キャンプ場は危険がいっぱい
私は西園寺蘭子。霊能者です。
気功少女の柳原まりさんが遊びに来て、G県の霊感少女の箕輪まどかちゃんから遊びに来ないかと誘われていると言われました。
私と弟子の小松崎瑠希弥は二つ返事で了解し、親友の八木麗華は、まどかちゃんのお兄さんの慶一郎さんが結婚したと知って一時落ち込みましたが、まどかちゃんのBFの江原耕司君も来ると聞いて行く気満々になりました。
「蘭子、何であんた、まりの事はまりさんゆうて、まどかの事はまどかちゃんやねん?」
麗華に妙な事を突っ込まれました。
「まどかちゃんは小学生の時から知っているからね」
私は淀みなく切り返しました。
「ほお、さよか」
麗華はニヤリとしました。何だか癪に障るリアクションです。
でも、考えてみると、村上法務大臣の娘さんの春菜ちゃんは春菜ちゃんと言ったり、春菜さんと言ったりで一定しませんね。
まあ、どうでもいい事かも知れません。
そして、翌々日の朝です。
出発の準備をし、キャスター付きのスーツケースに一式詰め込んで、邸を出ます。
そこへまりさんが小さめのスポーツバッグを片手に現れました。
今日もスラッとした長い脚を強調したブルージーンズのショートパンツに白のTシャツです。
そして、隠れ巨乳なのは私の思い過ごしではない事がはっきりするほど胸の辺りが膨らんでいます。
「さすがに暑いので、サラシを巻くの、やめたんです」
まりさんは爽やかな笑顔で瑠希弥に話しています。
ボクッ娘の彼女は、胸の膨らみが嫌で、普段はサラシをきつく巻いて押さえているのだそうです。
もう完全敗北を味わった私は苦笑いするしかありません。
「お待たせ。ほな、行こか」
麗華が最後に現れました。もう唖然です。
胸の谷間が丸見えなのはいつもの事ですが、今日はおへそまで出しています。
しかもタンクトップなので、所謂「横乳」も見えそうです。
「これでまどかの彼氏を強奪するねん」
まりさんに得意そうに言います。まりさんは顔を引きつらせていました。
瑠希弥も目を見開き、仰天しています。
「さ、乗って乗って」
ワゴン車の運転席に乗り込みながら、テンションが高くなった麗華が言います。
私は瑠希弥やまりさんと顔を見合わせてから、ワゴン車に乗り込みました。
「ほなら、G県に向けて、しゅっぱーつ!」
一人陽気な麗華は、ハンドルさばきも軽く、軽快にワゴン車を走らせました。
「途中トイレ休憩はいらんよな? はよ着きたいもんな?」
麗華は勝手に話を決めてしまい、結局一度も休憩なしでG県まで行く事になりました。
幸い、私も瑠希弥もトイレは近くありませんから大丈夫です。
「ボクも平気ですから」
まりさんも微笑んで言いました。若いから大丈夫ですよね。
車に乗ると一番トイレ騒ぎをするのは麗華自身です。大丈夫なのでしょうか?
などと心配しているうちに、車はG県に入っていました。麗華、飛ばし過ぎです。
インターチェンジを降り、H山へ向かいます。
以前麗華と来たS村は、その麓にある村です。村長さん達、元気かしら?
