内海帯刀
私は西園寺蘭子。霊能者です。
あらゆる災いの元凶である内海帯刀という呪術師が動き出したのを受けて、私達は集結しました。
私と弟子の小松崎瑠希弥。
そして、親友である八木麗華、そのお父さんである心霊医師の矢部隆史さん、お母さんである岡本綾乃教授。
更には、瑠希弥の姉弟子的存在である椿直美さんが、長野県の霊媒師の里から十人の名だたる霊媒師の皆さんと共に駆けつけてくれました。
「椿さん、お久しぶりです」
私はもう泣きそうになっている瑠希弥と共に椿さんを玄関で迎えました。
「お久しぶりです。こんな形でまたお会いするのは嬉しくないのですが、でも皆さんに会えて良かったです」
椿さんは里の霊媒師のお婆さん達を紹介してくれました。
皆さんには、矢部医師の診療所に矢部さんと岡本教授が張ってくれた結界を強化する仕事を請け負ってもらいます。
椿さんと瑠希弥を育てた皆さんですから、感応力は抜群です。
「お初にお目にかかります、岡本先生」
椿さんは岡本教授にも挨拶していました。
「こちらこそ、いつかお会いしたいと思っていましたよ、椿さん。貴女のおっしゃるようにこのような時に会うのは嬉しいとは言えませんが、お会いできて光栄です」
「そんな、こちらこそ……」
椿さんは、尊敬している岡本教授から「光栄です」と言われて戸惑っているようです。
「小包です」
そこへ郵便局の人が三十センチ四方の段ボール箱を持って現れました。
「小包?」
家主の矢部さんが岡本教授と顔を見合わせます。途端に瑠希弥が動きました。
「オンマリシエイソワカ」
瑠希弥はいきなり浄化真言である摩利支天真言を唱えました。
「ぐげ!」
真言を浴びた郵便局員が呻き声をあげて両膝を着きました。
「何や、こいつ!?」
麗華が掴み掛かろうとするのを椿さんが止めました。
「麗華さん、危険です。近づかないで!」
「ええ?」
麗華にも私にも何が起こっているのかわかりません。
郵便局の人からも、小包からも何も感じられないからです。
『わからないのか、もう一人の蘭子! 代われ!』
私の中のいけない私が強制的に私を下がらせ、表に出ました。
「手ぬるいぞ、瑠希弥!」
いけない私は印を結んで、
「インダラヤソワカ」
攻撃真言の帝釈天真言を唱えました。
「ぐぎゃああ!」」
郵便局員は雷撃を受けて感電し、痙攣して土間でのたうち回りました。
『ちょっと、もう一人の私、やり過ぎよ!』
私が窘めると、
「いえ、先生、やり過ぎではありません。その人は
瑠希弥が言いました。死人? もしかして……?
「復活の会という邪教集団が得意とした復活人です。肉体はごく普通の人間ですが、霊体は邪法師です」
椿さんが教えてくれました。やはりそうでしたか。
以前、G県の霊感少女である箕輪まどかちゃんに聞いた事があるのです。
「後は任せて」
岡本教授が倒れた郵便局員の額にお札を貼りました。続いて、矢部さんが段ボール箱にもお札を貼りました。
「この中にも得体の知れない魔物が入っているようだよ」
矢部さんは笑ったのでしょうが、引きつけを起こしたようにしか見えません。
緊急時にごめんなさい、矢部さん。
「いきなりこんな奴を送り込んで来るなんて」
矢部さんは
凄いです。さすが、岡本教授のご主人ですね。
「それだけ敵も我々を警戒しているという事ですよ」
そう言いながら、玄関に入って来たのは、G県の退魔師の江原雅功さんです。
途端に麗華の目が輝きます。気のせいか、椿さんの顔が赤くなったような気がしました。
「皆さん、お久しぶりです。ようやく英賢師匠の修行を終える事ができました」
雅功さんは爽やかな笑顔で言い添えました。よく見ると、山伏が着ている装束姿です。
あちこちが汚れたり破れたりしており、修行の凄まじさを感じます。
「江原先生、お久しぶりです。麗華が何かとご迷惑をおかけしております」
岡本教授が苦笑いして挨拶しました。
「おかん、そらないで」
