瑠希弥危機一髪!

 私は西園寺蘭子。霊能者です。


 私が暮らしているマンションの近くにある公園で起こった怪異をきっかけにして動き始めた何か。


 どうしても辿り着けない黒幕をおびき寄せるために、私達は敢えて目立つ行動に出る事にしました。




 次の日の朝、私達は、今まで連れ去られたと思われる女性達と同じようにジョギングスタイルになりました。


 私は半袖のTシャツにスポーツタオルを首に巻き、短パンにジョギングシューズ、腰にはスポーツドリンクを入れたポーチを着けました。


 弟子の小松崎瑠希弥も、黒のタンクトップに黄色の短パン、ジョギングシューズにリュックサック。サンバイザーが大きめの帽子も被っています。


 それなのに、親友の八木麗華は上半身は花柄の水着ブラのみ、下は今時珍しい濃紺のブルマです。


 靴だけはプロ仕様のようなスパイク付きのものです。


 おまわりさんに職務質問されそうです。


 それより、一緒に歩きたくありません。


 取り敢えず、公園に着くまでは麗華には白のジャージ上下を着てもらいました。


「何やねん、蘭子? ウチのスタイルの良さに嫉妬したな?」


 どこまでも便利な思考の麗華は、そう言って得意そうに笑いました。


 私は思わず瑠希弥と顔を見合わせてしまいます。


 


 まもなく公園に着きました。


 周囲を見渡すと、思い思いのペースで走ってる人達が予想以上に多くて驚いてしまいました。


「健康に気を遣っている人達って、随分多いのね」


 私は溜息交じりに言いました。すると麗華は早速ジャージを脱ぎ捨てて、


「全く、浅ましいこっちゃ。人間、長生きすればええゆうもんやないのにな」


と元も子もないような事を口走ります。


 彼女のすぐそばを通りかかったおば様ランナーが、キッと麗華を睨んで走り去りました。


「ほな行こか」


 麗華はそんな事を気にかける様子もなく、走り出します。


「私達も行きましょう、瑠希弥」


「はい、先生」


 瑠希弥と共に私も走り出します。


 今のところ、何もおかしな気は漂っていません。


 ですので、私達は犬を連れている人を探します。


 昨日行ったドッグランの方が犬に会う確率が高いと思われたので、私と瑠希弥はそちらに向かいます。


 麗華を探すと、イケメンさんが団体で走っている後をつけていました。


 相変わらずそういうところは目敏いのですが、


「あの方達、女性に興味がないようですよ」


 感応力を研ぎすませ始めた瑠希弥が小声で言いました。


 なるほど、そういう方々ですか。麗華、ご苦労様。


 やがて私達はドッグランに到着しました。


 朝も早いのに、そこも盛況です。


 瑠希弥が調べたところによると、この付近にはドッグランがある公園が少なく、ここが穴場的存在らしいです。


 その辺りも、黒幕さんの思惑と一致したのかも知れません。


「ワンちゃん達も、特に変わった様子はありませんね」


 瑠希弥が辺りにいる犬達を見渡しながら囁きます。


「そうみたいね」


 私は周囲に怪しい行動をしている男性がいないか気を配りながら応じました。


 その時でした。それはあまりに突然訪れたのです。


「きゃあ!」


 瑠希弥の後ろに不意に現れた大柄な男が、彼女を羽交い締めにして、ハンカチのようなもので口を覆います。


「瑠希弥!」


 私は慌てて瑠希弥に近づこうとしましたが、男は瑠希弥を眠らせると、サッと肩に担ぎ、走り出します。


「ちょっと、待ちなさいよ!」


 私は男を追いかけました。ところが、その私も後ろから羽交い締めに遭い、ハンカチを押し当てられ、眠ってしまいました。


 不覚です。私達の警戒をかい潜って、敵は仕掛けて来たのです。


 しかも、すぐそばに来ているのに全く気づかせないという方法で。


「蘭子ォッ!」


 私達が発した気を感じ、麗華が走って来ました。


 しかし、その時すでに私と瑠希弥は、完全に意識を失っていたのでした。


 


