サヨカ会の力

 私は西園寺蘭子。霊能者です。


 サヨカ会と言う新興宗教の宗主である鴻池大仙に敵視された私達。


 彼は早速配下を送り込んで来ました。


 まだ挨拶程度なのでしょうが、私の大切な車を消し炭にされてしまいました。


 仕掛けたのは陰陽師でしたが、彼はサヨカ会の別の陰陽師に抹殺されました。


「死体が転がっている以上、警察に届けん訳にはいかんやろ」


 親友の八木麗華が言います。同居人の小松崎瑠希弥は震えています。


「でも、この状況を何て説明するの? 私達が疑われるわよ」


 私が麗華に言った時、パトカーのサイレンが近づいて来るのが聞こえました。


「え?」


 私達は互いに顔を見合わせます。


「しまった、ここまでが罠か!?」


 麗華が叫びましたが、すでに私達はすっかり警官隊に囲まれていました。


「無駄な抵抗はやめなさい。君達は完全に包囲されている」


 テレビの刑事ドラマでよく聞くセリフが、拡声器を通して聞こえて来ます。


「任せて」


 妖術使いのような小倉冬子さんが動こうとするのを私は止めました。


「待って。ここで戦っても、私達が不利になるだけよ。様子を見ましょう」


「はい」


 冬子さんは私に腕を掴まれたので、硬直しています。


 こんな状況ながら、とてもショックです。


 どうしてそんなに怖がられるのかしら?

 

 


 私達は護送車に押し込まれ、機動隊に監視されて、近くの警察へと連行されました。


「おっさん、口臭いな。こっちに顔向けんといてんか」


 麗華が機動隊の一人に毒づきます。機動隊員は麗華を睨みますが、何も言いません。


 しばらくして、私達を乗せた護送車はある所轄署に到着しました。


「さあ、降りろ」


 まるで容疑者のような扱いです。いえ、すでに容疑者なのかも知れません。


 私達はそのまま建物奥の留置場に連れて行かれて、一人一人別々の牢屋に入れられてしまいました。


「お前らが、霊感商法で一般市民を惑わして、多額の金銭を騙し取っているのはわかっている」


 捜査員の中の一人が進み出て言います。その背後を固めるように五人の制服警官が整列します。


 その捜査員は麗華好みのイケメンですが、さすがの麗華もこの状況ではそんな感情は湧かないでしょう。


 と思ったのですが……。


「おお、あんた、ええ男やな。どや、ウチと付き合わへんか?」


 麗華はマイペースでした。


「ふざけるな。霊感商法だけならまだしも、とうとう殺人まで犯したお前らとなど、誰が付き合うか!」


 イケメン捜査官はムッとして言います。私達は殺人の罪まで押しつけられるようです。


「せめてお名前と階級だけでも教えていただけませんか?」


 私が言ってみます。するとその人は私を見て、


「私は左文字隼人警部だ」


と答えてくれました。心なしか、彼は顔が赤いです。どうしたのでしょう?


 麗華が何となく気に食わない顔をしているのが視界の端に見えましたが、この際それは無視です。


「今、鑑識が現場検証をしている。証拠が揃ったら、お前らを地検に送検する」


「ええ?」


 私はビックリしました。麗華も怪訝そうな顔をしています。


 警察と検察庁の関係はそれほど詳しい訳ではありませんが、その日のうちに送検なんておかしいです。


「楽しみにしていろ」


 左文字警部はニヤリとして、ネクタイを直し、留置場を出て行きます。


 私はその時、彼のネクタイに奇妙な紋が入っているのに気づきました。


 警部と制服警官達が出て行くと、麗華が、


「あいつのネクタイの紋、サヨカ会の紋やで」


「え?」


 私と瑠希弥はギョッとしました。


「警察の内部にまで、根を張ってるんや。抜かったな」


 麗華が歯軋りをします。


「様子を見ようと思ったけど、どうやらそれは無理みたいね」


 私は腕組みをしました。


「どうしましょう、先生?」


 瑠希弥は涙ぐんでいます。私は意を決して、


「冬子さん、お願い」


「はい」


 冬子さんは私に頼られたのが嬉しいのか、目を細めました。


 どう見ても顔が引きつったようにしか見えないのですが、笑ったのだと思います。


 冬子さんの呪文が留置場内を駆け巡り、牢の錠が全部壊れました。


「おお、凄いな、あんた」


 麗華がニッとして冬子さんを見ます。また冬子さんは顔を引きつらせました。


 くどいようですが、笑ったのでしょう。


 こうして私達は警察を脱出しました。


 しかし、それすらも彼らの罠だったと知るのは、もう少し後になってからでした。


 どうなるのでしょうか、これから?




 西園寺蘭子でした。

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