百合族信仰
危ない女子学園
私は西園寺蘭子。霊能者です。
先日の見えない敵との戦いはまた新たな絆を生み出すものとなりました。
私の弟子である小松崎瑠希弥を危険な目に遭わせてしまった私は、本当に心から瑠希弥に謝罪しました。
「先生、私は貴重な体験をできたので、むしろ感謝しているんです。謝らないでください」
優しい瑠希弥はそう言ってくれましたが、私は、
「そんな事ないわ。私がついていながら、本当に申し訳ないと思っているわ」
と頭を下げました。
「先生……」
涙脆い私達は、抱き合って泣いてしまいました。
「何やねん。一番活躍したウチは放ったらかしかいな」
親友の八木麗華はムスッとして言いました。
「ごめーん、麗華。貴女にも感謝してるわよ」
私と瑠希弥は両側から麗華を抱きしめました。
「おほほ、悪い気はせえへんけど、ウチ、そっちの気はないで」
麗華が照れながら言ったので、私と瑠希弥は慌てて麗華から離れました。
そして、瑠希弥は私のもう一人の数少ない親友である箕輪まどかちゃんの待つG県へと帰って行きました。
ちょっぴり寂しかったのですが、それを言うとお互いのためにならないと考え、敢えて我慢しました。
そして、麗華も大阪で依頼を受け、久しぶりに私は一人です。
麗華とは、山形の大修験者である遠野泉進様のところで一緒に修行して以来、ずっと一緒だったので、寂しさも
マンションで一人で生活するのは、山形へ修行に行く時以来ですから、一年くらいなかった事です。
余計寂しさが増して来ます。
こんな時は、依頼を受けて、仕事に没頭するのがいいのですが、そんな時に限って依頼がありません。
それから一週間、私は一人の生活をしました。
瑠希弥と出会う前は、ずっと一人暮らしだったのに、今こうして一人で生活してみると、人恋しさが倍増しています。
寂しがり屋度が強くなっています。
まず麗華に電話してみますが、
「すまんな、蘭子、あと一週間は帰れへんねん」
麗華は九州の方で依頼を受け、これから出発するところらしいのです。
「堪忍な、蘭子」
麗華のその言葉に私は泣きそうになりましたが、
「平気よ、麗華」
と強がってみせました。
次に瑠希弥に連絡しようとした時でした。
事務所の電話が鳴りました。
嬉しいような、悲しいような、複雑な思いになりました。
「はい、西園寺蘭子霊能事務所です」
私は努めて明るく電話に出ました。
「こちらは、
仕事の依頼でした。
菖蒲学園は、埼玉県にある名門女子校です。
女子校と知り、ほんの少しだけ嫌な予感がしましたが、今は仕事を選んでいる段階ではないと判断し、
「お受け致します」
と二つ返事で受諾した私は、車を飛ばして菖蒲学園に行きました。
学園に着くと、園長先生と教頭先生が出迎えてくれます。どちらもふくよかな年配の女性です。
「西園寺先生は、以前私の知り合いの方が理事長を勤めている学校の事件を解決されたそうですね」
園長室で、私は園長先生に言われました。
でも、実際に学校関係の除霊は数限りなくしておりますので、どこの事かはよくわかりません。
「害があった訳ではないのですが、学園の名に傷が付くのと、入学希望者が減るのは困りますので、除霊をお願いしたいのです」
教頭先生が言います。私はそのあまりにも割り切った感じの言い方にちょっと違和感を抱きました。
(何だろう?)
その時はその程度しか感じませんでしたが。
教頭先生の案内で、私は学園の高等部の校舎に向かいます。
霊が出るのは、高等部の部室棟の一角らしいのです。
「本日は部活動は休止にして、部室棟には誰もいない状態にしてあります。じっくりとお仕事をなさってください、西園寺先生」
教頭先生が言いました。彼女の顔がどことなくにやけていたような気がしたのは、私の考え過ぎだと思ったのですが。
部室棟が建てられている区画に近づくと、確かに気の流れが変わりました。
最初は、生徒達の悪戯ではないかと疑っていた私でしたが、その疑念は消えました。
(これは……)
以前、瑠希弥と訪れた女子校でも、同じような気を感じました。
そう。百合の気です。端的に言えば、女子同士の恋愛の気。
女子校には多い気ですが、今日感じるそれは、生きている人の気ではありません。
(これは……)
次第に真相がわかった来たのですが、俄には信じられません。
私の結論はこうです。
その百合の気の元は、初代園長、すなわち、この菖蒲学園の創業者の霊のものなのです。
創業者の女性は、今から百年ほど前に亡くなっています。
明治末期。まだ男女の権利が不平等だった時代です。
その頃、すでに百合族がいたのでしょうか?
いえいえ、大奥の昔、いや、平安の時代から、日本には女性同士の恋愛は存在していたようです。
只、今回の園長の気は、それらとは同列には扱えないものです。
彼女は亡くなってからずっと、この学園でその百合の気を増幅し続けて来たのです。
とてつもない気です。
幾人もの女性を生きたまま虜にし、その気を全て吸い尽くし、今や魔となりかけています。
「そこね」
私は部室棟の裏手にある祠を見つけました。
封じているのかと思ったら、違います。
創業者を祀っているのです。
「これは一体……?」
気の流れに変化を感じ、私は後ろを見ました。
「さすが西園寺先生です。もうお気づきですか?」
そこには、教頭先生と二十人ほどの生徒が立っていました。全員一糸纏わぬ姿です。
「どういう事ですか、教頭先生?」
私は数珠を取り出して尋ねました。
「貴女をお仲間にしたいのですよ。そして、我が神のお力をもっと高みに」
教頭先生はニヤリとして言います。周囲を見回すと、すでに私は完全に囲まれています。
全部で百人近くいるでしょうか? まだこれから青春を謳歌する年代なのに……。
私は教頭先生を睨みます。
「貴女がどんな思想信条を持とうと私は何も言いません。でもこの子達を巻き込んだのは許せないわ!」
私は大声で言いました。すると教頭先生はその三段腹をゆさゆさと揺らしながら、
「奇麗事を言いますのね。この子達は、私が引き込んだのではありません。自分達の意志で参加しているのですよ」
「何が自分達の意志よ! これだけの気を放っている霊を祀って、その力を強化すれば、彼女達は否応なく参加してしまうわ!」
私は自分も取り込まれそうになりながら、更に反論しました。
「そこまでわかったいるのなら、説得は無理のようね。皆さん、西園寺先生を取り押さえなさい。この人は私達の神を認めないそうです」
教頭先生は私を指差しました。その途端に周りにいた女子生徒達が私に向かって走り出しました。
中には私より立派な胸を揺らしながら走って来る子もいます。
あ、いえ、それはどうでもいい事です。
「オンマリシエイソワカ!」
私は摩利支天の真言を唱えました。
「ぐぎゃっ!」
女子生徒達が真言で弾き飛ばされます。やはり何らかの邪気が使われているようです。
早く何とかしないと、彼女達が危険です。
それにしても、相手が多過ぎます。
そんな時に限って、麗華はいません。
もしかすると、今までで一番のピンチかもです。
攻撃的な真言を使えば、生徒の皆さんを傷つけてしまいますので使えません。
どうしたらいいのでしょう?
西園寺蘭子でした。
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