第121話:いざ誕生日!
「それじゃあ瀬川っちと、だいぶ遅くなってしまったあさみんの誕生日を祝して~。かんぱ~い!」
「「「「「「かんぱ~い」」」」」」
誕生日のプレゼント選びから二日たち、今日は幸恵の誕生日と、9月で過ぎてしまったが紗枝の誕生日をお祝いする日になった。
今日は普通に学校があったので、お祝いは放課後まで待つことに。しかも会場というか、日角が軽音楽部の部長である柳さんを説得して教室を一つ確保してもらい、そこを使って誕生日会が行われることになった。
一体どういう人脈を使えば教室をまるまる一つ借りれるのかわからないが、それでも場所を作ってくれたのは非常にありがたい。こないだのプレゼント選びといい日角様様というか、俺たちはこいつにお世話になりっぱなしだな。
今日の誕生日会に出席しているのは主役の紗枝と幸恵、他に俺と塚本、寺島、新嶋さん、そして日角の計7名だ。
食べ物や飲み物類は主役以外の5人で折半して、放課後になった時に近くのコンビニから買ってきた。ちなみにケーキもコンビニの物なので、ホールケーキではなくお一人様ようの小さなものがあるだけになっている。
「皆さん、ありがとうございます。私たちのためにこんなことまでしてくれて」
飲み物を一口飲んでから、幸恵は嬉しそうに俺たちを見渡す。紗枝もそれに続き「うん。ありがとう皆」とお礼を言った。
こちらとしても、その顔が見れただけでこの誕生日会を開いた価値があったというものだ。お礼を言うのは、むしろこちらなのかもしれない。
「まあ、盛大にってわけにはいかなかったけどね。ケーキもコンビニだし」
謙遜する日角に、幸恵は「そんなことないです! 大きさなんて関係ありませんよ!」と食い気味に言った。
「そうそう。こうしてお祝いしれもらうだけでも、私たちは十分嬉しいし。ありがとう、日角さん」
紗枝の言葉に日角は「それならいいけど」と微笑んだ。
「いや~、本当だったら店長が作ってくれるはずだったんですけどね~」
思い出したかのように苦い顔をした新嶋さんは「学校の冷蔵庫の使用許可が下りなかったので、持ってこれなかったのが残念です」と愚痴をこぼした。
新嶋さんはおとといのバイトの日に店長にこのことを話したようで、店長も『ケーキなら任せな』とか言ってすごくノリノリだったらしい。しかし学校の備品を個人の目的で使用することができず、結局この話はなかったことになったのだ。
その話をした時の店長の顔を言ったら、おもちゃを取り上げられた子供みたいに絶望してたな。
「なのでお二人とも、時間があるときでいいのでまたいらしてください。店長もきっと喜びますから」
「そうだね。近いうちに行ってみるね」
「私もそうします」
「ありがとうございます」
「たぶん、ケーキとかいくつもプレゼントしそうだな」
大人だけど子供みたいな店長の姿を想像して可笑しくなる。新嶋さんもそれを想像してか、「ありそうですね~」と笑った。
「美味しいお菓子もいいけれど、そろそろこっちじゃない?」
塚本はそうい言うと、懐から小袋を取り出した。
「これは俺からの誕生日プレゼント。どうぞ受け取ってください」
手慣れた受け渡しに、いままでどれだけの女子にこれをしてきたのだろうと考えさせられる。まあ塚本は性格上、知り合いの誕生日には顔を出すし、プレゼントも持ってくるだろう。それに女子からの人気もあるし友好関係も広いから、それとなくお呼ばれして、ひとまず当たり障りない物を送るんだろうな。
「慣れてるのがキモイ」
「辛らつだね」
そしてその光景を見て、言わなくてもいいことをはっきり言う寺島。言い方がかなりガチっぽいので、本当にキモイと思ってるんだろう。俺から見たら別に普通なんだけどな。
塚本がプレゼントしたのはヘアピンだった。「二人とも髪が長いからね」というそれだけの理由だったが、それを見た俺はその手があったか! と心の中で叫ぶ。こればかりは経験値の差か。
塚本のプレゼントを皮切りに、新嶋さん、寺島、日角の三人も各々買ってきたプレゼントを手渡す。新嶋さんは店長のところからふんだくった、お湯を注ぐだけ作れるインスタントコーヒー。寺島は紗枝には以前にプレゼントを渡しているということで、幸恵にアロマキャンドルを。日角は二人に似合いそうなマニキュアとリップクリームをプレゼントした。
「あさみんは絶対赤っぽいのが似合うから淡いピンクのマニキュアで、瀬川っちはお琴やってるって聞いたからリップクリーム。これだったら爪のこと気にしなくてもオシャレできるでしょ?」
「めっちゃ可愛い~!」
「日角さんって、もしかして琴の経験者ですか?」