 どれほどの時間が経過したのかもわかりません。


 私が目を覚ましたのは、妙なお香の匂いと油の臭いが交じり合った場所でした。


 薄暗いところです。蝋燭の火だけが、周囲を照らし、私の目にその光景を映し出します。


「あん、あん、あん……」


 そこは何とも言えない淫靡な世界でした。


 五人の全裸の女性達が絡み合い、舐め合い、まさぐり合っています。


 彼女達の全身は油が塗られているようで、蝋燭の明かりで怪しく輝いていました。


 自分がどんな格好をしているのかと怖くなって見ると、さっきのままです。


 服は脱がされていません。只眠らされてこの怪しい場所に連れて来られただけのようです。


「瑠希弥!」


 ようやく思考が正常のものになって来て、私は瑠希弥の姿が見えないのに気づき、叫びました。


「先生!」


 瑠希弥の声が聞こえました。しかし、部屋の壁の構造のせいなのか、このお香のせいなのか、どちらから聞こえて来たのかわかりません。


 私は周りを見渡します。そして、息を呑んでしまいました。


 瑠希弥は、部屋の一角に建てられた十字架のようなものにはりつけにされ、タンクトップを切り裂かれ、短パンを剥ぎ取られています。


 要するに、上はブラのみ、下はパンティのみなのです。


「瑠希弥!」


 私はふらつきながらも何とか立ち上がり、彼女の方へと歩き出します。


 するとさっきまで互いを舐め合っていた五人の女性達が突然私に襲いかかって来ます。


「きゃっ!」


 五人の女性に掴みかかられ、私は身動きが取れません。


「西園寺蘭子、まずは手始めにお前の弟子を愛でてしんぜよう」


 どこからともなく、不気味な声が聞こえます。


 生者のものとは思えない声です。男とも女ともつかない、魂を鷲掴みにされたような感覚に陥るおぞましい声でした。


「何のつもり? あなたは誰? 何が目的なの!?」


 私は女性達の腕を振り払おうと身体をよじります。しかし、彼女達の力は、とても人間の若い女性のものとは思えないほど強力でした。


(何なの、この人達は?)


 彼女達を見てみますが、霊能者ではありませんし、オリンピック強化選手でもないようです。


 本当にごく普通の若い女性です。


「う……」

 

 五人のうちの何人かが私の身体を触り始めました。


 しかもいきなり、あそこです。


 両手両足を強く押さえつけられているので、抵抗どころか動く事もままなりません。


 ああ、ちょっと! 今、舐められているのかも……。ああ……。


 膝に力が入らなくなります。感じてしまっているのでしょうか……?


 お香のせい? ふと瑠希弥を見ると、彼女は下着を剥ぎ取られていました。


 瑠希弥の大きな乳房がプルンと揺れ、そこにどこからか油が注がれています。


「ああ……!」


 瑠希弥が悶えています。何も存在していないのに、彼女の胸が揺れ、脚が開かれて行きます。


 瑠希弥はもう二十歳を過ぎたのかしら? 彼女の薄い繁みが見え隠れしています。


 何だか、私も興奮して来ているようです。


 そんな事を考えてしまうのも、お香のせいでしょうか?


「さあ、そろそろ愛でるとするか、生娘の味を」


 また不気味な声が聞こえました。


「ううう!」


 瑠希弥はその壮絶な感応力を使い、必死に抵抗しているようです。


 開きかけた脚が閉じました。


「無駄な事よ。抗う事はない。至上の快楽はもうすぐそこぞ」


 薄気味悪い声が瑠希弥を篭絡ろうらくしようと囁きます。


『瑠希弥、身の内に摩利支天真言を!』


 私は以前、蘆屋道允という陰陽師との戦いで、麗華の幼馴染の神崎新さんに教わった事を瑠希弥に伝えました。


『はい、先生』


 何とか届いたようです。瑠希弥は私の方に目を向け、微かに頷きました。


 そして私です。出羽の大修験者である遠野泉進様の教えに従い、指先に気を集中します。


「はあ!」


 ある程度集約したところで放出すると、


「ぎゃっ!」


 私を押さえ込んでいた三人の女性が吹っ飛び、倒れました。


「えい!」


 次に自由になった両手で抑えて、私のあそこを必死に舐めていた一人を蹴倒します。


 私の短パンは、よだれまみれでネラネラと光り、凄い事になっています。


「ぐは!」


 更に胸を揉んでいた最後の一人を、


「オンマリシエイソワカ!」


と摩利支天の真言で吹き飛ばします。


「ぐげ!」


 五人の女性達は摩利支天真言で悪い気を取り払われ、魔物の支配から抜け出したようです。


 でも、まだ終わりではありません。


「先生……」


 瑠希弥が全く抜け出せていないのです。


「真言など我には只の戯言たわごと。無駄だ、西園寺蘭子」


 謎の声が言い、不気味な笑い声が部屋中に響きました。

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