西園寺蘭子の霊感情話
神村律子
序章
廃校の階段
G県のT市は、合併で面積が大きくなり、児童生徒数も大幅に増えました。
しかし、逼迫した財政を立て直すため、小中学校の統廃合を進めたのです。
そのため、多くの児童生徒が通学する学校を変える事になりました。
廃校になったある山沿いの小学校に、ある噂が立ち始めたのはそれから数ヶ月後の事でした。
「廃校になった小学校に少女の幽霊が出る」
そのような噂でした。
噂はやがてテレビ局の知るところとなり、在京キー局が取材に訪れました。
スタッフとリポーター役のタレントの、合わせて二十名程が、その噂の廃校に突撃しました。
そして、恐怖におののき、まさしく逃げるように帰って行ったのです。
地元の人達は皆口々に、
「触らぬ神に祟りなしだ。近づかない方がいい」
と言い、それ以降マスコミの取材を拒否するよう、市役所に申し入れました。
そもそもそんな噂を信じていなかった市の教育委員会は、テレビ局のスタッフの慌てように驚愕していました。
「放っておいていいものか?」
「子供達が近づいて、取り返しのつかない事になったら」
彼らは一計を案じ、私のところに連絡して来ました。
私の名前は西園寺蘭子。霊能者です。
教育委員会は、私に除霊を依頼して来ました。
私は引き受けるかどうか、一度現場を見てから決めたいと答え、廃校を訪れました。
その建物は戦前に建てられた木造二階建てで、あちこちが朽ちています。
「ここは……」
私は唖然としました。
廃校が建っているところは、昔の刑場でした。
たくさんの罪人が殺されたところです。
しかし、矛盾します。
噂では少女の霊が出ると言う。
テレビ局のスタッフ達の話でも、霊は少女らしいのです。
私は考え込んでしまいました。
そして、取り敢えず建物の中に入ってみる事にしました。
!
そしてわかったのです。
刑場の怨霊が学校によって封じ込められている事が。
「何、これ? この建物が、結界になっている。どういう事?」
廊下に入ると、空気が一変しました。
「まさか。まさかとは思うけど……」
私が下した結論は「少女は学校の人柱にされた」というもの。
「こっちね」
私は廊下を奥へと進み、階段の前に来ました。
「ここから一番波動を感じる。この下なの?」
古い木製の階段。
私は一段一段踏みしめるように昇りました。
「えっ?」
私は足が動かせなくなったのに気づきました。
「何?」
足下を見ました。
するとそこには無数の小さな手が出ていて、私の足を押さえていたのです。
「……」
私は心の中で地蔵菩薩の真言を唱えました。
その小さな手は消え、私は再び階段を昇りました。
すると今度は階段そのものが少女の姿になり、私に襲いかかって来ました。
「オンカカカビサンマエイソワカ」
再び地蔵真言を唱えます。少女達の霊は消えました。
「でも妙ね。生徒達がいた時は、ここにはそんな噂はなかったと言うし」
私は廃校を出て、市役所に向かいました。
「廃校を撤回しろ? 無茶を言わんで下さい」
教育委員会の答えは始めからわかっていました。
しかし、あの幽霊達が現れたのは、廃校になってからです。
彼女達は、その寂しさから姿を現し、「いたずら」をするようになったのです。
今まで通り小学校として使えば、何も問題は起こらないはずなのです。
「もう廃校は議会の承認も得ている決定事項です。それに、幽霊が出ると言う噂の小学校に自分の子供を通わせる親御さんなんて、いないと思いますよ」
確かに彼らの言う通りかも知れません。
1人の力で何とかなるような事ではありません。
私はもう一度廃校を訪れ、彼女達に詫びました。
彼女達の声は聞こえませんでしたが、残念がっている波動は感じました。
その小学校は今でも取り壊されずにあるようです。
いつか、彼女達の願いが叶えばいいな、と思っています。
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