喜ぶ紗枝と、不思議そうに日角を見る幸恵。質問の意味が俺にはよくわからなかったが、「ベースやってたらわかるって」と返した。それだけで二人では通じ合うものがあったのか、「ありがとうございます!」と胸の前でリップクリームをギュッと握り閉めていた。
さすがに疑問だったので、隣にいた寺島に「どういうこと?」と尋ねたら。「玄を指で鳴らしたりするから、爪が伸びてると引きにくかったりするの。たぶん琴も似たようなものでしょ。同じように玄を指で引くんだから。それに、ネイルってある程度は爪が伸びてないと見栄えが良くみたいだし」と説明してくれた。
「まあ、今は爪を付けて外してってできるみたいだけど。私はよくわかんない」
「寺島ってオシャレには疎そうだもんな」
「確かにその通りだけどあんたに言われたくないわ」
「すいません」
「それよか、さっさと渡して来たら? あの二人も、あんたからのプレゼントを待ってるんだから」
そう言われて二人を見ると、どことなくそわそわしているような……そうでもないような。ただこの場で渡していないのは俺だけなので、自然な流れで小袋を二人に一つずつ手渡した。
「塚本みたいに気の利いたものじゃないけど、ちょっとビビッ! っと来るものがあったからこれにした」
「なんでしょう?」
「変なのじゃないよね?」
一応、釘刺されてるから変なのではないが。正直おこちゃまみたいなプレゼントになってしまって、この場で開けられるのが非常に恥ずかしい。なんで俺もヘアピンみたいな、女子がもらっても無駄にならない物を選ばないんだよ。
二人は袋を開封すると、同時に「「ん?」」と声を漏らした。中から取り出したのは、犬のイヤホンジャック型のキーホルダーだ。紗枝が持っているのは柴犬で、幸恵が持っているのが秋田犬。
あの雑貨屋さんでこれが並んでいるところを見て、なんか二人のことを連想してしまったのだ。さすがに二人のことをまんま“犬”とはもちろん思ってないけど、二人のことを動物に例えるなら犬だなとは、思ってたりする。
それと単純にかわいかった。イヤホンジャックだったらあまり場所もとらないだろし、付ける付けないはその人の裁量に任せられる。
それにお値段もお手頃。気を遣わせる心配もない。
「へ~」
紗枝はキーホルダーを手に取って、顔をニヤつかせながら値踏みするように見ていた。
「これくらいしか思いつかなかったんだ」
咄嗟に言い訳が出てしまったが、紗枝は「優にしてはセンスいいじゃん」と褒めてくれた。
「ありがと。大切にする」
そう言って笑う姿を見て、ホッとした気持ちと、嬉しさが込みあがってくる。
ひとまずよかった。幸恵は?
紗枝の隣にいる幸恵を見ると、明らかに頬が緩んでいて、すごく嬉しいんだなという気持ちが伝わってきた。
ジッとキーホルダーを見ていた幸恵は、ハッと気が付くと慌てたように「優くん! ありがとうございます!」と俺にお礼を言った。
「すごくかわいい。私も大切にします!」
「うん……なんか照れるな」
言ってしまえばはした物なのに、そこまで喜んでくれると、選んだこっちが逆に恥ずかしくなってしまう。それでも二人がよかったって思ってくれたなら。このプレゼントは正解なんだろう。
「幸恵、プレゼント並べて写真撮ろ?」
「はい!」
主役の二人は俺たちのことはそっちのけでプレゼント撮影会を始めてしまった。なぜか女子というのはこういうところで写真を撮りたがるのか、理解はできないけど楽しそうならそれでよし。
さてと。皆の注目が向いていない今のうちにもう一人。
少し皆の輪から外れたところにいる日角のところに向かう。彼女は「どうしたの?」と小首をかしげるので、「はい」と小袋を差し出した。
「何?」
「お礼と、遅くなったけどプレゼントかな」
日角は「わざわざいいのに」と悪態をつくが、どことなく声が嬉しそうに感じる。表情がいつもと変わらなから、違いがいまいちつかめないけどな。
「同じ奴?」
「そっ。甲斐犬っていう犬種のキーホルダー」
「相馬からみたら私も犬か」
「いや、そういうわけじゃ……」
「まあ、間違ってはないのかな」
「……えっ?」
聞き捨てならない言葉を聞いた気がしたのだが、それをついて追及するよりも早く「あさみん、瀬川っち~。写真撮らせて~」と二人の方に向かってしまった。
……もしかして日角って犬好きなのかな? 犬に見られることが別に嫌いじゃないってことなら、たぶん好きなんだろうな。でも本当はどういう意味なんだろう?
しかしタイミングを逃してしまえばそれで終わり。結局その後も日角に聞くこともなく、皆で二人の誕生日会を楽しんだのだった。
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