謎の集団の正体

 私は西園寺蘭子。霊能者です。


 気功少女の柳原まりさんの誘いで、G県に住む霊感少女の箕輪まどかちゃんが待つH山のオートキャンプ場に行きました、


 久しぶりの再会に胸躍らせていたのですが、そこに待っていたのは黒尽くめの筋骨隆々の男達でした。


 しかも彼らは、親友の八木麗華の大黒天真言を受け付けず、まりさんの気功も打ち消してしまいました。


 一体何者なのでしょうか?




「無駄な抵抗はやめろ。お前らに勝ち目は全くない」


 リーダー格の細身のサングラス男が言います。


「やかましいわ、ボケ! これならどうや!」


 負けず嫌いの麗華は、印を結び直しました。


「オンマケイシバラヤソワカ!」


 破壊力最高の自在天真言です。


「無駄だと言ったのがわからないのか、バカ女」


 細身の男が肩を竦めて言いました。


 麗華の真言は男達の直前でかき消されてしまいました。


「く……」


 大黒天真言と自在天真言を続けざまに放ったので、麗華はふらつきながら男達を睨みつけました。


「力の強さではないんだよ。お前らと我々では、人間としての格が違うのだ」


 サングラスの男が言い放つとその言葉に私の中のいけない私が激しく反応しました。


『もう一人の蘭子、代われ! 上には上がいる事を教えてやる!』


 私は無駄のような気がしたのですが、いけない私の怒りが凄まじかったので、仕方なく入れ替わりました。


 すると私の周囲に竜巻のような気の流れが起こります。


「遂にお出ましか、裏蘭子?」


 サングラスの男がそう言ったのを聞き、不安がよぎります。待っていたかのような感じだったからです。


「うるさい、干物グラサン!」


 いけない私が言い得て妙な渾名を言い、印を結びます。これはもしかして、サヨカ会の宗主だった鴻池大仙と戦った時に使った構えでしょうか?


