サヨカ会へ

 私は西園寺蘭子。霊能者です。


 先日から、新興宗教団体である「サヨカ会」に狙われています。


 愛車を燃やされた挙げ句、その犯人を殺した容疑で警察に連行され、留置所に入れられてしまいました。


 警察の内部にまでその信者がいるのを知った私達は、妖術使いの小倉冬子さんの力で留置所を脱出し、警察から逃走しました。


 しかし、それすらも彼等の罠だったとは、その時の私達は知るべくもありませんでした。


「こうなったら、こっちから連中の本部に乗り込んで、決着つけるしかないな」


 私達はある鉄橋の下に身を隠し、作戦会議中です。


 血の気の多い親友八木麗華がヒートアップしています。


「麗華、落ち着いて。もう少し冷静にならないと」


 私はいきり立つ麗華を宥(なだ)めます。


「そやけど、街は警官だらけや。テレビやラジオやインターネットでも、ウチらの顔写真や名前まで出されてる。このままにしておいたら、ウチらは日本中に顔を知られて、とんでもない悪人に仕立て上げられるで」


 麗華は収まりません。


「確かにそうかも知れないけど。だからこそ、今は慎重に動かないといけないはずよ」


 私は何とか麗華を落ち着かせようとしました。


「あんたは悠長過ぎるんや、蘭子。ここは一気に片をつけんと、ホンマに取り返しがつかなくなるで」


 麗華はどうしても決戦を挑もうとしているようです。


 私は同居人で私の「弟子」である小松崎瑠希弥を見ました。


「瑠希弥はどう思う?」


 瑠希弥は麗華の視線を気にしながらも、


「情報が少な過ぎます。それに、サヨカ会の目的がよくわかりません。彼等はどうして私達を追いつめているのでしょうか? 私達は彼等と敵対している訳ではないのに」


「そうね」


 私は冬子さんを見ます。彼女にも意見を求めたかったからです。すると冬子さんは、


「西園寺さんが、何度かサヨカ会のビジネスを潰しているからよ」


と答えました。私はビクッとして麗華と顔を見合わせます。


「ビジネス?」


 私は冬子さんに尋ねます。冬子さんは頷いて、


「西園寺さんは、G県のS村で、乗如という僧と戦ったでしょう?」


「ええ。そんな事もあったわね」


 私は麗華を見てから冬子さんを見ます。


「彼等の組織はサヨカ会の外部団体なの」


 冬子さんの言葉は衝撃的でした。麗華が身を乗り出して、


「なら、ウチを追い込んだあの坊主もそうなんか?」


「ええ」


 冬子さんは頷いて麗華を見ました。


「それから、土御門瑠莉加という陰陽師も、サヨカ会と繋がりがある」


「ええっ?」


 あの礼儀を知らない若い陰陽師も、サヨカ会と関係がある……。驚きです。


「それから、奥多摩にあった廃寺を取り壊して別荘を建てようとしていたのも、サヨカ会が出資している建設会社よ」


 もう驚きを通り越して、怖くなりました。サヨカ会とはどういう組織なのでしょう?


「それにしてもあんた、サヨカ会に詳しいな」


 麗華が若干疑いの目を冬子さんに向けました。すると冬子さんは、


「私の両親は、サヨカ会の信者だったの」


「えっ?」


 麗華ばかりでなく、私も瑠希弥もギョッとして冬子さんを見ました。


「でも、会を抜けようとして、事故に見せかけて殺されたわ」


「……」


 言葉がありません。何という事でしょう。


「すまんかったな、冬子さん。堪忍な」


 麗華がバツが悪そうに謝罪しました。すると冬子さんは顔を引きつらせて、


「いいの。気にしてないから。とにかく、サヨカ会の組織は想像を絶するわ。生半可な事では、何もできない」


 確かにサヨカ会と戦うのは、相当大変なようです。


「でも、一つだけ希望がある」


 冬子さんが言いました。私達は一斉に冬子さんを見ます。


「何、冬子さん?」


 私は身を乗り出して尋ねました。


「今は言えない。確信がないから。それに言葉にしてしまうと、実現しなくなる可能性があるの」


「え?」


 何だか意味不明ですが、話したくないのはわかりました。


「それから、サヨカ会は誘っている気がする」


 冬子さんは更に謎めいた事を言います。


「誘っている?」


 麗華が鸚鵡返しに尋ねます。


「ええ。多分、サヨカ会本部に近づく事は簡単にできると思う。彼等は罠を仕掛けて待っているだろうから」


「罠、か」


 私は麗華と瑠希弥を見ます。麗華はニヤッとして、


「罠上等や。このままここで辛気くさい顔してても何も始まらんわ。行くしかないで、蘭子」


「そうね。瑠希弥?」


 私は、瑠希弥にどうするか確認をしました。


「行きましょう、先生。このまま追いつめられて行くのは、どうにも気持ちが悪いです。それにバッチャがいたら、絶対に戦えって言うと思います」


 瑠希弥はすでに涙ぐんでいます。相変わらず涙腺が緩い子です。


「決まりね。行きましょう、サヨカ会本部へ」


 私達は互いに頷き合って、鉄橋の下を離れました。


 恐らく、相当激烈な戦いになるでしょう。


 でも、今のままにしておけないのも確かです。


 まだ危害が及んでいないG県の箕輪まどかちゃん達も安全とは言い切れません。


 彼女達を守るためにも、私は戦います。


 


 西園寺蘭子でした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る