巨悪との開戦
私は西園寺蘭子。霊能者です。
先日、日本最大の新興宗教団体である「サヨカ会」の宗主である鴻池大仙に対する対抗手段として、親友の八木麗華、同居人の小松崎瑠希弥、そして妖術使いかと思えるくらい妖気が漂う謎の女性小倉冬子さんと共に「防衛隊」を結成しました。
鴻池氏が、どこまで私達の事を敵視しているのかわかりませんが、何かあってから備えるよりは良いとの判断で、決定されました。
そして、怖がる冬子さんを説得し、私達は事務所に戻りました。
「ね、大丈夫でしょ? かくれんぼなんかしないから、安心して」
私は作り笑いをして冬子さんに言いました。
「は、はい」
彼女はまだ私を怖がっているようです。
「あんた、ホンマにあの女に何したんか覚えとらんのか?」
麗華が私に囁きます。
「覚えていたら、苦労はしないわよ」
「そやな」
麗華はニヤニヤしています。一睨みすると、また慌てて、
「そない怒らんでえな、蘭子」
と焦り出すのが面白いです。
その時でした。
「先生、大変です!」
霊媒師としては私達を凌ぐ能力を持つ瑠希弥が叫びました。
「どうしたの、瑠希弥?」
「見て下さい、先生!」
瑠希弥が私の手を取り、自分が感じている事を伝えて来ます。
「ええ!?」
私は驚愕しました。
ビルの外の駐車場。
ついさっきまでいたところです。
私の車が、燃えています。
まだローンが半年残っているのに……。
「何て事を!」
私は瑠希弥に目配せして事務所を飛び出しました。
「どないしてん、蘭子?」
麗華が追いかけてきます。冬子さんはフワフワとついて来ているようです。
「ああ」
私達が駐車場に着いた時は、もうそこには車があった形跡しかなく、お気に入りのCDも、通販で買った高級ワックスも、全部消し炭になっていました。
「先生ィ」
瑠希弥はすでに号泣しています。
確か、助手席には瑠希弥がカーショップで選んだクッションがありました。
彼女は私に、
「これを着けても良いですか?」
と訊いて、私が快諾したのを凄く喜んでいたのです。
「何や、これ?」
麗華が、焼け跡近くに置かれている紙を拾い上げました。
「天誅」
毛筆でそう書かれています。何が「天」で、何が「誅」だというのでしょう?
「早速仕掛けて来たようやな」
麗華は私を慰めるように肩を抱いてくれました。
「逃がさないわ!」
突然冬子さんが動きます。
彼女は何やら呪文を唱え出しました。
「ウゲゲエエ……」
悶え苦しみながら、一人の黒尽くめの男が車の陰から現れました。
鴻池氏の子飼いの陰陽師のようです。
その男は、ビデオカメラを持っていました。
「これで何しようとしてたんや?」
麗華が苦しむ男の襟首をねじ上げ、カメラを顔に突きつけます。
「し、知らん……」
「知らんはずないやろ? 嫌でも喋ってもらうで」
麗華が拳を振り上げた時、瑠希弥が、
「八木先生、その男から離れて下さい!」
と叫びました。
「な、何や?」
麗華は瑠希弥の絶叫に驚き、男から離れました。
「ぶへ!」
男は目、鼻、口、耳から血を吹き出し、そのまま前のめりに倒れました。
「ぐほ、ぐほ……」
男は何度か痙攣してから、絶命しました。
「どこから?」
私達は周囲を見渡しましたが、
「どこにもいない。こいつに仕掛けられた呪術よ」
冬子さんが男の首の後ろを見せてくれました。
そこには、何やら怪しい文字が書き込まれています。
「喋られる前に、口を封じる手も打ってあるっちゅう事か」
麗華はムッとして言いました。
どうにも気分の悪い相手です。
「仕方ないわね。瑠希弥、お願い」
「はい、先生」
瑠希弥が霊媒師として気を集中し、たった今死んだ男の霊を降霊させます。
「その手があったか」
麗華が感心して口笛を吹きました。
「貴方達は何をしようとしているの?」
私は男の霊に語りかけました。
「我々の使命は、日本の浄化……。極楽浄土の実現……」
何それ?
そう言いたくなるような美辞麗句です。
でもこの男は恐らく、本当にそう思い込まされているのでしょう。
怖いのは、そういう人達が数え切れないくらいたくさんいるかも知れないという事です。
「ふああああ!」
瑠希弥が苦しみ出します。全身の血管が浮き上がり、今にも血が吹き出しそうです。
「まさか!」
私は麗華と顔を見合わせます。
「この男、霊体にも術をかけられてるわ」
冬子さんが言い、
「大丈夫、任せて」
再び彼女は呪文を唱えます。それにしても冬子さん、貴女は何者?
「ううう……」
瑠希弥の苦しみが次第に収まり、男の霊は瑠希弥から離れ、消えてしまいました。
「信者達の魂まで縛っているというの?」
私はサヨカ会の恐ろしさを身に沁みて感じました。
鴻池氏は、只の欲の皮の突っ張ったおじさんではないようです。
本気で日本を「変えよう」としている。自分の都合の良いように。
何とかしないと、取り返しがつかなくなりそうです。
「もう、後には退けんな。いや、後になんか退きとうないけどな」
麗華が苦々しそうな顔で言いました。
私も同じ気持ちです。
西園寺蘭子でした。
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