第161話:文化祭の衣装合わせ①
文化祭まで残り3日。いよいよ準備も佳境に迫ってきている。
ほぼ全てのクラスがドタバタと世話しなく動いており、それはうちのクラスも変わりない。隣のクラスとの合同で行っている分、作業の進行自体は早いものの、スペースも一クラス分多いいために実際問題は遅れていると思う。
クラスの進行ペースを管理している羽崎さんによると、衣装がだいぶキツイらしい。こないだも「このままだと制服で接客することになる!」と険しい顔で唸っていた。
うちが隣のクラスと合同で出店する文化祭の出し物は、和風喫茶。その名前の通り和の物にコンセプトを置いた喫茶店で、お茶や団子を提供して、店員は皆和服に着替えて接客する。
料理の提供は事前に動いてくれていた人たちのおかげでどうにかなりそうなのだが、和服に関しては元々持っている人が珍しいものなので、服を縫える被服部兼コスプレ部の面々が手作業で行うことになっていた。材料費はもちろん生徒たちで持ち寄りだ。
もちろん和服を持ってる人、幸恵のような日常的に和服を着るような家庭の人はそれを持参することになっている。ちなみに俺はもちろんそんな物持ってる訳がないのでコスプレ部の面々にお世話になろうかと思ったが、そこに助け船が来た。
「サイズ的に合うと思うんですが、大丈夫ですか?」
「うん。案外ぴったりかもしれ――っ!」
「ごめんなさい! 痛かったですか!?」
「大丈夫。帯はキツク締めないとだよね」
幸恵の家で着なくなった和服を、いくつか貸し出してくれることになったのだ。これでコスプレ部の負担も減らすことができるので、幸恵には感謝してもしきれない。実際にコスプレ部の部員さんは泣いて喜んでたもんな。
そういった経緯もあって、衣装合わせに関してはかなり遅くなってしまい、ようやく今日、ホール担当の面々の衣装が出そろう。
「はい! これでOKです!」
帯をキツク締めた幸恵が「ふ~……」と息を漏らした。今日は何人もの着付けもしているから、そりゃあ疲れもたまってくるよな。
「お疲れ様」
「いえ。着付けができる人も限られてますし、これくらいはなんてことありません!」
力仕事は任せてください! とでも言いたげにアピールをしてくれるが、明らかに疲れているのが目に見えた。あとで甘い物でも差し入れしてあげよう。
「それに……」
ジッとこちらを見つめたかと思ったら、頭のてっぺんから足の先までじっくり見られてから、どこか嬉しそうにほほ笑む。
「……どうかした?」
「あっ! いえ! 何でもないです!」
焦ったように取り繕った笑みを浮かべる幸恵。どこか変なとこでもあったのか不安になったが、「次の方が待ってるんで!」と半ば無理やり、着付け部屋として使用している隣のクラスから追い出された。
「なんだったんだ?」
訳が分からないが、とりあえず戻ろう。
自分の教室に戻ると、和服に身を包んだ人たちが楽しそうに、綺麗に着飾った姿を見せびらかしている。
こうしてみると、教室なのに教室じゃないような違和感を感じるな。なんていうか、異質だ。
とりあえず隅の方で待ってようと思いそちらに向かうと、窓枠を背にスマホを弄る寺島の姿があった。彼女も和服に身を包んでいるが、小柄な体系も相まってか幼さがより際立ったように感じてしまう。
赤みの生地に花が散りばめられた柄で、綺麗は綺麗だ。
ただ普通、和装って大人びて見えるような印象があるのに、服に着られてる感がすごい。それによりいっそう、ちんまりに見える。
……こんなこと言ったら殺されるだろうな。
寺島は近づく俺に気が付くと、スマホから顔を上げて俺を見上げた。
「お~……案外、あんた和服似合うね」
「そうか? あんま自分じゃわかんないんだが」
「服が着て立ってるよりはマシじゃない?」
それは自分のことを言ってるのだろうか? じゃないとしても言い方キツ。
「欲を言えば、もうちょっとタッパがあった方がよかったかもね」
「身長だけはな~。どうしようもねぇな」
「ははっ。自分も言っててむなしくなるわ……」
寺島のこのクラスでもっていうか、女性一般から見ても低身長なので、完全にブーメランだったな。
「まあ普段から着てないし、着られてる感は拭えないからね。私も幸恵に似合ってますよって気使わせちゃったし」
なんか目に浮かぶなそれ。
「ただまあそれも……あいつにとっては無意味でしょうね~」
「ああ……だろうな……」
寺島の言うあいつが誰なのかはご存じの通りで、この喫茶店最大の見せ場で一大コンテンツでもある。あいつをホールで出さない方が、むしろどうにかしているだろう。
「「「「「「「きゃーーーーーーーー!!!!!!!!」」」」」」」
何よりの証でもある黄色い声援がこだまする。
うちの喫茶店最大の広告塔。塚本誠治が着付けを終えて帰ってきた。
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