裏蘭子大活躍!

 私は西園寺蘭子。霊能者です。


 カルト教団の宗主である鴻池大仙が遂に正体を現しました。


 彼は何か特殊な術具を持っていて、それを使って尋常ではない数の死霊を操れるようです。


 尋常ではない敵の出現に、私のリミッターは振り切れてしまい、とうとう「いけない私」が降臨しました。


 同居人の小松崎瑠希弥には見られたくなかったのですが……。


「先生?」


 瑠希弥は状況がわかっていないようです。


「麗華、皆を下がらせな。このクソジジイは私がぶっ潰す!」


 ああ。いけない私は、いけない言葉を使います。


「わ、わかった」


 麗華は動かない瑠希弥を連れ、私から離れます。


「あれが、本当の西園寺さん……」


 冬子さんが震えながら後ずさります。


 冬子さん、本当の私ではないです……。いけない私です……。


「行くぞ、クソジジイ! 私は容赦がないんだ、後で謝ったって遅いぞ!」


 頭痛がしそうです。大仙はニヤリとして、


「ほう。それが噂に聞こえた西園寺家の最終奥義か。面白い」


 いえ、違います。西園寺家の最終奥義ではありません。


「オンマカキャラヤソワカ!」


 麗華が放った大黒天真言の数十倍の破壊力の真言が大仙に向かいます。


「効かぬ!」


 大仙は微動だにしません。


 真言は周囲の畳を吹き飛ばし、多くの信者を蹴散らし、大仙の遥か後方のご神体を直撃しました。


 ご神体は粉微塵になりましたが、本人は無傷です。


「嘘やろ?」


 麗華が呟きます。確かにそうです。


 いけない私は手加減などしませんから、普通の人間が立っていられるはずがないのです。


 彼が無事だったのは、どうやらそのおびただしい死霊の数のおかげのようです。


 死霊達が楯となって、大仙を守っているのです。


 それにしても、本当に尋常な数ではありません。またまるで細菌のように増殖していきます。


「ジジイ、やるな。少しは楽しめそうだ」


 いけない私は麗華を見て、


「この部屋から出ていろ。今度はもっと凄いのをかますから」


「わかった」


 霊華達は部屋から出て行きます。信者達も我に返ったのか、逃げ出しました。


「お前達はダメだ。我が糧となれ」


 大仙がそう言うと、死霊が飛び、信者達を食い尽くします。


 いつもの私なら目を背けるところですが、いけない私は嬉しそうです。


「なるほどな。材料はいくらでもあるってか。どうしようもねえワルだな、てめえは?」


 いけない私と本来の私の意見が珍しく一致しました。


「神である私に全てを捧げるのが信者の務め。当たり前の事だよ」


 大仙は高笑いをします。


「わかった。じゃあ、心置きなく吹っ飛ばせるな、てめえをよ!」


 いけない私は印を結びました。これは?


「オンマケイシバラヤソワカ!」


 大自在天真言です。破壊力は大黒天真言を遥かに上回ります。


「無駄だ!」


 大仙はそれでも動こうとしません。死霊が幾万と消えるのが見えます。


(泣いてる……)


 私は死霊達が大仙の術具で縛られ、不本意なまま操られているのを知りました。


(何て事を……)


 いけない私の「必殺技」である大自在天真言を、大仙は耐えました。


 すでに大広間は幾本かの柱を残して、壁は全て吹き飛んでいます。


 その陰に散った霊の数は計り知れません。


「まだかよ。さすがに疲れたぜ」


 いけない私が弱音を吐くなんて思いもしませんでした。


「随分とお疲れのようだな。お前の力が尽きたら、我がしもべの餌にしてやるよ」


 再び大仙の周囲に死霊が増殖していきます。


「まだまだだよ、ジジイ! 西園寺蘭子様を舐めるんじゃねえよ!」


 いけない私はまだいけるみたいです。


 どうなってしまうのかしら?




 西園寺蘭子でした。

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