死霊魔術師
私は西園寺蘭子。霊能者です。
何度か事件絡みで関わりがある村上春菜ちゃんと久しぶりに会いました。
纏わりつく淫靡な気を感じた私は、彼女を邸に招待しました。
思った通り、春菜ちゃんの通う高校に妙な力を使う先生がいる事がわかりました。
その人の名は近藤光俊。人の皮を被った悪魔とは、彼のような人間を指し示す言葉でしょう。
近藤は女子生徒達をその甘いマスクで誘惑し、次々に毒牙にかけました。
しかも、自分の犯行を隠匿するために彼女達を全員殺害しているのです。
到底許せる事ではありません。
近藤の力が相当なものなのを知った私は、弟子の小松崎瑠希弥と二人では危険と判断し、大阪に戻っている親友の八木麗華を呼びました。
更に、春菜ちゃんが私達と接触した事を近藤に感知されたようなので、お父様の村上法務大臣に連絡し、彼女を邸に
邸は元々、椿直美さんの所有で、霊的に非常に強力な結界で守られているので、春菜ちゃんはまず安全です。
「春菜さん、決して邸から外に出ないでね」
翌日、麗華が帰るのを待って、春菜ちゃんの高校に出かける時、私は念を押すようにして言いました。
「近藤がウチらのフリしてあんたを誘い出そうとするかも知れへんから、気ィつけや」
麗華が春菜ちゃんを脅かすような事を言ったので、私は麗華を睨みました。
「ウチは
麗華はそう嘯き、私から目を背けました。全く……。
麗華が言いたい事はわかるのですが、相手は十代の女の子です。
怖がらせる必要はないのです。
「全部終わったら、秘密の出入り口から戻るから、春菜さんは絶対にドアを開けないでね」
私は麗華に聞こえないように言いました。
「はい、蘭子さん」
麗華の言葉に脅えていた春菜ちゃんはやっとホッとしたのか、微笑んで応じてくれました。
今回は瑠希弥の運転で彼女の車で出かけます。
高校で戦うつもりはないので、あくまで様子見だからです。
「あ……」
向かう途中、瑠希弥が何かを感じ取りました。
「近藤は今日は休みのようです。彼の気を別の方角から感じます」
「撹乱してるんちゃうか?」
助手席にふんぞり返っている麗華が言います。
「そうではないようです。春菜さんが休んだのを知って、動き出したようです」
瑠希弥がやんわりと否定します。麗華は舌打ちしました。
「こっちの動きを読まれてるんか?」
「そのようです。どうしますか、先生?」
瑠希弥がルームミラー越しに後部座席の私を見ました。
「近藤は取り敢えず放置でいいわ。それより、もっと気になるところがあるの」
私は彼に殺された生徒達の遺体がある場所を感じていました。
「先生、わかるのですか?」
「ええ、何となくね……」
感応力は一番レベルが上の瑠希弥もわからないのに、何故私が感じる事ができるのか、自分自身でも不思議です。
『わからないのか、もう一人の蘭子? お前はその鬼畜に以前会った事があるんだぞ』
いけない私が心に語りかけて来ました。
『え? どういう事?』
私はいけない私の意外な言葉に驚きました。瑠希弥にはいけない私の声が聞こえているようで、時折ミラー越しに私を見ます。
『まだ私達が幼い時、奴が現れたんだよ』
いけない私にそこまで言われて、ようやく私は近藤の素性に思い当たりました。
私が小学校三年生の時。
担任の先生が産休でお休みして、代理で担任になったのが近藤……。
だから私は彼が手にかけた女子生徒の皆さんのご遺体がある場所がわかるのです。
え? でもそうすると、彼は一体……?
