サヨカ会
新たなる敵
私は西園寺蘭子。霊能者です。除霊、祈祷、お祓い、人探し、厄除け等、承っております。
先日、正体不明の女の子の霊を見かけ、その子が「罪を免れた殺人者を地獄に送る」のを
「怖いです。そんな存在が、私達を見ているなんて」
私の同居人の小松崎瑠希弥が呟きました。
「そうね」
私達はいかに弱い存在なのかを思い知った事件でした。
そんな私達の思いをまるで無視するような性格の人物が現れました。
私の親友である八木麗華です。
彼女はここ何日か、私に叱られた事を気にしていたのか、連絡はくれますが、事務所には来ませんでした。
ですから、会うのは二週間ぶりくらいです。
「最近姿を見せないから、嫌われたのかと思ったわ」
私が出迎えてそう言うと、麗華はギクッとした顔をして、
「そ、そんな事ある訳ないやないか。あんたは死ぬまで親友やで」
と酷く慌てた様子で言いました。
「ありがとう、麗華」
相変わらず、瑠希弥は麗華が苦手のようで、ビクビクしています。
「で、今日はどうしたの?」
ソファに座りながら尋ねます。すると麗華は、
「除霊の依頼を受けたんやが、今まで何人かの霊能者が死んどるらしいねん」
私は思わず瑠希弥と顔を見合わせました。
「取り敢えず、どんな霊なのか教えて」
私は先を促しました。
麗華の話だと、除霊の対象は、ある武家に奉公に上がっていた少女の霊です。
その少女は武家に奉公に上がると、
すると奥方はそれを少女が誘ったせいだと言いがかりをつけ、毎日のように
少女は疲れ果てて、庭の井戸に身を投げて死んでしまいました。
奥方の怒りはそれでも収まらず、少女の遺体は服を剥ぎ取られ、川に投げ込まれました。
遺体は様々な動物に食われ、腐り、下流の岸で漁師に引き上げられました。
それを見かけた旅の僧が少女を哀れに思い、供養をし、付近の人々の助けを借りて碑を建てたそうです。
そのおかげで少女は怨霊にはならず、成仏しました。
ところが、何百年も経った現在、その供養の碑を工事のために移動する際、落として壊してしまったらしいのです。
工事現場で次々に怪奇現象が起こり、作業員が怪我をしました。
著名な霊能者達が訪れ、除霊をしようとしましたが、皆怨霊に取り殺されてしまったそうです。
「どう思う、蘭子?」
麗華が尋ねます。私は顎に手を当てて、
「妙ね」
麗華はニヤッとして、
「あんたもそう思うか? そやねん、妙やねん」
後ろで聞いている瑠希弥には意味がわからないようです。
「どういう事なんですか?」
私は瑠希弥を見て、
「作業員達は怪我ですんでいるのに、どうして霊能者だけが命を落としたのか? 不思議でしょ?」
「ああ、そうですね」
瑠希弥も意味がわかったようです。
「少女の霊は無関係ね。何かどす黒いものを感じるわ」
私は工事現場を探ってみて、虫酸が走りました。
「そうやろ? とんでもない事をしとる連中がおるねん。大体、何が目的かはわかっとるがな」
麗華も苦々しそうに言いました。
「碑が落ちたんも、怪奇現象が起こったんも、霊能者が死んだんも、全部同じ奴の仕業や」
「ええ」
私は立ち上がりました。麗華も立ち上がります。
「瑠希弥、出かけるわよ。一刻も早く、この一件解決しないと」
「はい、先生」
私達は事務所を出て、現場に向かいました。
犯人は私達が動くのを予測して、必ず現場で仕掛けて来ると思ったからです。
やがて私達は現場に到着しました。
すっかり再開発された河岸は、恋人達のデートスポットのようです。
カップルばかりの場所に女三人でいると、何だか惨めになって来そうです。
「あれね」
そんな考えを振り切って、私は破損した碑のそばに行きました。
ブルーシートがかけられ、周囲にはロープが張られ、「立ち入り禁止」の札が下げられています。
「ここには何もいないわ。やっぱりそういう事ね」
私が言うと、麗華が、
「そういう事や」
するとそこへ、工事関係の人が現れました。
「お待ちしておりました、八木先生、西園寺先生」
どうやら建設会社のお偉いさんのようです。
「如何でしょう? 除霊はできますか?」
彼は恐る恐る尋ねます。麗華が怖い訳ではありません。
怨霊に祟られるのではないかと危惧しているのです。
「心配あれへん。もう除霊はすんだ。大した事なかったわ」
麗華がそう言った時、黒いものが動きました。
「式神?」
黒いものは、陰陽師が使う式神でした。
霊能者達は式神に攻撃され、殺されたのです。
「オンマリシエイソワカ!」
私は摩利支天の真言を唱えました。
式神はグオオオと叫び声を上げて後退します。
「瑠希弥!」
「はい」
瑠希弥は建設会社の人を誘導し、碑から離れました。
近くにいたカップル達が、ビックリして私達を見ています。
「手緩いで、蘭子! こういう奴には、これや!」
麗華が印を結び、大黒天の真言を唱えます。
「オンマカキャラヤソワカ!」
式神はその威力の前に煙のように消えてしまいました。
「ほほほ、さすがですな、お二人共」
そこに恰幅のいい穏やかな笑顔のおじさんが現れました。
半分禿げ上がった頭と、やけに太い指が「キモさ」を倍増させています。
霊能者ではないようですが、妙な気を
後ろにはボディガードのような屈強そうな男性が二人います。その人達が陰陽師のようです。
「誰や、あんた?」
麗華がズイッと進み出て尋ねます。おじさんはニヤッとして、
「私は
鴻池大仙? 日本最大の新興宗教の宗主です。まさかこの人が事件の黒幕?
「そうですか。貴女方も、私達と対立するおつもりですか。よくわかりました」
急に大仙の顔が兇悪になりましたが、すぐに元の温和な顔に戻ります。
「さ、帰りましょう」
大仙は二人の陰陽師を伴って、立ち去りました。
「蘭子、ちとヤバいな」
「そうみたいね」
途轍もなく大きな団体の宗主に睨まれてしまいました。
これからどうなるのかしら?
西園寺蘭子でした。
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