」


 ネット調べたデートの定義を確認して、眉をしかめる。


 とある駅前の時計のモニュメントの下。時計の周りを囲うようにして置かれた椅子に腰をかけ、スマホを睨み付けながら俺は待ち合わせている女子を待っていた。

 時刻は13時半、約束の時間まで30分も前に現地着いてしまった。

 けして逸る気持ち押さえられずに、時間よりも早く来てしまったというわけではない。むしろ普段学校に行くように、適当に10分前に着けばいいかな~。なんて考えていたのだが。思ったよりも目的地が近かったようで、こうしてずいぶん早く着いてしまったのだ。


 時間の目測を完全に間違えた。まあ、遅刻するよりかはましだな。


 スマホをしまって行き交う人たちに視線を向ける。土曜ということもあり、駅前はカップルや友達同士の人たちが目立つ。俺の周りに座っている人たちも、誰か人を待っているのがほとんどで、ごめんまった~? みたいなやり取りが先ほどから見受けられる。


 手持ちぶさたな俺は、しまったのにまたスマホを取り出して。適当にネットサーフィンをすることした。といっても、ネットを使うときは基本検索でしか使わないので、グーグル先生のネットニュースなんかを閲覧するぐらいしかすることがない。

 トップに出てるのは経済や殺人事件や事故の報道、社会問題などの暗めの情報の他、誰々が結婚したなどの明るい話題も取り上げられている。

 画面をスライドさせながら、気になるものがないかを確認するが、正直刺さるものがない気がする。


 意味もなくeスポーツの話題をタッチして内容を確認してると、不自然に画面が影に覆われた。

 顔をあげると、そこには浅見が興味深そうに俺のスマホを覗き込んでいた。


「浅見」

「早いじゃん」

「……遅れるよかましだろ? そういうお前も早いじゃないか」

「相馬と出掛けるのが楽しみだったから」

「おま……」


 ニヤついた笑みを浮かべる浅見。

 からかわれたことにたいして、このやろう、と思うが、なんだかこんなやりとりも久しぶりなような気がする。

 懐かしいというよくわからない感情を感じながらも、「どうせ冗談なんだろ」ため息を吐きながら伝える。


「本当」

「……えっ?」

「本当。楽しみだったから早く来ちゃった」


 照れたような視線をそらして、俺のことを見ては視線をそらし、また見てはそらしをする浅見。いままでにない返しに、戸惑いが隠せない。

 えっ。いやさすがに冗談だろ。俺が今まで浅見にからかわれてきたことを思い出せ。きっとここから俺が戸惑ったことを察して、うっそ~。とか言うに決まってる。

 そんなのに誘われる俺だと思うなよ。


 そう決めつけて浅見の次の行動を見ていると、少し口をすぼめて拗ねたような顔をする。


 あれ? もしかして本当にそう思ってた?


 いつもだったらここで冗談だったらカミングアウトしてくれるのだが、なかなか冗談だと言ってくれない。ということはもしかしなくても、本当に楽しみだったから早く来てしまったのか? そんな小学生が遠足の前日になかなか寝れないみたいな、そんなちょっと可愛らしいことをしたのか?

 でもそれって……どうして?


 浅見の顔を凝視する。戸惑いを隠しきれず、けれど何を訪ねればいいのか頭のなかで整理ができていない。何を訊けばいいんだ?

 すると浅見が、プッ。っと吹き出したかと思ったら、「冗談だよ~」と笑いながら教えてくれた。


「そんな小学生みたいなことするわけないじゃん」

「だ……よな。いや、わかってたし。うん」


 だよな。そりゃあそうだよ。あぶねぇ。危うく直球で何で? って聞きそうになった。


「あれ~? もしかして、ちょっと意識しちゃった?」


 まさにその通りである。

 図星をつかれて、ピクリと眉が反応する。その一瞬を逃さない浅見は、スッと隣に座ったかと思ったら、肌が触れるほどの距離まで寄り添って来た。

 浅見の今日の服装は、夏らしく腕を出したトップスにロングスカートという格好をしているため、彼女の二の腕が俺の二の腕に当たる。ひんやりとした感触が伝わり、自分の顔が熱くなるのがわかる。咄嗟に距離を取るが、それがあからさま過ぎたのか、浅見はまたニヤついた笑みを浮かべて寄りかかるようにして距離をつめた。


「おい」

「なに恥ずかしがってるの? これぐらいのスキンシップはいつもあったじゃん」

「そりゃあそうだけど……人前だぞ?」

「大丈夫だよ。他の人からは、カップル……にしか見えないから」


 それはそれで問題があるんじゃなかろうかと思ったが、ひとまずこれ以上引っ付かれるのは俺も対応に困ってしまうので、手のひらで押し退けて立ち上がる。


「そろそろ行こうぜ」

「あからさまに押さなくてもいいじゃん」

「いや、あんなに近づかれるのは……ちょっと」

「ふ~ん。まあいいけどさぁ。それじゃあ行こっか」


 浅見も立ち上がり、俺の先を行く。彼女の隣にならび歩き、「それで、結局どこに行くんだ?」とこれから行く場所について訪ねる。

 曜日と時間を決めはしたが、肝心の行き先については浅見が任せてほしいと言ったので、特にどこに行くのかは訪ねなかった。


「決めてないよ」

「えっ? そうなのか」

「うん。今日は散歩することが目的」

「なんだそれ?」

「ええ~よくない? 知らない土地に来て、いろんな場所を見て廻る。趣味としても有りだとは思うよ?」

「まあ……なくはないのか」


 そもそも今日一緒に出掛けるのは、俺の趣味開拓のためにいろんなことをしてみようという。ふわっとした目的のためでもあるのだ。

 正直、やりたいものがあるというわけでもないし、せっかく提案してくれてるんだから、何でも試してみるのはありだな。


「散歩するか」

「うん。ぶらぶらしましょ~」

「浅見も来たことないのか?」

「そうだね~。定期圏内なんだけど、降りたことはなかったかな」


 今回場所を選んだのは浅見なのだが、俺たちが定期圏内で行ける場所にしようということで、お互いの定期で重なる場所にした。

 俺もこの駅は通りすぎるだけで降りたことはなかった。駅が二つ三つ隣になるだけで、町並みが様変わりするのは見ていて面白いとは思う。


「あっ、地図あるよ」


 駅前にある地図を発見した俺たちは、とりあえずどんな町なのか確認する。

 ただ地図見ても何がなんのかよくわからない。


「今ここだね」


 地図上の現在位置の場所指差す浅見。


「大きな公園あるよ」

「本当だ」


 南の方にかなり歩いたところに、かなり大きめ公園があるようだ。見た感じかなりの面積だな。


「行ってみる?」

「適当にぶらつくんじゃないのか?」

「その場で適当に行き先を決める。これもぶらつきの醍醐味じゃない?」


 わからないような、わかるような。そもそも散歩することもないからわかる訳ないし、まあいいか。


「行ってみるか」


 浅見は笑顔で頷いてくれた。

 お互いに歩幅を合わせながら歩き出し、その公園を目指すことにした。

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