そうなのです。
私が小学三年という事は、今から十六年前。あ、今年二十五歳だってばれちゃいましたね。
十六年前、すでに教師だった近藤。
でも、昨日瑠希弥の感応力で見た近藤はどう見ても二十代でした。
彼はその時私の同級生の女子を殺害しました。
まさしく人間のする事ではありません。小学生の女の子を強姦したのです。
しかし、彼はそれを自分の特殊な能力で成し遂げたので、何一つ証拠が出ませんでした。
それを私の父である西園寺公大が暴き、近藤を追いつめたのです。
近藤は父との戦いに敗れ、死んだと思われていました。
でも違いました。奴は生きていたのです。
『まさか、近藤は邪法を使うの?』
いけない私に問いかけます。
『そうとしか思えねえだろ? まるで年を取っていないんだぜ?』
いけない私に言われて、また私はギクッとしてしまいました。
運転席の瑠希弥も目を見開いています。
行けない私の声が聞こえていない麗華は鼻歌を歌っていましたが。
『ここからは推測に過ぎないが、近藤は若い女の生き血、それも処女の血を使った邪法で不老不死になったか、加齢の進行を極端に低下させられるようになったかだな。今までの連中とは格が違うぞ、もう一人の蘭子』
いけない私のいつにない真面目な話に身体のあちこちから汗が噴き出していました。
私は事の重大さを感じ、ご機嫌で唄を
「そらまたエグい奴やな。矢部ちゃんも呼んだ方がええんちゃうか?」
麗華は深刻な顔で言いました。
矢部ちゃんとは、心霊医師の矢部隆史さんです。
見た目は悪人に見えますが、私達の心強い味方です。
「それにしても、そないな奴が教師続けられるて、どないなっとんねん、日本の教育界は?」
麗華はムッとして言います。
「近藤は容疑者リストに名を連ねさえしなかったのよ。あの時は殺戮を楽しむ只の変質者だったのだけど、今は違うわ。邪法で力を増し、目当ての女子を意のままに操れるようになっているわ」
私は苦々しい思いで言います。父が倒したはずの殺人鬼が生きていたのですから。
「近藤が父に倒された時、彼は行方不明扱いになったの。それをどう始末をつけたのかはわからないけど、戻って来たのよ。まさしく地獄からね」
「もしかすると、近藤は先生に復讐するために姿を現したのでしょうか?」
瑠希弥が不安そうな顔で言います。私は大きく頷き、
「その可能性もあるわね。春菜ちゃんに自分の気を意図的に纏わせたのかもね」
麗華は腕組みをして、
「やっぱり矢部ちゃんを呼ぼ、蘭子。一筋縄ではいかん相手やで」
「そうね。お願い」
麗華は早速矢部さんに連絡を取りました。
「こっからやと矢部ちゃんちはすぐや。瑠希弥、頼むで」
「はい、八木先生」
瑠希弥は車を矢部医師の家に向かわせました。
「蘭子、他に気になるところて、何や?」
麗華が振り返って尋ねます。
「近藤が殺害した生徒さん達のご遺体がある場所よ。そちらの方も何とかしないと大変だと思う」
私は近藤が只単に快楽のために女子生徒達を手にかけていたとは思えません。
何かもっと恐ろしい事をなそうとしているように思えてならないのです。
「お、そこや」
そんな話をしているうちに、矢部医師の診療所兼自宅に到着しました。
「どうも」
矢部医師は笑顔で会釈してくれましたが、相変わらず顔が怖いです。
瑠希弥は泣きそうな顔をしています。
私は黒い大きな革製の鞄を抱えて隣に乗り込んで来た矢部さんに経緯を手短に話しました。
「その事件なら、私も知っていますよ」
矢部さんはニッとして言います。
「怖いから笑わんといて、矢部ッチ」
麗華が失礼な事をストレートに言ってのけました。
「私の仲間の間では、奴は
そう言えば、矢部さんておいくつなのかしら?
あの事件当時、すでに仕事をしていたのだとすると、少なく見積もっても三十代後半?
矢部さんは私の視線に気づいたのか、
「私は不老不死ではありませんよ、蘭子さん」
またゾッとするような顔で笑いました。
どうしても怖いです。
それにしても、ネクロマンサーとは……。
かなりの強敵のようです。大丈夫かしら?
西園寺蘭子でした。
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