悪徳芸能事務所へ
私は西園寺蘭子。霊能者です。
新人演歌歌手の天城波留香さんの自殺の原因が呪いにある事を突き止めた私達は、その背後にいる邪悪な存在と戦う事になりました。
久しぶりに義憤に駆られる思いがします。
呪術を悪用する者も許せませんが、人の弱みに付け込んで、自分の欲望を満たす連中はもっと許せません。
私達三人は同じ思いを抱き、事件の発端となった木下真里亜さんが所属していた事務所に向かいました。
そもそも、この事務所の社長が木下さんを騙したりしなければ、彼女は自殺しなかったし、その後の連続自殺事件も起こらなかったのです。
惚けられるのを覚悟で、私は彼に一言言ってやりたいのです。
木下さんの自殺を根源に動いている連中は、彼女と何かしら繋がりがあるようです。
霊視で探れない事は、現実で探るしかありません。
「社長を締め上げれば、何かわかるやろ」
助手席でふんぞり返っている親友の八木麗華が言います。
おまわりさんに睨まれるので、きちんと座って欲しいです。
それを言うと細々と言い返して来て煩わしいので、放っておくのですが。
「八木様、その社長さんが危ないかも知れません」
後部座席で感応力を駆使していた弟子の小松崎瑠希弥が言いました。
「何やて?」
麗華は身を起こして瑠希弥を見ました。私もルームミラー越しに瑠希弥を見て、
「何かわかったの?」
瑠希弥は私を見て、
「はい。社長は木下さんの恋人に詰め寄られたようですが、木下さんの自殺の理由はわからないと惚けたようです。そして、木下さんから曲を奪った人が、その数日後に自殺しています」
「そこまでは自業自得やけど、その後に続く自殺と波留香さんの自殺はその一件とは関わりがないな。どういう事や?」
麗華も真面目な顔で考えています。雨が降るかも。
「恋人の行方はわかりません。恐らくその人があの術者と関連があると思います」
瑠希弥が続けました。私は頷いて、
「とにかく、今は、木下さんがいた事務所の社長に事情を訊くのが最優先ね」
と応じた。
何とか無事に芸能事務所があるビルに辿り着いた私達は、その事務所がある三十階に行きました。
事務所の名前はスターマックス。何がマックスなの、と尋ねたくなります。
社長は会議中とかで、私達はしばらく応接室で待つ事になりました。
「門前払いされるか、居留守使われるかやと思うたけどな」
麗華は意外そうに言いました。私もそうです。
「先生、何だか気持ち悪いです」
瑠希弥が震え出しました。
「え?」
私はギクッとして感覚を研ぎ澄まします。
「何や?」
麗華も眉をひそめ、ソファから立ち上がります。
これは……?
ガチャッとドアにロックがかかりました。
「どういう事や、ドアが開かんで!」
麗華がドアを蹴飛ばして叫びました。
霊の気配はしません。
「瑠希弥、摩利支天真言を唱えて!」
私はスーツのポケットから数珠を取り出しながら叫びました。
「はい!」
私と瑠希弥は数珠を手首に巻き、
「オンマリシエイソワカ」
と摩利支天真言を同時詠唱しました。
「効かぬよ、そのような戯言は」
どこからか声が聞こえます。
「何!?」
天井と壁から煙のようなものが出て来ました。
ガスです。睡眠ガスのようです。
「く、何やこれ……」
壁に一番近かった麗華は防御する間もなく膝を着き、倒れてしまいました。
油断しました。まさかここで何かを仕掛けられるとは思わなかったのです。
「瑠希弥……」
「先生……」
いくら霊能力を駆使しても、睡眠ガスは防げません。
私と瑠希弥もなす術なく、眠りに落ちてしまいました。
そして、どれほどの時間が経過したのでしょうか?