「インダラヤソワカ!」


 右手で帝釈天真言印を結び、唱えます。


「オンマカキャラヤソワカ!」


 左手で大黒天真言印です。そして最後に両手で印を結び、


「オンマケイシバラヤソワカ!」


 自在天真言です。いけない私の究極攻撃です。


「無駄だと言っているだろう?」


 サングラス男がニヤリとしました。


「今だ、麗華!」


 いけない私が叫びます。


「はいな!」


 麗華は一足飛びにサングラスの男に接近し、


「あんたが無防備なんはさっきわかったで!」


 言うが早いか、正拳突きを繰り出しました。


「届かないよ、おバカさん」


 サングラスの男が言いました。麗華の拳は何故か彼の寸前で停止し、押し返されてしまいます。


「な、何やと……?」


 麗華は目を見開いています。


「くそ!」


 いけない私の三段攻撃も不発に終わり、全て無効にされてしまいました。


「どういうこっちゃ?」


 麗華は慌てて後退し、私の隣に来ました。


「先生、この山全体に巨大な結界が張られています」


 弟子の小松崎瑠希弥が小声で言いました。


「結界に入った感覚がなかったぞ」


 いけない私が瑠希弥を見て言います。瑠希弥は頷いて、


「H山自体が霊山であるため、元々結界を持っています。それに似せた形で別の結界を張っているようです。だから気がつかなかったのです」


 瑠希弥は黒尽くめの男達を見て説明してくれました。


「さすが小松崎瑠希弥だ。よくわかったね。しかし、わかったところでどうする事もできない」


 サングラス男は筋肉男達に顎で指示します。筋肉男達は頷いて私達を取り囲むように動きました。


「こいつら、気を相殺する力を持っているみたいです。さっきからいろいろ試していますが、全部打ち消されています」


 まりさんが教えてくれました。


 真言を打ち消したのは結界かも知れませんが、まりさんの気を消してしまったのが何なのかははっきりしません。


「大人しく従ってくれれば、痛い目には遭わせない。我々の目的はお前達のような小者ではないのだからな」


 サングラスの男がまた挑発めいた事を言い放ちます。小者とは聞き捨てなりませんが、ここは我慢です。


「何だと!?」


 いけない私がヒートアップしそうになったので、


『待ちなさいよ、もう一人の私! まりさんがいるんだから、無茶な事はしないで』


『わかったよ』


 いけない私もまりさんを危険な目には遭わせたくないようです。


「大人しく従うから、せめてあんた達の正体を教えろよ」


 いけない私が尋ねました。するとサングラスの男がフッと笑い、


「我々は復活の会のメンバーだ」


「復活の会?」


 いけない私が眉をひそめます。私もその名前は瑠希弥の姉弟子の椿直美さんから聞いた事がありますが、具体的にどんな存在なのかは知りません。


「亡くなった方のご遺体を乗っ取って、自分達の霊体を移らせ、それによって完全犯罪をなそうとしていた邪教集団です」


 瑠希弥が言いました。サングラスの男は瑠希弥の言葉にキッとして、


「邪教集団ではない。我らこそ、世界の危機を救う神の使いなのだ」


 意味不明です。何を言っているのでしょうか、この男は?


「神の使いがどうしてこんな事をするんだ? どうして江原さんを誘き寄せたいんだ?」


 いけない私が挑発行為(右手の中指を突き立てる)をしながら尋ねます。


「決まっているだろう? 我が師である神田原明徹様をお助けするためだ」


 瑠希弥の話では、神田原明徹が復活の会の当主だったようです。


 彼は江原さんによってその力を封じられたそうです。つまりは復讐という事ですね。どの辺が神の使いなのだか……。


「言う事がちいせえなあ、お前の○玉と一緒で」


 いけない私が物凄い事を言いました。瑠希弥は唖然とし、麗華ですら驚いて私を見ています。


 何よりもまりさんに聞かれたのが一番ショックです。立ち直れなくなりそうです。


「何だと!?」


 サングラスの男はどちらに対して腹を立てたのか定かではありませんが、ムッとした表情でこちらを見ています。


「おっと失礼。大人しくするよ」


 いけない私はニヤリとして肩を竦めてみせます。サングラスの男は表情を和らげ、


「お前達雑魚と言い争っても仕方がないな」


 挑発し返してきました。しかし、いけない私は鼻で笑って相手にしていません。そういうところだけは凄いと思います。


「やれ!」


 サングラスの男の指示で、筋肉男達が私達をロープで縛りました。


 まりさんが抵抗しようとしたのを瑠希弥が止めました。


 今は我慢だと瑠希弥は目で伝えたようです。まりさんは大人しく縛られました。


 麗華も不満そうですが、何をしても通用しない彼らと戦うのは得策ではないと判断してくれたようです。


 私達は黒のワンボックスカーの後部座席に押し込まれました。


 麗華が運転して来たワゴン車は筋肉男達の残りが乗り込んだようです。


 ワンボックスカーはキャンプ場を離れ、S市方面へと走ります。


 麗華のワゴン車がそれに続いて来ました。


「お前達が人質になっているのは別の同志達が江原に伝えている」


 助手席のサングラスの男が言いました。


「それから、H山を離れても我々には真言も気功も通じないから、そのつもりでな」


 彼は私達を見渡してニヤリとしました。


「H山を離れたら反撃をしようと思っていたのだろうが、そんな考えは捨てろ」


 彼は勝ち誇ったように高笑いします。


『見抜かれていたか……。それにしても、奴らの力の源は一体何だ?』

 

 いけない私が心の中で私に尋ねます。


『わからない。どうして真言も気功も通じなかったのか……。お札かと思ったけど、何も使っている様子はないし、結界でもないとなると、思い当たる事がないわ』


 私も彼らの謎の力が理解できなくて、途方に暮れそうです。


「どこに行くつもりだよ?」


 S市に向かうと思われたワンボックスカーは途中で左折し、北上を始めました。


「江原を倒すのに相応しい場所さ」


 サングラスの男がルームミラー越しに私を見て答えました。


 江原さんを倒すのに相応しい場所? どういう事かしら?


 


 西園寺蘭子でした。

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