途中、G県屈指の温泉であるI温泉の中心を通り、ワゴン車はいくつものカーブを曲がって、H山に向かいます。
「あれがH富士かいな」
麗華が前方に見えて来たプリン型の山を見て言いました。
その向こうに朝日に輝くH湖があります。キャンプ場はその手前を右に入ったちょうどH富士の反対側にあるそうです。
「ここやな」
麗華は標識を見てハンドルを切り、「H山キャンプ場」と書かれた看板が建てられた道に入って行きました。
道の両側は林が続き、山に来たぞと言う感覚が強くなります。
いよいよまどかちゃん達と再会です。何だかドキドキしてしまいます。
会わないようにしていた訳ではないのですが、いろいろと忙しくて、随分顔を合わせていない気がします。
「楽しみですね、先生」
瑠希弥が嬉しそうに囁きました。
「そうね」
まどかちゃん達は成長期ですから、もしかするといろいろと負けてしまうかも知れません。
決して、胸だけではないですよ。身長も抜かれているかも知れませんし……。
だんだん落ち込みそうです。
「どこや、まどか達は?」
麗華がキョロキョロしながら呟くと、
「黒のワンボックスカーだそうです」
まりさんが身を乗り出して麗華に言いました。
今、まりさんの胸がゆさゆさ揺れたような気がしてしまう私は、重度の巨乳コンプレックスですね。
「おう、あれやな」
麗華は前方に黒のワンボックスカーを見つけ、
「耕司、麗華お姉さんが今行くで」
何故か舌舐りして言います。下品です。ワンボックスカーの隣にワゴン車を横付けして止めると、麗華は運転席を飛び降りました。
「ちよっと麗華、そんなに慌てなくても……」
私は急ぎ過ぎの麗華を
「あれ? 車の中、誰もおれへんで」
麗華が不思議そうな顔で振り返ります。
「どこに行ったんでしょうか? 車で待っているはずなんですが……」
まりさんも辺りを見渡しながら麗華に近づきました。
「待っていたぞ、西園寺蘭子、八木麗華、小松崎瑠希弥、そして柳原まり」
どこからか、妙な声が聞こえました。
「誰? もしかして、慶君?」
またハイテンションになった麗華が嬉しそうに尋ねました。すると先程の声は、
「残念ながら、お前達が会いたかった者達はここには来ていない」
「何やて?」
麗華は私を見ます。私もこれは何かの罠だと悟り、瑠希弥とまりさんに目配せします。
「先生、妙です。いくら探っても、相手の気配がわかりません。これは……」
瑠希弥が不安そうに小声で言いました。
「気の流れもありません。どういう相手なのか、わからないですね」
まりさんも警戒した様子で言います。
「こら、おのれら、ウチらを騙したんか? どういうつもりや!?」
ご機嫌だった麗華が一気に激怒ししました。
慶一郎さんにも江原耕司君にも会えないとわかったので、相当頭に来ているようです。
「お前らを餌にあの江原雅功を
林の中から黒尽くめの服を着込んだ屈強そうな筋骨隆々といった感じの大男達が十人ほど現れました。
女四人を相手にするのにどれだけ重装備なのでしょうか?
「ここはウチとまりに任せとき、蘭子」
麗華が指をボキボキ鳴らしながら進み出ます。
「瑠希弥さん、下がっていてください」
まりさんは早速気を全開にして麗華に続きました。
「やれ」
大男達の背後から現れた大きいサングラスをかけた細身の男が命じました。
すると大男達はその身体に似つかわしくない素早い動きで麗華とまりさんを取り囲みました。
「楽しめそうやないか?」
麗華は嬉しそうです。思い切り暴れても誰も怒らない状況だからです。
「はあ!」
まりさんが気合いを入れ、気を放ちます。大男達は先に麗華に接近しました。
「堪忍な、ウチ、マッチョ嫌いやねん」
麗華は身構えると大男達に突進しました。
「はあ!」
麗華の回し蹴りが一人目に炸裂しました。ところが大男は麗華の蹴りといとも簡単に手で止め、大ハンマーのようなパンチを繰り出しました。
「うお!」
麗華はそれを辛うじてかわし、
「ほならこれでどうじゃ!」
印を結びます。
「オンマカキャラヤソワカ!」
いきなり大黒天真言です。麗華はニヤリとしました。
「無駄だ」
ボスらしき細身の男が言いました。
「何やと!?」
麗華の大黒天真言が大男にぶつかりましたが、何もなかったかのように大男は立っています。
「真言が効かない?」
瑠希弥が呟きました。彼女はさっきから彼らの心を読もうとしているのですが、全く読めないのです。
「おかしいです、先生。この人達の気配も全然しませんでした」
瑠希弥が汗を掻いています。私も大男達に底知れない不気味さを感じました。
「何者なの、一体?」
次にまりさんが気を練り上げ、麗華の大黒天真言を無効にした大男に放ちました。
「それも無駄だ」
細身の男がまた言います。まりさんの気は大男にぶつかる直前で消滅してしまいました。
「どうして……?」
まりさんは唖然としてしまいました。私と瑠希弥も同じです。
これは今までにない強敵です。しかも、狙いは江原雅功さん。何をするつもりなのでしょう?
危険な匂いがします。
西園寺蘭子でした。
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