最後の戦い
集結
私は西園寺蘭子。霊能者です。
今、私と弟子の小松崎瑠希弥は車で心霊医師の矢部隆史さんの診療所に向かっています。
希有の大修験者である名倉英賢さんの兄弟子であった内海帯刀という呪術師が動き出しました。
それを受けて、私と瑠希弥、そして親友の八木麗華、更には麗華のお母さんで、矢部さんの奥様でもある岡本綾乃教授が矢部さんの診療所に集まる事になりました。
そして、長野県の山奥村から、瑠希弥の姉弟子である椿直美さんも駆けつける事になっています。
直美さんは里にいる数多くの霊媒師の皆さんを伴って来るそうです。
それほどの霊能者が集まらないとならないほど、内海帯刀と言う人物は強大なのです。
「よう、蘭子、瑠希弥。早かったな」
診療所の玄関で麗華が出迎えてくれました。
「おはよう、麗華。矢部さんと岡本教授は?」
私が尋ねると、麗華は肩を竦めて、
「あの二人、夕べからずっと結界張ってるねん。内海帯刀ゆうジイさんは、大概の結界を蜘蛛の巣みたいに破ってまうらしいねん。そやから、念入りに作ってるらしいわ」
「そうなの?」
私は瑠希弥と顔を見合わせてしまいました。
矢部さんも相当な力を持っているのは、あの
「後は椿さん達やな。それにしても、どんだけ強いねんと思ってまうで、内海帯刀は」
麗華が身震いします。彼女がそんな仕草をするのは珍しいです。
矢部さんと岡本教授が真剣な表情で結界を作っているのを見て、何かを感じたのでしょう。
『大袈裟なんだよ、揃いも揃ってさ。内海なんていうジイさんは、私一人で捻り潰してやるよ』
それに引き換え、相変わらず強気発言のいけない私です。
「蘭子さん、内海帯刀のレベルは尋常ではありません。あの五十鈴華子が従うしかなかったのですから」
瑠希弥が言いました。確かに比較論として、私達が苦戦した五十鈴華子をして逆らう事を諦めるしかなかった存在なのですから、いけない私一人で太刀打ちできるとは思えません。
『何言ってるんだよ、瑠希弥。五十鈴華子なんて、私が本気になれば一瞬で倒していたんだよ。比べるのが間違いだ』
いけない私は瑠希弥の意見をあっさり却下しました。身の程知らずです。
「すみません」
素直な瑠希弥はいけない私の言葉にすぐに引き下がりました。
「いくら蘭子さんでも、内海帯刀は一人では倒せないと思うよ」
その時、診療所の奥からヌッと矢部さんが現れました。
私はもう少しで悲鳴を上げそうでした。ごめんなさい、矢部さん。
「おとん、いきなり出て来るのやめてんか? 心臓に悪いわ」
麗華がさすが実の娘という暴言を吐きました。矢部さんは顔を引きつらせて、
「すまない、麗華」
どうやら笑ったようなのですが、それも怖かったです。またしてもごめんなさい、矢部さん。
「こら、麗華、お父さんにそういう事を言うんじゃないわよ」
そう言いながら、矢部さんの後ろから現れた麗華によく似た顔立ちの黒髪ロングの女性。岡本教授です。
若いです。麗華のお姉さんにしか見えません。
但し、目を疑う麗華のファッションセンスと違って、チャコールグレイのスカートスーツを着ていて、大人の女性の雰囲気が漂い、素敵です。
幼い頃に亡くなった母を思い出しました。ほとんど覚えていないのですが。
「はあい」
麗華は舌を出して応じました。羨ましいです、その親子関係が。
「初めまして、麗華の母の岡本綾乃です。娘がいつもご迷惑をおかけしております」
岡本教授は微笑んでお辞儀をしてくれました。
「いえ、こちらこそ」
私と瑠希弥は慌ててお辞儀を返しました。すると教授は私をジッと見て、
「貴女の中にいるもう一人の蘭子さんは相当力が強いようですが、内海帯刀はもはや人外なので、勝ち目はないですよ」
「人外?」
私と瑠希弥は目を見開き、異口同音に言いました。岡本教授は大きく頷き、
「ええ。ここでは何ですから、中でお話ししましょうか」
私達は診療所の奥にある応接室に行きました。
「人外とは、どういう事でしょうか?」
私は勧められたソファに瑠希弥と並んで腰かけながら尋ねました。すると岡本教授は向かいのソファに矢部さんと並んで座って奇麗な脚を組み、
「言葉通りです。内海はすでに人の領域を外れています。あのネクロマンサーの近藤ですら、まだ人だったのですが、内海は人ではないのです」
近藤と比較されると、今までの戦いで一番苦戦したイメージがあるので、内海という人物の強大さが実感できます。
「彼の身体には鬼が降りたと言われているのです」
岡本教授は私と瑠希弥を交互に見ながら囁くように言いました。
「鬼、ですか?」
瑠希弥は身を乗り出しました。霊媒師である彼女には、興味深い話でしょう。
「それはあくまで噂なのですが、帯刀が、師匠であり父親でもあった
師匠であり、父親でもある人物? 瑠希弥がハッとしたのがわかります。
「その黎真様が、帯刀ではなく、名倉英賢様を後継者としたのですね?」
瑠希弥が言うと、岡本教授は微笑んで彼女を見ました。
「その通りです。そのせいで、帯刀は出奔し、黎真様は帯刀を破門しました。それが全ての始まりなのです」
教授の言葉に私と瑠希弥はギクッとしました。
「帯刀は長い間、英賢様を打ち倒す事だけを悲願とし、修行を積んでいたようです。ですが、黎真様がご存命の間はそれができませんでした」
「近藤光俊が悪行を重ね始めた時と、黎真様がお亡くなりになった時期が重なっているんだ」
矢部さんが話に加わりました。
「その頃から、日本に数多くの怪異が頻発するようになった。それでも、英賢様は帯刀の悪行を抑え、彼の増長を食い止めていた。だが、それも限界になりつつある」
私は鼓動が高鳴るのを感じました。その言葉の意味を理解したからです。
「帯刀は邪法を身につけ、不老不死となっています。ですが、英賢様は過酷な修行で鍛えられたお身体を保っていらっしゃるだけですから、差がつきつつあるのです」
話を引き取った教授が言いました。そういう事なのです。邪法師との戦いがきつくなるのは、敵が不老不死になっている場合が多いからなのです。
『心配要らないよ、教授。私がそんな化け物、すぐに退治してやるからさ』
それでもまだ強気の発言を続けるいけない私に、私自身が呆れ返ってしまいます。
「なるほど、そうですね。貴女なら、勝てるかも知れませんね。但し、貴女だけでは勝てませんよ、もう一人の蘭子さん。それはわかっているのですよね?」
岡本教授がニッコリして言いました。私はキョトンとしてしまいました。
『さすが、麗華のお母上だ。理解が早いね』
いけない私はそう言ってゲラゲラ笑いました。
本当に止めどないです。頭が痛くなってきました。大丈夫なのかしら?
「言うなれば、先生と蘭子さんの力は同じ根を持つ違う幹なのです。ですから、根元まで戻って、完全な形で力を同調させれば、今まで以上の能力が発揮できるはずです」
その時、不意に瑠希弥に言われた事を思い出しました。
いけない私との完全なる同調をすれば、最強になれる?
少し希望が見えて来ました。
西園寺蘭子でした。
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