私は目を覚ましました。
背中に冷たい感触を覚えたからです。
ハッとして自分を見ると、服を全部脱がされています。
やはり、さっき感じたのは淫の気だったようです。
私達三人は私を真ん中にして横並びで医療用の椅子に縛り付けられていました。
これって、婦人科で見かけるものです。
三人共、大股開きというあられもない格好をさせられています。
まさしく、「どうぞいらっしゃい」なのです。
「気がついたようだね、お嬢さん」
目の前に中年の男が立っています。
彼も全裸です。
醜くせり出した下腹、見事に禿げ上がった頭、たらこ二段重ねのような唇、横線を一本引いただけのような細い目。
何をしようとしているのかは、彼のあそこが大変な事になっているのから想像できます。
「ああ……」
右隣の瑠希弥も目を覚ましました。
「先生」
瑠希弥が潤んだ目で私を見ました。
彼女が私を見た時、その大きな胸がプルルンと揺れました。
こんな非常時ですが、相変わらず羨ましい大きさです。
「な、何や、これ?」
左隣の麗華も目を覚ましたようです。
「ようこそ、我が宴に。これからたっぷり可愛がってあげるからね」
男はにやりとして言い、やはりというか、瑠希弥に近づきました。
「いやあ!」
瑠希弥は男が何をしようとしているのかわかったのでしょう、大声を上げました。
「ほう、その取り乱し方、生娘か。こいつは貴重だな」
男はベロリと舌なめずりします。気色悪いです。
この男、どうやら例の社長のようです。
瑠希弥が霊視したのと状況が違うようです。
「いやあ!」
社長は瑠希弥の乳房を揉み始めました。
瑠希弥は泣いて嫌がっています。
「そのうち気持ち良くなるよ、お嬢ちゃん」
社長は下卑た笑い顔をし、更に乳首を吸い始めました。
「こら変態、そないに強く吸うたら、痛いやないか! それにその子は子供産んでへんのや! 乳は出えへんで!」
麗華が怒鳴りました。しかし社長は麗華には目もくれず、瑠希弥の乳首を吸い続けます。
「いやああ!」
瑠希弥は涙を流して身を動かしますが、どうする事もできません。
「瑠希弥!」
その時、私の中のいけない私がまた話しかけて来ました。
『私に代われ、もう一人の蘭子! この手枷と足枷はお前の気では壊せない』
『え? どういう事?』
私はいけない私に尋ねました。
『術をかけてある。並みの力じゃ壊せないんだよ。早く代われ! 瑠希弥がやられちまうぞ!』
いけない私はいつになく焦っていました。
私が瑠希弥を大事に思うのと同じように、いけない私も瑠希弥の事を心配しているのでしょう。
『わかった。頼んだわね、もう一人の私』
『任せとけ、もう一人の蘭子』
そしていけない私の登場です。
「おらああ!」
いけない私は、気で手枷を壊すのかと思いましたが、いきなり引きちぎってしまいました。
衝撃的です。何という怪力でしょう。
「何だと?」
呑気に瑠希弥の乳首を吸っていた社長は、私の変貌に驚いたようです。
「先生?」
瑠希弥も潤んだ目を見開いて私を見ています。
「ら、蘭子……」
麗華はすっかり怯えていました。ああ。
「オンマリシエイソワカ!」
いけない私の超弩級の摩利支天真言が放たれ、私の足枷、そして瑠希弥と麗華の手枷と足枷が破壊されました。
「ぐはあ!」
飛び散った破片の全てが社長に突き刺さったのは、いけない私なりの報復でしょう。
「いで、いで、いで!」
社長は床を転げ回りました。
何しろやる気満々のあそこに破片が突き刺さったのですから、相当痛いですし、出血も凄いです。
「このおっさん、あの術者と取引してるぜ。危うくやられちまうところだったな」
いけない私は超絶的な感応力で、社長の心を読んだようです。
「こいつも連中の仲間やったんか」
麗華が呟きました。
「瑠希弥、大丈夫だったか?」
いけない私が優しい目で瑠希弥を見ます。
「あ、はい。ありがとうございました、先生」
瑠希弥は目を潤ませたままで頭を下げた。
「どうって事ねえよ」
いけない私は何故か顔を赤らめて頭を掻きました。
結構照れ屋さんなのですね。
『余計な事考えるな!』
いけない私が私の思う事を全部読んでしまう事を忘れてました。
しばらくして、私達は落ち着いた社長に服を返させ、事情聴取をしました。
「木下の自殺の原因がお前にある証拠を持っている。悪いようにはしなから、我らに協力しろ」
社長は妙な白装束の一団に事務所に来られて、半ば脅しで協力する事になったそうです。
「連中の正体はわからんのやな?」
麗華が社長のあそこをぐりぐり踏みつけて尋ねます。
いけない私と麗華は、社長が服を着るのを許さず、後ろ手にガムテープで縛り、正座させています。
瑠希弥は呆気に取られてやや離れたところからそれを見ていました。
ああ。瑠希弥の私への信用が失墜しそうです。
「いだだ、はい、何も知りません。只、木下の男の居所なら知っています」
社長は涙目になりながら答えました。
「早く言え」
いけない私が更にあそこを踏みつけました。
「言いますから、踏まないでえ!」
社長は絶叫しました。
まあ、この人はこれくらいは我慢しないといけないくらいの悪行三昧だったのですから、全然私も同情しませんが。
私達は木下さんの恋人の住所を入手し、事務所を出ました。
恋人は何をしようとしているのでしょう?
まだ何か裏がありそうなのですが……。
西園寺蘭子でした。
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