勝利目前?
私は西園寺蘭子。霊能者です。
最強最悪の呪術師である内海との戦いもいよいよ大詰めとなりました。
私といけない私が二十年以上の時を経て一つになったのです。
それは衝撃的でした。
パワーアップはするとは思っていたのですが、私の想像を遥かに超えたそれは、時空を歪ませるのではないかというくらい強力です。
「先生、それなら絶対に勝てます!」
弟子の小松崎瑠希弥が断言しました。
「ええ。大丈夫です、西園寺さん」
瑠希弥の姉弟子的存在である椿直美さんも太鼓判を押してくれました。
「どっちの蘭子さんですか?」
親友の八木麗華がビビりながら尋ねたのはちょっとショックでしたけど。
「どっちでもないわよ、麗華。私は私。西園寺蘭子よ」
怖がられないように微笑んで応じましたが、麗華の顔は引きつっていました。ああ……。
「さあ、終わりにしましょうか、内海帯刀」
私はこちらを睨みつけている帯刀を見て言いました。彼もまた、私の変貌に驚愕していますから、もう勝利を確信したい気分です。
「蘭子ちゃん、気を緩めるな。帯刀はその程度ではないぞ」
出羽の大修験者である遠野泉進様が言いました。
「何だと、スケベジジイ? この私が勝てないとでも言うのか?」
途端に私の口からあり得ない言葉が飛び出しました。気を許すといけない私が表に出て来てしまうのです。
ダブルスの悪い面ですね。
「帯刀をよく見てみろ。奴は負ける顔をしているか?」
泉進様のその指摘に私はギクッとしてしまいました。
確かに帯刀は私を睨んではいるのですが、恐れたり、怯んだりしている訳ではありません。
ましてや、自分が負けるなどと思っている顔でもありません。どういう事なのでしょうか?
「我の考えより、うぬの力が大きかっただけの事。我はその程度では倒せぬ」
帯刀は不敵な笑みを浮かべました。
「強がりを言うな、ジジイ! この私に勝てるなんて、おこがましいんだよ!」
ああ、またいけない私が発言してしまいました。
江原雅功さんとそのお師匠様である名倉英賢さんの視線が痛いです。
「蘭子さん、あの人の結界は全部私が消し飛ばしますから、そこへ真言を叩き込んでください」
気功少女の柳原まりさんが言ってくれました。彼女もまた、パワーアップした一人です。
「舐めるなよ、そこな女子。先程の結界など、我の術の中では児戯に類するものよ」
そう言うと、帯刀は自分の周囲に何重にも結界を張りました。
「これは……」
麗華のお父さんで、心霊医師でもある矢部隆史さんが目を見開きました。
「綾乃さん?」
矢部さんは奥さんの岡本綾乃教授を見ました。岡本教授も眉をひそめて、
「こんな結界、見た事がない……。私が作った護符では、太刀打ちできないよ」
額から汗を流しています。しかし、まりさんは、
「舐めているのは貴方の方です! はああ!」
気を高めながら、帯刀を睨みつけました。彼女の周りに巻き起こり始めた気流は、まさに台風並みです。
「皆さん、離れてください」
まりさんは更に気流を強くしていきます。私達は彼女から離れ、見守る事にしました。
「ほお。成程。うぬは同魂の儀で魂を一つにしたのか? だが、我には届かぬ」
帯刀はまりさんの台風のような気流を見ても余裕の言葉を吐きました。
「どこまで負けず嫌いやねん」
麗華が呟きました。泉進様は腕組みをして見ています。
「どれほどの結界も、髪の毛より細く集束した気で突けば、必ず破れるはずだ」
気の扱いにおいては超一流である泉進様がそう言うのですから、まりさんの勝利は動かないと思われました。
「あ!」
その時、突然瑠希弥が叫びました。それに呼応するように椿さんも、
「いけない!」
二人は同時に走り出し、まりさんに近づこうとしました。
「無茶だ! 何をするつもりだ?」
それに気づいた泉進様が二人を追いかけました。
「はああ!」
