遂にご対面
霊能者である西園寺蘭子とその弟子の小松崎瑠希弥は、五十鈴華子という特異な能力を持った霊能者と退治するために高速道を移動していた。
途中、華子の超絶的な
蘭子達の車はインターチェンジを降り、一般道に入った。
「もう仕掛けて来ないかしら?」
蘭子は裏蘭子と入れ替わって瑠希弥に尋ねた。瑠希弥は赤信号で停止しながら、
「試験には合格したのだと思います。やはり、敵の目的は、私達と五十鈴華子を戦わせる事ですね」
「そうか……」
蘭子は前方を見据えて腕組みした。
「何者なのかしら、華子の背後にいるのは?」
「推測でしかありませんが、先日、江原菜摘先生がおっしゃっていた人物ではないかと思われます」
瑠希弥の言葉に蘭子はビクッとして彼女の横顔を見た。
江原菜摘はG県の退魔師である江原雅功の妻である。
その菜摘が言ったのは、
「サヨカ会、復活の会、そしてあちらこちらに出没する邪法師達。その全てを繋ぐ元が見えて来ています」
という裏事情である。全ての邪悪の根源が存在するというのだ。
「あの名倉英賢様でさえ、単身ではどうする事もできない恐るべき者の事ね?」
蘭子は額にじんわりと汗を滲ませて応じた。
「はい。私達に全くその存在すら探知させない力を持ち、五十鈴華子ほどの霊能者を思い通りに動かせるとしたら、その人物しかいないのではないかと」
瑠希弥は冷静に話してはいるが、ハンドルを握る手には汗を掻いていた。
「もしそうだとしたら、私達は迂闊だったのかも知れないわね」
蘭子はシートのもたれかかって溜息交じりに言う。
『何を弱気になっているんだ、もう一人の蘭子? 私達は西園寺蘭子なんだぞ。そんな奴、目じゃないさ』
どこまでも強気な裏蘭子が蘭子を窘めた。しかし蘭子は、
『今回ばかりは相手が悪過ぎるわよ。あの英賢さんが単身ではどうする事もできない奴なのよ?』
『あんなジイさんより、私の方が強い』
裏蘭子は恐れを知らぬ事を言ってのけた。蘭子は呆れてしまい、
『英賢さんに会った時、私はこのジイさんとはあまり関わりたくないって言ったのはどこのどなたでしたっけ?』
強烈な嫌味を裏蘭子にぶつけた。
『それは相性が悪いと思っただけで、あのジイさんが怖いという意味じゃないぞ』
あくまでも自分の方が上だと言い張る裏蘭子である。
『身の程知らずね、もう一人の私』
蘭子が言うと、それを聞いていた瑠希弥が、
「私は、お二人のお力を合わせれば、英賢様を上回ると思います」
瑠希弥の言葉に気を良くした裏蘭子は、
『それ見ろ、瑠希弥は正しい者の見方ができる賢い子だ』
嬉しそうに褒めちぎった。言われた瑠希弥は恥ずかしそうだ。
「私達二人の力って言っても、そんなに大したものじゃないでしょ?」
蘭子は裏蘭子が増長しないように否定的な意見を求めていた。
「いえ、そんな事はありません。以前、先生がお父様の事を貶されてご自分のお力を解放した事がありましたよね?」
瑠希弥はハンドルを切りながら蘭子をチラッと見た。
「ああ、大林蓮堂が持っていた白装束に宿っていた怨念と戦った時ね」
蘭子自身は、あの時は父である公大が力を貸してくれたのだと思っていた。
「確かに切っ掛けはお父様かも知れませんが、先生が潜在的に持っている力だったのは間違いありませんよ」
瑠希弥はそう言って微笑み、交差点を左折した。
『あれはあんたの力だよ、もう一人の蘭子。私もびっくりしたけどな』
裏蘭子が同調して口を挟んだ。
「言うなれば、先生と蘭子さんの力は同じ根を持つ違う幹なのです。ですから、根元まで戻って、完全な形で力を同調させれば、今まで以上の能力が発揮できるはずです」
「そうなのかなあ……」
蘭子はまだ完全に納得し切っていなかった。
「今回はその力が必要とされている時なのかも知れませんね」
瑠希弥は真剣な表情になって言った。
「そうね……」
蘭子は頷いて身体を起こした。
「見えて来ましたよ、先生」
その時、瑠希弥が前を指差した。
「どこ?」
蘭子はその指の指し示す方角に視線を走らせた。
どちらもごく普通の装飾を施された一般的な寺院の建物だ。
「五十鈴華子はどうやら古くから続く寺院の娘のようですね」
瑠希弥が言った。
「寺院の娘ね……」
蘭子は身が引き締まる思いがした。
(下地はあるという事か)
全くの一般家庭に突然変異のように生まれる霊能者と違い、寺院や教会、あるいは霊能者の家に生まれた者は環境が整っているため、力の伸び方が違うのである。
「ますます侮れませんね」
瑠希弥はハンドルに力を込め、未舗装の道路に入った。
しばらく揺れながら進む状況が続き、車は森を抜け、切り立った崖の麓に出た。
「何も仕掛けて来る様子はないようです」
瑠希弥は崖の上の建物を感応力で探査したが、妨害する意志は感じなかった。
『呼んでいやがるんだよ、五十鈴華子がさ』
裏蘭子が嬉しそうにまた口を挟んだ。瑠希弥はそれに頷き、
「そのようですね。対決を楽しみにしているみたいです」
「何だか嫌ね。何者かの策略通りにするのって」
蘭子はまた腕組みをし、不満そうに崖の上を見上げた。
「行きます」
瑠希弥は車を動かし、崖の上へと通じる舗装された道路を進んだ。
「今更なんだけど、今回の件て、もしかして全部仕組まれた事なのかしら?」
蘭子が眉間に皺を寄せて呟いた。瑠希弥はコクンと頷き、
「そうですね。小原理恵さんが依頼に来たのも、錦城紅が強がりを言ったのも、全てシナリオ通りなのかも知れません」
『いけすかねえ奴らだぜ』
裏蘭子が吐き捨てるように言い放った。
「いずれにしても、先に進むしかないわね」
蘭子は意を決して言った。
「そうですね」
瑠希弥はアクセルを踏み込み、速度を上げた。
車は崖の周りを何度か巡りながら登っていき、五分ほどかかって上に辿り着いた。
「うわ!」
崖の下から見ていたのとは縮尺が違い、金堂も五重の塔も予想以上に大きかったので、蘭子は思わず叫んでしまった。
「立派なお寺ですね。檀徒の寄進が相当あるのでしょうか?」
瑠希弥は妙な事を分析していた。車は山門の前まで進んで停止した。すると山門の観音開きの大扉が義軋んだ音を立ててひとりでに開き、中から若い女が出て来た。紫の僧衣を着て威風堂々としている。
「お待ちしておりました、西園寺蘭子さん、そして小松崎瑠希弥さん」
女性は袈裟にかかった長い黒髪をサッと掻き上げて言った。その顔は不敵な笑みを浮かべており、感情を読ませないかのようだ。
「貴女が五十鈴華子さんですね?」
蘭子は助手席から降りながら尋ねた。その女性はフッと笑い、
「そうです。ようこそ、我が家へ。心ゆくまでお
その言葉に蘭子も瑠希弥も身構えた。崖の上全体を覆い尽くすような悪意を感じたのである。
(この人、全く感情も考えも読めない。どういう人なの?)
蘭子の額と
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