魔物の真実

 私は西園寺蘭子。霊能者です。


 次から次へとジョギング中の女性を襲っていた魔物。


 そいつに、私と弟子の小松崎瑠希弥は捕まってしまいました。


 私は捕らえられていた女性達に襲いかかられ、瑠希弥は見えない敵に服を引き裂かれ、下着を毟り取られました。


「抗うな、小松崎瑠希弥よ。快楽に身を委ねよ」


 またしても不気味な声が薄暗い部屋の中に響きます。


「瑠希弥!」


 操られていた女性達を摩利支天の真言で解放した私は、瑠希弥を助けに向かいます。


「先生……」


 瑠希弥は自分の感応力を全開にして脚を開かせようとする魔物に抵抗しています。


(真言が通じないなら!)


 私は気を右手の人差し指に集中します。


「はあ!」


 練りに練った気をまるでレーザービームのように放ち、瑠希弥の背後を打ちました。


「ぐげええ!」


 ヒキガエルのような声がし、瑠希弥の脚を開こうとしていた力が消えました。


「終わった?」


 私はホッとして瑠希弥に近づきました。


「先生!」


 瑠希弥が叫びました。


「え?」


 消えたと思っていた魔物が私に襲いかかって来ました。


「やはりお前から愛でる事にするよ、西園寺蘭子!」


 背筋がゾッとするような気を背中に感じたかと思った次の瞬間、私は身動きできなくなっていました。


「先生!」


 瑠希弥は気の力ではりつけかせを破壊し、私に駆け寄って来ます。


「ほお。お前も生娘か、西園寺蘭子?」


 魔物の声が耳元で囁きます。何かムカつく言い方です。


「ならば尚の事、愛で甲斐があるというものだ」


 Tシャツと短パンが一瞬にして引き千切られ、ブラとパンティもたちまち剥ぎ取られます。


 私も瑠希弥と同じく全裸にされてしまいました。


「何じゃ、愛で甲斐のない乳房よのう」


 魔物の声があからさまにがっかりした口調で言います。


 もっとムカつきました。でもこのままムカついて行くと「いけない私」が出て来てしまうので、ダメです。


「先生を侮辱するのは許さない!」


 瑠希弥がその大きな胸をゆさゆささせながら言ってくれました。


 嬉しいような、悲しいような、複雑な心境です。


「はあ!」


 瑠希弥は気を集中し、指先から放ちます。


 しかし、魔物にも学習能力があるらしく、サッとかわしたようです。


「同じ手を食らう程、われは愚かではない」


 魔物は高笑いをしました。ますますムカつくます。いけません、「いけない私」が出て来てしまいそうです。


「お前もまた愛でてやろう!」


 唖然としている瑠希弥に魔物がまた襲いかかりました。


「きゃあ!」


 瑠希弥はまた動けなくなり、胸を揉まれます。大きいので揉み甲斐があるという事ですね。


 またちょっとムカつきます。


「お前はこちらが美しいのう」


 魔物が言いました。


「ああ……」


 私はいきなりあそこを刺激されました。


 何でしょう? 舐められているのとも触られているのとも違います。


 いけません、陶酔して来てしまいました。


 要するに「感じて」しまっているようです。


「おうおう、洪水じゃのう。なかなか名器の気配じゃ」


 魔物が歓喜の声をあげました。


 名器? 以前、麗華が太田梨子に言われていましたが、どういう意味なのでしょう?


 でも、私のあそこは恥ずかしい事にすっかり反応してしまい、所謂「愛液」を放出しているようです。


 真言が効かない相手に何をすれば……。


 力が抜けて行く中、私はある事を思い出しました。


 この魔物は残留思念でしょうか?


 以前、サヨカ会の残党と戦った時も、鴻池大仙の残留思念に苦戦しました。


 あの時は、大仙の奥さんを利用できましたが、この残留思念は正体がわからないので、無理です。


 私と瑠希弥はこのままこいつの虜として裸の生活を続ける事になりそうです。


 ああ。麗華、もう一度遭いたかった。


 あれ? 麗華? 麗華はどうしたのでしょう?


 私達が連れ去られたのを見ていたはずです。


 ここがわからないのでしょうか? 私達にもわからないのですから、仕方ないのですが。


「先生、八木様が……」


 瑠希弥は胸を揉まれながらも、麗華の事を探っていたようです。


「麗華がどうしたの…ああ、ううーーん」


 尋ねながらも喘いでしまう自分が情けないです。


「おまっとさん!」


 ドーンと部屋のドアが開けられて、麗華が飛び込んで来ました。


「やっと理由がわかったで。ウチが除けもんにされたな!」


 麗華はニヤリとして言いました。今はそんな事はどうでもいいですから、早く何とかして欲しいです。


「蘭子、こいつの正体は残留思念や。しかも、生娘が大好きやねん。それと純真な女がな」


 なるほど、納得です。麗華はそのいずれにも当てはまりません。


「あの公園で、何人ものエロオヤジ共が、ジョギングしてる若い女の子をよこしまな目で見ている事によって吹き溜まった邪気が何十年も積もり積もって変化へんげしたんや」


 麗華がそう言うと、当たっているのでしょう、魔物が動揺したのがわかります。


「で、例の犬の毒殺事件が引き金になって、怒りと呪いの力が邪気と融合し、魔物になったんや。だから、いくら辿っても、真相に行き当たれんかってん」


 麗華は得意そうに胸を張って言いました。


「飼い主は見つけたで、蘭子。そっちは後で説得するとして、今はこいつやな」


 魔物が麗華に敵意を向けました。その怒りが集約し、今にも爆発しそうです。


「あんたの相手はこいつに任せるわ」


 麗華は胸の谷間からお札を取り出します。


「さあ、行きや! 徹底的に愛されたれ!」


 麗華のお札から飛び出して来たのは、逆の気です。


 男性のジョギング姿をずっと邪な目で見ていた中年の女性の邪気です。


 麗華はそれを公園で集めていたようです。


 途端に私と瑠希弥を押さえ込んでいた邪気が萎えて行くのがわかりました。


 何だかおぞましい事になりそうです。


「ぶ、ぶへええ、やめろ、やめてくれえ!」


 魔物の断末魔でした。


 マイナスとマイナスをかけるとプラスになる。


 麗華の見事な作戦でした。


 


 しばらくして、私達は麗華の取り計らいで、近所の貸衣装屋さんから服を調達してもらい、何とか外に出られました。


 囚われていた五人の女性達も、そのあまりにすごいセンスの服しか借りて来てくれなかった麗華を恨めしそうに見ながら、それぞれの家へと帰って行きました。


 私と瑠希弥も、もう二度と着たくないと思うような服を着て、隠れるようにしてマンションに帰りました。


「何やねん、気ィ悪いわ。ウチが調達した服、そないに嫌か?」


 マンションに着くと、麗華が剥れて言いました。


「まあまあ」


 私と瑠希弥は麗華を時間をかけて宥めました。


 あの魔物より、麗華の方が面倒臭いです。


 でも、麗華のお陰で助かったのですから、お礼をしないといけません。


「今度、ホテルのディナー御馳走するから、許して、麗華」


 耳元で囁きました。


「お、おう」


 麗華は嬉しそうに私を見ました。何だか、嫌な予感がします。


 一体いくらのディナーを食べるつもりかしら? まあ、いいでしょう。




 西園寺蘭子でした。

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