でも、時すでに遅く、まりさんは細くした針のような気を帯刀の結界に向かって放ってしまいました。
「ああ!」
瑠希弥と椿さんが同時に叫びました。まりさんの気は直進し、帯刀の結界にぶつかり、それを貫いて消滅させました。
「まりさん、逃げて!」
瑠希弥が更に叫びました。霊が見えないまりさんには一瞬何が起こったのかわからなかったようです。
「オンマケイシバラヤソワカ」
結界の向こうにいたはずの帯刀が何故かまりさんの目の前の地面から現れ、最大の攻撃真言である自在天真言を唱えたのです。
「何故だ、奴は真言は使えないはず……」
江原さんが歯軋りして言いました。
「ぐう!」
真言とまりさんの間に泉進様が入っていました。泉進様は素早く自分の身体を気で包んで、まりさんの盾となり、帯刀が放った真言を受け止めました。
「遠野さん!」
まりさんは自分を庇った泉進様が前のめりに倒れていくのを慌てて支えました。
「オンマリシエイソワカ」
瑠希弥と椿さんが浄化真言である摩利支天真言を帯刀に放ちました。
「効かぬ」
帯刀はフッと笑ってそれを受け流してしまいました。
「これは帯刀の霊体?」
椿さんが気づき、瑠希弥と共に飛び退き、まりさんと泉進様を避難させました。
「ジジイ、大丈夫か?」
麗華も積年の恨みを忘れて、泉進様を気遣います。
「ああ。これくらいでくたばるようなやわなスケベではないぞ、儂は」
泉進様は痛みを堪えながら微笑みました。
「アホ、年寄りが強がり言うんやない!」
麗華は涙ぐんで泉進様に駆け寄りました。
「ここは私が……」
私は前に出て帯刀を見据えました。どういう絡繰りなのか、見定めようと思ったのです。
「分魂の儀、だな?」
英賢さんが呟きます。江原さんがギョッとした顔で帯刀を見ました。岡本教授と矢部さんも同じ反応をしています。
「さすが我が弟弟子よ、英賢。我はまだ強くなるぞ。うぬらが束になっても、我には敵わぬのだ」
帯刀の霊体は高笑いをしています。驚いた事に再び張り巡らされた結界の中にも帯刀がおり、笑っていました。
そこから放たれる力は、いけない私と一つになってパワーアップした私の力を遥かに超えています。何がどうなっているのか、理解ができません。
「まさか……」
何かに気づいた瑠希弥と椿さんが顔を見合わせます。どうしたのでしょう?
「まだ帯刀は光の力を使えます。いえ、また使えるようにしたと言った方が正確かも知れません」
瑠希弥が言いました。私は仰天して、もう一度帯刀を見ました。
「彼は魂を三つ持っています。それを自在に分離したり融合したりできるのです」
椿さんが解説してくれました。魂を三つ持っている? そんなの、反則ですよね?
「しかし、そのような事をすれば、消耗し、力尽きてしまうはずだ……」
江原さんは
「やっぱり化け物か、てめえはよ!?」
またしてもいけない私が前面に出て来てしまいました。でも、彼女の言う通りです。
もはや、帯刀は人ではありません。三つの魂を持ち、それを自在に分離融合できるなんて……。
「消耗しない理由がわかれば、勝てるはずです」
椿さんが江原さんに言いました。何故顔が赤くなっているのかは、問いません。
「直美、照れてる場合かよ」
いけない私がいきなり触れてはダメな事を言ってしまいます。もう!
「そうですね、西園寺さん。私も瑠希弥と力になります」
椿さんは瑠希弥と頷き合い、私の隣に立ちました。
「愚かな。まだ抗うつもりか、うぬらは?」
帯刀は目を細め、私達を哀れんでいるかのようです。何だか余計に闘志が湧いて来ました。
「当たり前よ! 貴方には絶対に負けない!」
私はいけない私が前に出ようとするのを押さえ込んで言いました。
今度こそ、決着をつけなければ……。でも、勝てるのでしょうか? 弱気になってしまいそうです。
西園寺蘭子でした。
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