麗華は口を尖らせて不満そうです。でも、嘘は言っていないのですから、仕方ありません。
「先生はやめてください、岡本先生。教授の貴女に先生と呼ばれるほどの人間ではありませんよ」
雅功さんは照れ臭そうに返しました。そして、モジモジしている椿さんに気づき、
「お元気そうで何よりです、椿さん」
そう声をかけました。そうか、椿さん、江原さんの事が……。そこまで考えたら、椿さんに見られました。
これもまどかちゃんに聞いたのですが、椿さんは心の声をかなり正確に聞き取れるようです。
聞こえてしまったのかしら? ちょっとバツが悪いですね。
「とにかく、急いで結界を完全なものにしましょう」
雅功さんが場の雰囲気を読んだのか、大きな声で言いました。
「はい」
それに応じ、私達はそれぞれの持ち場に動きました。
霊媒師の皆さん方は岡本教授と共に地下にある結界の中心に向かいました。
矢部さんと江原さんは診療所の外に出て、敷地の周囲を清める儀式を始めました。
残された私達は、思いつく限りのお札作りを開始します。
「椿さん、戦いが終わるまで、不可侵条約を結ぼか?」
麗華が椿さんにそんな事を囁いているのを聞きました。
「おう、麗華、何を企んでいるんだ?」
いけない私が嬉しそうに麗華に絡みます。
「な、何も企んでいませんよ、蘭子さん」
麗華は顔を引きつらせて言いました。
「麗華さんて、蘭子さんが怖いの?」
椿さんが瑠希弥に尋ねるのが聞こえ、ちょっとショックです。
そして、私達の作業が一段落した頃、江原さんと矢部さんが戻って来ました。
「準備は取り敢えずこんなところでしょう。これがどれくらい敵に対して有効かはわかりませんが」
江原さんの弱気な発言を聞き、
「何言ってるんだよ、雅功! あんたがそんな事じゃ困るぞ」
いけない私がまさかの呼び捨てで雅功さんに言いました。もうこの場からいなくなりたいです。
麗華はいけない私が怖いので無反応ですが、椿さんは驚いて目を見開いています。
それはそうですよね。ああ……。
「そうですね。おっしゃる通りです、西園寺さん」
江原さんは怒り出す事もなく、ごく普通に対応してくれました。大人です。
「む?」
その時、強大な気が接近して来るのがわかりました。
雅功さんと矢部さんが目配せし合いました。
「来たようです。皆さん、気を引き締めてください。奴は今までの邪法師とは格が全然違いますから」
雅功さんが凛々しい顔で言ったので、椿さんが赤面し、麗華がポオッとしています。
雅功さんは矢部さんと共に走り出し、外へ出て行きます。
いけない私も嬉しそうにそれに続きました。更に瑠希弥が続き、椿さんと麗華が走り出しました。
「え?」
外へ出てみて仰天してしまいました。
まだ昼間のはずなのに闇に閉ざされているのです。これが内海帯刀の力なのでしょうか?
「
どこからかまさに血も凍るようなおぞましい声が聞こえて来ました。声の主は内海帯刀でしょう。
震えてしまいそうなくらい強大な圧力がかかって来ます。
「おい、ジジイ! 隠れていないで出て来いよ。年寄りに付き合うのはあまり好きじゃないんだ。サッサと終わりにしようぜ」
いけない私がまた強烈な挑発をしてしまいました。もう項垂れるしかありません。
「そうだな。では、すぐに
そう言って現れたのは、まだどう見ても私達と同年代くらいの黒い羽織袴を身に
「おお!」
イケメン好きの麗華は、敵とわかっていながらもつい反応してしまったようです。
確かにその顔は見目麗しく、身体は一流の男性モデルにも引けを取らないスタイルです。
「内海帯刀、か?」
江原さんも初対面のようで、青年に確認しました。すると青年はフッと笑い、
「
その顔は微塵も揺るぎのない自信に溢れているように見えました。途轍もなく強そうです。
どう戦えばいいのかわからなくなりかけています。
西園寺蘭子でした。
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