女性の敵
村上春菜との再会
私は西園寺蘭子。霊能者です。
いろいろとお世話になった椿直美さん。彼女もまた霊能者。
そして、日本有数の霊媒師の里の出身です。
椿さんの招きで里を訪れ、貴重な体験をさせてもらいました。
私も親友の八木麗華も、また一つ大きくなれた気がしました。
またいつか訪れたい。そう思わせてくれる安らぎに満ちた場所でもありました。
霊媒師の里から帰った翌日。
気功少女の柳原まりさんもまた今まで通り遊びに来てくれています。
「蘭子さん達、何かあったのですか? 前より気の質が鮮烈になっている気がするのですけど」
里から帰って最初にまりさんと会った時、彼女はすぐに私達の変化に気づきました。
さすがです。私はまりさんも椿さんと面識があるのを思い出し、霊媒師の里の話をしました。
「椿先生ですか。懐かしいなあ。今度はボクも一緒に行きたいです」
まりさんは私の弟子の小松崎瑠希弥をチラッと見てから言いました。
「ええ、いいわよ。ね、瑠希弥」
私は微笑んで応じ、瑠希弥を見ました。瑠希弥も微笑んでまりさんを見てから、
「はい、先生」
今日は麗華は大阪に戻っているので、瑠希弥はちょっと嬉しそうです。
決して彼女は麗華が嫌いな訳ではないのですが、麗華の押しの強さが苦手なのです。
「ありがとうございます、蘭子さん」
まりさんは嬉しそうに笑いました。
まりさんはおやつに作ったホットケーキを五枚ペロリと平らげ、帰って行きました。
「若いっていいわね」
私はまりさんの食欲に感嘆しました。
「先生もまだお若いですよ」
瑠希弥が言ってくれますが、何をどう頑張っても、まりさんよりは十歳くらい年上ですから、同じという訳にはいきません。
「ありがとう、瑠希弥」
でも嬉しい事に変わりはないので、瑠希弥にお礼を言いました。
「いえ……」
瑠希弥は何故か顔を赤らめて俯きました。
瑠希弥の反応を見て、改めて今、二人きりなのだという事を思い出しました。
私も顔が火照るのを感じました。
このままだと、いけない世界に突入してしまいそうです。
『二人きりじゃないぞ、もう一人の蘭子。私がいるのを忘れるなよ』
いけない私が心の中で囁きます。何だか水を差された気がしました。
『悪かったな、もう一人の蘭子。霊媒師の里では、私はすっかり
いけない私は
霊媒師の里では、いけない私は全く現れませんでした。
私もその時は気にも留めなかったのですが、何か理由がありそうです。
『私はあのジイさんが苦手なのさ。だから大人しくしていたんだ』
いけない私が言いました。
いけない私は私の祖父である西園寺公章が苦手なようです。
何故なのかはいけない私は教えてくれませんが。
言われてみれば、あの里には、何となくですが、祖父の気配がしていました。
以前、居酒屋で爆発事故が遭った時、霊界の掟を侵して私と麗華を助けてくれた祖父。
そのせいで、それ以来祖父の気を感じる事はなかったのですが、あの里には祖父の気が残っていたようです。
「お買い物にでも行きましょうか、瑠希弥」
家の中に二人でいると、また意識してしまいそうな気がしたので、私は瑠希弥を誘って外出しました。
そろそろ買い出しにも行く必要があったので、ちょうど良かったのです。
私達はスーパーに向かいました。
「買うもの、たくさんありそう、瑠希弥?」
「はい。八木先生が明後日お帰りになりますから、今週は多めに買い込んでおかないといけません」
瑠希弥は微笑んで応じます。
「歩きで来たの、失敗かな?」
私は苦笑いして言います。
「大丈夫ですよ。いざとなったら、カートをそのまま借ります」
瑠希弥は更に笑顔で言ってくれました。
「そう?」
私はホッとして微笑み返しました。
二人でスーパーに入ると、大型の買い物カートを瑠希弥が押します。
入り口の果物売り場でまず手始めにオレンジや林檎、スイカ、パイナップル、マンゴーと次々にカートに入れます。
