カルテット結成

 私は西園寺蘭子。霊能者です。除霊、お祓い、祈祷、占い、人探しと様々なご要望にお答えしています。


 鴻池大仙と言う、日本最大の新興宗教団体の宗主に会いました。


 彼は表の顔は「菩薩」ですが、裏の顔も持っていました。


 目的がはっきりしないのですが、陰陽師を使って著名な霊能者を殺害したのです。


 


 私達は事務所に戻りました。


「どうしてああいう男のところには、あの女の子は現れないのでしょう、先生?」


 同居人の小松崎瑠希弥が言います。純粋な彼女は、本気で怒っています。


 瑠希弥が言う女の子とは、「殺人の罪を免れた者を地獄に送る」と言った女の子の事です。


「確かにね。どうしてかしらね」


 私も何となく不条理に思いました。すると、


「答えは簡単や。奴らが殺した霊能者が、奴ら以上に悪い連中だったからや」


 あ、まだいたんだ。などと言えば、烈火のごとく怒るでしょう。


 親友の八木麗華が、相変わらず丸見えな座り方でソファにふんぞり返って言います。


 いくらここには女子しかいないとしても、恥知らずです。


 瑠希弥が麗華を見ないのは、そのせいもあるようです。


「連中の目的は、悪い霊能者を退治する事や」


 麗華が得意顔で言い放ちます。


「どうしてそんな事がわかるの?」


 すると麗華は更に鼻を高くして、


「ウチにはわかるねん。どや、凄いやろ」


と半分見えている胸を張ります。


「ホームページに書かれていますね」


 瑠希弥がパソコンを操作しながら言いました。


 彼女が来てくれて、我が事務所は急速にIT化が進んでいます。


「いらん事、うな!」


 麗華が立ち上がって怒ったので、瑠希弥はビックリして私の後ろに隠れます。


「も、申し訳ありません、八木様」


 瑠希弥の代わりに私が睨み返します。


「瑠希弥を苛めるなら……」


 そこまで言うと、麗華は慌ててソファに座り、


「アハハ、冗談やで、瑠希弥ちゃん。蘭子の弟子のあんたを、ウチが苛める訳ないやないか」


と作り笑いをして言い繕います。本当に呆れるくらい変わり身が早いです。


「ところで、ホームページって、何?」


 私は恥を忍んで尋ねました。麗華は勿論の事、瑠希弥までが私を悲しそうな目で見ます。


 痛い。その視線が痛いです。


「そういう事やから、ウチらは狙われんよ。心配せんでええ」


 麗華は私をあまり追い詰めるのはまずいと思ったのか、話題を切り替えました。


「でも、本当にそうなのかしら? さっきあのおじさんは、明らかに私達に敵意を見せたし、あの式神も私達を殺そうとしたわよ」


 私は麗華の考えが納得できず、反論してみました。


「ウチらが敵対するつもりはない事を表明すれば、大丈夫や」


 麗華は「見て見ぬフリ」をするつもりのようです。


 儲からない事には関わらない性分は、全然改善されていないようです。


「わかりました。貴女は今回はお休みなのですね? お疲れ様でした、お帰り下さい」


 私はこの前あるイベントで見かけた「ロボット受付」の女性の口調を真似て、麗華に言いました。


「え?」


 ギクッとした麗華が、私を見ます。


「どうぞ、出口はあちらです」


 私はニッコリして麗華に玄関のドアを指し示します。


「あ、いや、その……」


 麗華は、私が本当に怒ると睨むのではなく笑顔になるのを知っているので、さっきより慌てています。


「じょ、冗談やがな、蘭子。ウチがお休みする訳ないやないか」


 彼女は顔を引きつらせて言いました。


「じゃあ、決まりね。大仙の団体を調べるわよ、瑠希弥」


「はい、先生」


 瑠希弥はパソコンを高速タイプしました。


「大仙の率いるサヨカ会は、信者数一千万人の一大宗教団体で、財界、政界、芸能界にまでその力を及ぼしています」


 瑠希弥が報告します。


「裏サイトを調べてみい、瑠希弥。連中の悪行が書き込まれとる。すぐに削除されるんで、見るの難しいけどな」


 麗華がアドバイスしてくれました。


「ありがとうございます、八木様」


 瑠希弥が怖々と麗華を見て言います。すると麗華は、


「麗華さんでええよ。それが嫌やったら、八木先生」


と何だかよくわからない要求を出しました。


「は、はい、八木先生」


 瑠希弥には、私たちの事は「先生」が呼びやすいのでしょうか?


