新たなる生活

 私は西園寺蘭子。霊能者です。


 現在、小松崎瑠希弥さんという、霊媒師の女の子を「弟子」として一緒に仕事をしています。


 私は、寂しさも手伝って、小松崎さんに、


「一緒に暮らさない?」


と、一部の人が聞けば、ビックリするような事を言いました。


「ありがとうございます、先生。でも、恐れ多くてそのような事はできません。死んだバッチャに叱られます」


 小松崎さんはどこまでも低姿勢で、本当に謙虚な子です。ビジネス以外は……。


「スナックリッキー様ですか? 先日の除霊料が、まだ振り込まれていないようなのですが?」


 仕事に関しては、鬼のような面を見せます。


「お振込いただけない場合は、原状回復が基本ですが、よろしいですか?」


 原状回復とは、つまり、「除霊した悪霊を元に戻す」という意味です。


 もちろん、そんな事はできないのですが、小松崎さんは涼しい顔で言ってのけます。


「須坂建設様ですか? 地鎮祭のお祓い料がまだお振り込みでないようですが?」


 裏の小松崎さん? そう思ってしまうくらい、怖いです。


 私が彼女にそんな事を言える立場ではないのは、よくわかっています。


 裏蘭子と裏瑠希弥が組んだら、さぞかし恐ろしい組織が誕生しそうです。


「小松崎さん」


 私が声をかけると、あの迫力満点の凄み顔がサッと消え、笑顔全開になります。


「はい、何でしょうか、先生?」


 私はその変わり身の早さに苦笑いし、


「お客様にあまり催促しなくてもいいわよ。ウチはそれほど困っている訳ではないのだから」


 すると小松崎さんは、泣きそうな顔になり、


「申し訳ありません、先生。私、自分でさんざん借金取りに追い込みかけられて、東京湾に沈められそうになった事もあったので、つい……」


「そ、そう……」


 相当苦労して来たようです。


「今はもう大丈夫なの?」


「あ、いえ、その、ハハハ……」


 まだのようです。私は小松崎さんをソファに座らせ、質問する事にしました。


「貴女はどうしてそんなに借金に追われているの?」


「霊媒師の衣裳を購入したり、夜遊びが過ぎたりして、いろいろと……」


 小松崎さんは恥ずかしそうに言いました。


「わかりました。借金があるところを全部書き出しなさい。私がまとめて清算します」


「え、そんな事は困ります、バッチャに叱られます……」


 小松崎さんはオロオロしています。でも私は、


「もちろん、貴女には後で返済してもらいます。私の仕事を手伝ってもらってね」


「先生!」


 小松崎さんはサッと床に土下座して、


「ありがとうございます! どんな事をしても、必ずお返し致します!」


「どんな事をしてもは困るわよ」


 私は小松崎さんの肩に手を置いて言いました。


「はい、先生」


 彼女は涙で濡れた目を私に向けました。




 そして私は小松崎さんの借金先を聞き出して連絡を取り、全て返済しました。


「先生、本当にありがとうございます!」


 また泣き出す小松崎さん。私は彼女の頭を撫でて、


「これからもよろしくね、小松崎さん」


「はい」


 私はちょっと照れながら、


「で、私と一緒に暮らすの、考えてくれない?」


「あ、はい! そうさせて下さい。先生のお世話、全部させて下さい」


「ありがとう、小松崎さん」


 私が微笑んで言うと、小松崎さんはモジモジして、


「あの、私の事、名前で呼んでいただけませんか?」


 私は一瞬キョトンとしてしまいましたが、


「ええ、いいわよ。瑠希弥さん」


「いえ、呼び捨てで」


 小松崎さんはニコッとして言います。私は肩を竦めて、


「じゃ、瑠希弥」


 すると小松崎さんは、


「きゃあああああ!」


と絶叫し、泣き出しました。どうしたのでしょう?


「憧れの西園寺先生に名前で呼んでもらえて、猛烈に感動しています!」


「ああ、そうなの」


 呆れてしまいました。




 瑠希弥は(とこれからは呼び捨てです)、あのオッチョコチョイも治り、私のマンションで完璧な仕事をこなしています。


 朝は私より二時間早く起き、夜は私が寝るまで絶対に寝ません。


「身体壊すわよ」


 心配になって言います。すると瑠希弥は、


「元気なのが取り柄ですから! それにまだ十代ですし……」


 そこまで言って、何かに気づいたように土下座します。


「も、申し訳ありません、先生! 決して先生がお歳だという意味ではなくて、その、あの……」


「気にしてないから、大丈夫よ」


 本当はちょっとだけ気に障ったのですが、些細な事ですから、拘るつもりはないです。


「さあ、今日は結構大きな仕事だから、気合入れて行くわよ、瑠希弥」


「はい、先生!」

 

 さあ、今後私達はどんな道を歩む事になるのか。


 登場しない八木麗華の事が気になります。




 西園寺蘭子でした。

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