次に野菜売り場でレタス、キャベツ、ジャガイモ、さつまいも、茄子、胡瓜、
続けて、お豆腐、油揚げ、厚揚げ、おからと入れていき、漬け物、ウィンナーソーセージ、ハム、ベーコン、牛肉、豚肉、鶏肉も入れます。
更に進んで、カレールー、シチュー、胡椒、醤油、ウスターソース、中濃ソース、とんかつソース、唐辛子、味噌、かつお節、昆布、ワカメ。
タイムセールの卵はお一人様二パックまでなので、四パック買います。
麗華がいたら、
「家にあと五人おる」
とか言って、もっと買い込むのでしょうが、そんな恥ずかしい事はできません。
その向こうでは、ホッケ、秋刀魚、鯖、鮪の刺し身、冷凍イカ、鯛、イワシ。
そして牛乳、ヨーグルト、豆乳、缶ビール、純米酒、冷凍食品。
十キロ入りの米、食パンを三斤。生うどんを五玉。
カートがいっぱいになったので、私がもう一つ持って来ました。
「こんなところでしょうか?」
瑠希弥が言います。私は唖然としてしまいました。この量をカートで運ぶつもりでしょうか?
尻込みしてしまいそうです。
「ちょっと重いでしょうか?」
瑠希弥も私の顔を見て苦笑いしています。
「私、車を取って来ますね」
瑠希弥は会計をすませると、一足先にスーパーを出ました。
私はエコバッグに詰め替えた食品を入れたカートを店の隅に寄せ、瑠希弥を待ちます。
「あ、やっぱり蘭子さんだ」
ぼんやりと雑誌の広告を眺めていると、そう言う声を耳にしました。
聞き覚えのある声とその主が漂わせる妙な気を感じ、私は声がした方に顔を向けました。
そこには、何度か関わりがある村上法務大臣のお嬢さんの春菜さんがいました。
「あら、春菜ちゃん。久しぶりね」
私は微笑んで応じましたが、それよりも春菜ちゃんに纏わりついている微妙に隠微な気が問題です。
普通の人の気ではありません。悪意に満ちた気です。
とても放っておけるモノではありません。
「もう、蘭子さん、引っ越したのを教えてくれないんだもん、酷いわ」
春菜さんは膨れっ面をしています。
「ごめんなさいね。いろいろと立て込んでしまって……。それより、春菜ちゃんの家って、この辺じゃないわよね?」
私は春菜ちゃんが漂わせている気を探りながら、彼女に尋ねます。
「今日は学校の創立記念日で休みなの。だから友達の家に遊びに来て、帰りにここを通りかかったら、蘭子さんの姿を見かけたから……」
春菜さんは私が手をかけているカートの中身に目を見開きながら、答えてくれました。
「それより、ちょっと教えて欲しい事があるんだけど?」
私は更に喋ろうとする春菜さんを遮るようにして言いました。
「え? 何?」
春菜さんはギクッとしたようです。ああ、そうか、彼女、いけない私を知っているんだった……。
挫けそうになりましたが、何とか踏み止まります。
「春菜ちゃんの学校で、何か変わった事、起きていない?」
すると春菜さんは更に驚き、
「何でそんな事がわかるんですか? 確かにここ最近、何人も生徒が行方不明になっていますけど」
「そんな事が……」
あまりの真相に私も驚きました。
「だから、本当は今日は出かけてはいけないって言われていたんですけど……」
春菜さんはバツが悪そうですが、別に私は学校に言いつけたりするつもりはありません。
それよりも、行方不明事件の方が気になります。
「春菜ちゃん、その行方不明の事、もう少し詳しく教えてくれない?」
私は春菜ちゃんを家に誘いました。
非常にまずい感じです。
行方不明の生徒は全員女子。
恐らく生きてはいないでしょう。
それにしても、あまりに悪辣な犯人です。
一刻も早く止めないと、更なる犠牲者が出てしまいます。
麗華にも連絡を取らないと。
西園寺蘭子でした。
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