 何だか複雑です。


「蘭子」


「何?」


 いつになく真剣な表情の麗華が私を見ました。


「しばらく、G県の子供には連絡取らん方がええ。ウチも慶君には電話せんようにする」


「そうね」


 G県の子供とは、霊感少女の箕輪まどかちゃんの事です。


 慶君とは彼女のお兄さんの慶一郎さんの事です。


 確かに彼女達が私達の関係者だと知られたら、危険です。


「あの女とは連絡取れんのか?」


「あの女? 誰?」


 私には心当たりがありません。


「あの黒尽くめの女や。あいつなら、力貸してもらえそうやからな」


「ああ、小倉冬子さんね」


 確かに。でも、冬子さんは慶一郎さんと関わりがあるから、まずいのでは?


「まさか麗華、冬子さんをこの機会に……」


 私は恐ろしくなってそれ以上言えませんでした。


「アホ! そんな事、考えるか!」


 さすがにいくら麗華でも、そこまで酷い事は考えないでしょう。


「いくら油断したとは言え、一度はウチを倒したほどの女や。戦力は多い方がええしな」


 麗華は本気のようです。


「そうね。何か連絡する方法はないかしら?」


 私はそう言いながら、麗華を見ます。


「な、何や?」


 麗華はその視線に危険を感じたのか、ビクッとしました。


「わ、わかったがな。あいつを挑発すればええんやろ。するがな」


 麗華はすねたように口を尖らせます。そして、


「おおう、ウチ、慶君と結婚したいなあ。今日にでもしたいなあ」


と念じました。


「何ですか?」


 冬子さんを知らない瑠希弥はキョトンとしています。


「さあ、行きましょうか」


「行くってどこへですか?」


 瑠希弥がますます不思議そうな顔になります。


「あいつは、ここには来られんのや。外に行くで」


 麗華がドアに向かいます。


「ここには来られない?」


 瑠希弥は更に首をかしげました。


 


 私達は、事務所があるビルの裏の駐車場に来ました。


「ここなら、来るやろ」


 しばらくすると、辺りに妖気が漂い始めました。来たようです。


 考えてみると、私もしばらく前にちょっと見かけただけで、冬子さんの顔を見るのは久しぶりです。


「私よ」


 電柱の陰に黒尽くめの女性が現れました。長い髪が顔の半分を隠しています。


 小学生の時の面影はあるのかどうかわかりません。何しろ、全然覚えていませんので……。


「な、な!」


 瑠希弥は驚きのあまり、言葉が出ません。


「しばらくやったな。元気か?」


 麗華が声をかけます。冬子さんは私に気づき、


「ひいい、西園寺蘭子!」


と震え出します。軽く落ち込む私。


 本当に小学生の時、彼女に何をしたのかしら、私?


「小倉さん、お久しぶりね。今日はお願いがあって。こんな遠くまで呼び出してごめんなさいね」


 私は笑顔全開で言いました。冬子さんはようやく震えるのをやめて、


「私にお願い?」


 私と麗華は、冬子さんに理由を説明しました。


 説得は難航するかと思われましたが、彼女は、


「わかった。協力する」


と言ってくれました。そして、


「だから、もうかくれんぼをするって言わないで、西園寺さん」


と凄く切なそうな顔で謎の言葉を言いました。


 かくれんぼ? 何の事かしら?


 


 こうして、史上最強と思われる四重奏カルテットが結成されました。


 果たしてこれで鴻池大仙に勝てるのでしょうか?

 

 


 西園寺蘭子でした。

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