有能な秘書? 小松崎瑠希弥
毎日暑い日が続きます。皆さん、如何お過ごしですか? 霊能者の西園寺蘭子です。
先日、ある事がきっかけで、私の「弟子」になった小松崎瑠希弥さん。
彼女はまだ今年の三月に高校を卒業したばかりの新米霊能者です。
でも、私なりの「適性検査」の結果、その能力は、こんな事を言うと絶交されそうですが、G県の霊感少女である箕輪まどかちゃんより上です。
私のところで修行の必要なんか全然ありません。
不思議だったので、尋ねてみました。
「どうしてそれほどの力があるのに、私の弟子になりたいなんて言ったの?」
すると、小松崎さんはニッコリして、
「私のバッチャが、西園寺先生のお父様に命を助けてもらった事があるんです」
「まあ」
私の両親は、私が幼い時に亡くなっていますので、そんな話は初めて聞きました。
「バッチャも霊媒師でした。でも、降霊術に失敗して、悪霊に取り殺されそうになったんです。それを助けて下さったのが、西園寺先生のお父様なんです」
「西園寺先生」はやめてと、何度も言いましたが、やめてもらえないので、今は何も言いません。
「ですから、これはバッチャの恩返しなんです」
「お婆ちゃん思いなのね」
私はジーンとして言いました。すると小松崎さんは涙ぐんで、
「大好きでした。去年、亡くなりましたけど」
「まあ、そうなの。ごめんなさいね、辛い事を思い出させてしまって」
私もちょっと目が潤んでしまいます。
「ああ、気にしないで下さい、先生。バッチャはあっちに行っても、時々会いに来てくれてますから」
「……」
霊媒師だった人ですから、その辺はお手の物なのですね。うーん。
そんな事で、それからは、小松崎さんが「営業」に回り、仕事を取って来るようになりました。
しかも彼女は交渉人としても優れていて、私ならサービスしてしまいそうなものもしっかり請求します。やっぱり、「がめつい」というのは本当のようです。
只、彼女の事を庇う訳ではありませんが、決して「強欲」ではありません。
取るべきものは取る。ビジネスとして割り切っているので、そういう発想ができるのでしょう。
今、ふと親友八木麗華の事を思い出してしまいましたが、彼女とは違うタイプの「お金にシビアな人」です。
私は、自分が両親の遺産で生活して行けるという安心感から、お金に無頓着過ぎたのを反省しました。
もし、両親の遺産がなければ、今頃公園の野草を食べていたかも知れません。
「先生、今日は公園に出る霊をお祓いして欲しいという依頼が入っています」
小松崎さんは、初めて出会った時に着ていた派手な衣装を封印し、今は「できる女」の印象を与えるスーツ姿です。しかも黒縁の伊達メガネをかけています。しかも、手に持っているのは、今流行のえーっと……。
「ああ、iPadです」
小松崎さんは、私がメカに弱いのを完璧にカバーしてくれています。
その点は本当に感謝しています。
現場に着きました。
悪霊と聞いていたのですが、只の浮遊霊で、諭してあげると落ち着き、素直に霊界に行きました。
「では次は、駅のトイレに出る痴漢の霊です」
「はい」
小松崎さんは、一生懸命なのはわかるのですが、仕事を取り過ぎです。
それも、放っておいても差し支えのない霊まで除霊対象として受けて来るので……。
「あのね、小松崎さん」
私は休憩のために立ち寄った某コーヒーショップで切り出しました。
「何でしょうか、先生」
小松崎さんは、笑顔全開です。ああ、言いづらい……。
「あんまり頑張らなくても、大丈夫だから。ちょっと働き過ぎよ」
私は彼女を傷つけないように言葉を選んで言いました。
「あ、申し訳ありませんでした! 調子に乗って、一日に何件も仕事を入れてしまって……。先生がお疲れなのに、私……」
小松崎さんは涙ぐんで頭を下げました。
「あああ、そういう事じゃないのよ。私は貴女の身体を心配しているのよ」
「ありがとうございますゥ、先生」
彼女は号泣しています。はあ。麗華と違う意味で疲れる子です。
そんな事で、私達は事務所に戻りました。今日の仕事はこれで終わりです。
「西園寺蘭子霊感事務所です」
小松崎さんが、ワンコールで電話に出ます。
「先生、イズモ銀行さんです」
「はい」
私は電話を代わりました。何でしょうか? 残高が足らなくて、引き落としができなかったのでしょうか?
でも、先方の用件は意外なものでした。
「西園寺先生、是非、当行の定期預金をご利用いただけませんでしょうか?」
相手は支店長でした。支店長代理とはよく話した事があるのですが、支店長とは初めてです。
「はあ? 定期預金、ですか?」
「はい。是非。普通預金では、お利息がほとんど付きませんので、お考えいただけませんか?」
「私の通帳には、そんなお金ありませんよ」
そう答えながらも、バッグの中の通帳を探してみます。
そんなにたくさん通帳に入れてないはずなのに。
「え?」
通帳を開いて仰天しました。ゼロが幾つあるのかすぐにはわからないような金額が印字されてます。
「考えておきますね」
私は支店長が何か言っているのを無視して、そのまま受話器を置きました。
そして、私をジッと見ていた小松崎さんを見ます。
「小松崎さん」
「はい」
彼女は笑顔です。そうでしょう、悪気はないのですから。
「この前除霊依頼を受けた会社から、一億円も振り込まれているのだけど、どういう事?」
「請求したからですよ」
小松崎さんはニコニコしたままです。私は溜息を吐き、
「私は、そんな巨額な除霊料を請求してと言った覚えはないわ」
「でも、先方様がお支払しますとおっしゃったのですから、いいのではないですか?」
小松崎さんは微笑んで答えました。
あああ。このままでは、私は麗華に「金の亡者」と言われてしまうそうです。
でも、小松崎さんは悪い事をしている訳ではないですし。
「それにしても、一億円は高過ぎます。今後、請求書を送る時は、私に言ってね」
「はい」
小松崎さんは、少しだけションボリしたようです。
「私はそんなにあくせく稼ぐつもりはないのよ。でも、貴女にお給料を払うくらいは働くつもりですから、心配しないでね」
「と、とんでもないです! 私は先生からお給料なんていただきません! そんな事をしたら、バッチャに叱られます!」
小松崎さんは顔色を変えて言います。この子、どういう子なのかしら?
悪い子ではないのは確かなのですが。
いろいろ困った事が起こりそうです。
西園寺蘭子でした。
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