元の鞘?

 私は西園寺蘭子。霊能者です。


 訳ありの「強姦魔」である長良邦彦さんの依頼(?)で、私と親友の八木麗華は、長良さんの元カノの大久保美薗さんの住んでいる町に来て、とんでもない連中に捕まってしまいました。


 真言立川流。


 一説によると、邪法。一説によると時代に翻弄されただけのごく普通の一派。


 どちらにしても、私達が相手にしている老人は、少なくともまともな仏法者ではないですね。


「さあ、我らで愛でて進ぜよう」


 老人の顔が更に狡猾さを増しました。そしておぞましい事に更にあそこを大きくしました。


 長さは野球のバット以上、先端はバレーボールほどです……。


 ああ、こんな物を見せられてはもうお嫁に行けないかも……。


 行くつもりだったのか、とか言わないでくださいね。


「バカだな、ジジイ。マラはでかけりゃいいってもんじゃねえんだよ!」


 悩んでいる私に関係なく、いけない私は老人のそれをものともせず、印を結びます。


「オンマカキャラヤソワカ」


 行けない私の十八番おはこの大黒天真言です。


 バリバリバリッと凄まじい勢いでお堂の床が裂け、老人に真言が向かいます。


「はああ!」


 すると老人は信じられない事にあそこの袋を狸のように広げ、真言を弾いてしまいました。


「化け物か、てめえは!?」


 大黒天真言を弾かれたいけない私が激怒します。


 私はそんな事より、老人の袋に驚いてしまいました。畳み一畳くらいありました。


 とんでもないものを見せられて、ますますお嫁に行けなくなりそうです。


「蘭子、幻覚や! そのジイさんはそこにはおれへん!」


 脇で私達の戦いを観ていた麗華が叫びました。


「何!?」


 いけない私はキッとして老人を睨みます。


 私も同時に気づきました。


 老人は身代わり童子を使っているのです。


「余計な事を言わないでくださいよ」


 老人はにこやかな顔で麗華を見ました。


 麗華はまた起き上がった男達に取り囲まれます。


「さっきはようもやってくれたな!」


 閉所恐怖症から完全に立ち直った麗華は反撃に出ました。


「おりゃああ!」


 全裸なのに全く臆する事なくハイキックを繰り出す麗華をこの時ばかりは尊敬してしまいます。


 いけないところが丸見えなのです。


「目くらましかよ。卑怯な戦い方だな、ジイさん?」


 いけない私の怒りは頂点に達しようとしています。


「それが戦略というものですよ、西園寺さん」


 老人は涼しい顔で言ってのけました。


「やかましいよ!」


 いけない私はまた印を結びました。


 また同じ事をするつもりでしょうか? 頭が悪いのでしょうか?


 その時でした。


『おい、もう一人の蘭子、聞こえるか?』


 いけない私が私に話しかけて来ました。


 こんな事は初めてです。


『え? こんな事ができたの?』


 私は驚いてしまいました。


『できるさ。私達は西園寺蘭子様なんだぜ』


 いけない私は得意そうに言います。


『そうね』


 私は苦笑いしました。


『私がジジイにもう一度大黒天真言をぶつけるから、その隙に奴の本体を探って摩利支天の真言をぶつけろ』


 いけない私にしては、知略に富んだ作戦です。


『私をバカにしてるだろ?』


 いけない私はムッとしたようです。


『そんな事ないわよ。やってみるわ』


 私は思った事がいけない私に全部伝わってしまう事に気づきました。


 いけない私は老人の幻覚をもう一度睨み据え、


「オンマカキャラヤソワカ!」


とさっきより強力な大黒天真言を放ちました。


「愚かな。また同じ事をするのですか、西園寺さん」


 老人は再びあそこの袋を巨大化させました。


 その隙に私は老人の本体を探ります。


 そばにはいないようです。


 どこにいるのでしょうか? 探索範囲を広めて行きます。


 お堂にある歓喜天像の中から人の気配を感じます。


『そこね!』


 私は老人の本体を見つけました。


「オンマリシエイソワカ!」


 私といけない私の二重奏の摩利支天真言が歓喜天像に向かいました。


「ぎえええ!」


 いけない私の力が合わさったので、歓喜天像は砕け散り、中に隠れていた老人はその下敷きになって気絶しました。


 同時に幻覚を作っていた身代わり童子が砕け、麗華と戦っていた男達も皆倒れてしまいました。


 いけない私は満足したのか、引っ込んでくれました。


 こうして、私と麗華はピンチを凌いだのでした。

 

 


 私と麗華は引き裂かれた服で何とか胸と腰を隠しました。


 老人をお堂にあった鎖でグルグル巻きにして、全裸で倒れている男達にお堂の奥から持って来た座布団を置きます。


 取り敢えず、見えない方がいいところだけを隠しました。


 外にも倒れていたので、座布団を補充して載せました。


 そして、その中に美薗さんをを見つけました。


 美薗さんの服は近くにあったので、それをかけました。すると彼女が目を覚まして起き上がり、


「私……」


と突然泣き出します。どうやら、一部始終を記憶しているようです。


「私、邦彦さんに別れ話を切り出されて、頭に血が上って、復讐してやろうと思っていました」


 美薗さんは涙を拭いながら語ります。


「そんな時、ここの住職と出会って、優しい言葉で慰められて、彼への報復に力を貸すと言われ、その気になってしまいました。それで、気がついた時には、邦彦さんに酷い事を……」


 美薗さんはまた泣き出しました。


 そこへ長良さんが現れました。彼も老人の術が解けているので、もう大丈夫です。


「美薗……」


 長良さんは微笑んで言いました。美薗さんは恥ずかしそうに服で身体を隠して立ち上がります。


「邦彦さん、ごめんなさい。私、取り返しのつかない事をしてしまったわ」


「美薗……」


 長良さんは微笑んだまま美薗さんを抱きしめます。


「僕も悪かった。君を避けてばかりで、君の気持ちを少しも理解しようとしなかった」


「邦彦さん」


 美薗さんも長良さんに抱きつきました。服が落ち、美薗さんは丸見えになってしまいましたが、気にしていないようです。


「アホらしなあ。何やねん、しっかりより戻しおって」


 麗華はムスッとして抱き合う二人を仁王立ちで睨みました。


「長良はん、契約の通り、ご請求申し上げますんで、よろしゅうに」


 麗華はそう言ってスタスタと歩いて行きます。


「蘭子、置いてくで!」


「せっかちね、麗華は」


 私は肩を竦め、


「良かったですね。お幸せに」


と長良さんと美薗さんに声をかけ、麗華を追いかけます。


 麗華はラブラブなカップルが大嫌いのようです。


 ましてや、長良さんに惹かれていたのですから、美薗さんとよりを戻されたのが気に食わないのでしょう。


 そんな麗華も可愛いのですけどね。


 それにしても、いけない私と会話ができるとは思いませんでした。


 もしかすると、うまく付き合っていけるかも知れませんね。


 そうなるのが一番良いと思います。


 


 西園寺蘭子でした。

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