サヨカ会の野望

 私は西園寺蘭子。霊能者です。


 今、日本最大の新興宗教団体であるサヨカ会の本部の中にいます。


 宗主である鴻池大仙氏の案内で、建物の中を進みます。


「貴女方の事、調べさせていただきましたよ」


 大仙氏は振り返らずに話します。私は同居人の小松崎瑠希弥と顔を見合わせてから、小倉冬子さんを見ました。冬子さんは、


「何のために?」


と尋ね返します。大仙氏はニヤリとして、


「我が教団は世界進出を考えているのです。そこで、優秀な人材を探しています」


「ほお、さーよか」


 親友の八木麗華が、わざと「さよか」の言い方を変えて挑発します。


 私達を囲むように歩いている信者達が一瞬殺気立ちます。


 しかし大仙氏は動じる事なく、


「貴女方は我が教団の指導者として十分な素質を持っていらっしゃる。ですから、協力していただきたいのですよ」


 やがて私達はある部屋に着きました。畳が数百畳も敷かれたとんでもなく広い部屋です。


 部屋の最深部に巨大なご神体があります。大仙氏の銅像です。はっきり言って気持ち悪いです。


「何やあれ? ブサイクなおっさんの銅像があるで」


 また麗華が挑発します。信者は今にも飛び掛りそうな形相ですが、大仙氏はフッと笑って、


「ハッハッハ、そうですか。まあ、自分でも男前とは思っておりませんがね」


 更に進み、私達は座布団の上に座りました。


「どうぞ」


 信者達がお茶を淹れてくれました。


「ご心配なく。毒など入っておりませんから」


 大山氏が私達の思いを見抜いたように言います。


「本当です。何も入っていません、先生」


 瑠希弥が小声で教えてくれます。


「ありがとう、瑠希弥」


 私は茶碗を手に取り、お茶を飲みました。それを見て麗華もお茶を飲みます。


「麗華、後で話があるから」


 私は真顔で言います。麗華はギクッとして、


「わ、悪かったて、蘭子」


 彼女は私にお毒見役をさせたのです。


 本当に縁を切ろうかと思ってしまいます。


「さてと。本題に入らせていただきますよ」


 大仙氏は私達と差し向かいに正座しました。


「答えは二つに一つです。我が教団に協力してくれますね?」


 大仙氏は迫力のある目で私達を見渡します。


(この男、霊感はないのにどうしてこんなに威圧感があるの?)


 大仙氏は表向きは霊能者と名乗っていますが、実際は霊感など全くない普通の人間です。


 でも、何かを持っています。


 何かを背負っているのを感じるのです。


「その訊き方、気に入らんな。もう答えは決まってる感じがするで」


 麗華が言いました。また周囲の信者達が殺気立ちます。


「そうですよ。貴女方に選択の余地はありません。生きて帰りたければね」


 大仙氏の顔が兇悪になりました。


「ぐ!」


 頭が締め付けられるような強烈な波動が襲って来ます。


「何ですか、これ?」


 人一倍敏感な瑠希弥が泣きそうな顔で叫びます。


「逆らう事はできんよ、お嬢さん方。私は神なのだ。私に従うしか生き残る道はないのだよ!」


 大山氏が大声で言います。彼の背後に何かが見えました。


「何、あれ?」


 私はおかしくなりそうな頭を抱えて、大仙氏の背後に蠢く何かを見極めようと意識を集中しました。


「ええい、鬱陶しいわい!」


 麗華が切れたようです。


「オンマカキャラヤソワカ!」


 彼女の十八番おはこの大黒天真言が炸裂します。


「何ィッ!?」


 しかし、その力は大仙氏の前で砕けてしまいます。


「愚か者め! 神である私に、そのようなものが通じるか!」


 大仙氏はすでに人間の波動を出していません。


「あれは……」


 私は息を呑みました。彼の背後で蠢いているのもが、その正体を現したのです。


「まさか!」


 冬子さんが叫びます。


「ブオオオオッ!」


 大仙氏の背後で蠢いていたのは、幾千幾万という数の死霊でした。


 一体どうすればそれほどの数を集められるのかというくらい、その塊は凄まじいものです。


「何であないなもんを操れるねん、あのおっさん?」


 麗華が蒼ざめて言います。


「あの男が持っているのよ、その術具を」


 冬子さんが言います。


「それを潰さない限り、あいつには勝てないわ」


 私は麗華と顔を見合わせます。


「そして、そうしないと、私は魂の一部を取り戻せないの」


 冬子さんの悲しそうな横顔。その時、私の中で何かが弾けました。


「おう、おっさん! 面白い事できるな。ようやく、この蘭子様が本気で戦える奴が現れたようだ」


 いけない私の登場です。ああ。




 西園寺蘭子でした。

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