蘭子と麗華

 私は西園寺蘭子。霊能者です。除霊、お祓い、人探しなどをお引き受けしています。


 先日、親友の八木麗華が事務所に来て、一緒に近くの川で洪水で亡くなった人達の霊をあちらの世界に送る仕事をしました。


 麗華が只働きをしたので、世界が滅びるのかと思いましたが、彼女はその裏でしっかりとサラ金の取り立てのアルバイトをしていたのです。


 何も変わっていない麗華にホッとしましたが、正直呆れもしました。


「しゃあないがな。サラ金の取り立てかて、立派な人助けや」


 麗華は開き直りました。


「わかりました。もう貴女は私には近づかないで下さい。今日を最後に、親友でも友達でも知り合いでもありませんから!」


 私は麗華の態度に我慢ができず、そう言い放ちました。


「え、蘭子、そない怒らんでも……」


 狼狽える麗華に更にダメ押しです。


「貴女は、その鳥楯ローンがどれほどの人達を自殺に追いやっているのか、感じていないの? 霊能者として最低よ!」


「!」


 麗華はその言葉にアッとなりました。


「ウ、ウチ……」


 麗華は涙ぐんで俯きました。でも私は許しません。


「行きましょう、瑠希弥」


「は、はい、先生」


 私は、瑠希弥が追い込みをかけられたサラ金が鳥楯ローンなのを知っていたので、余計腹が立ってしまったのかも知れません。


「先生、あの……」


 瑠希弥もその事に気づいたようです。


「すみません、私のせいで、八木様と……」


「貴女は悪くないわ、瑠希弥。麗華には、本気で反省してもらわないと」


 私は瑠希弥の心の傷を心配しただけではありません。


 人の死に乗った商売を平気で続けているような人間達と、例えお金だけとは言え、繋がりを持つ事は、麗華のためにならないのです。


 悪くすると、麗華は霊能力を失うかも知れないのです。


 もし、彼女が悪霊退治を始める前だったら、それも人生の岐路でしかなかったでしょう。


 でも、今力を失う事は、彼女にとって危険なのです。


 麗華はその戦い方の乱暴さで、悪霊達ばかりか、敵対する勢力からも怨まれています。


 麗華が力を失ったと知れば、我先にその連中が彼女を襲撃するでしょう。


 もちろん、その時は私が全力で彼女を守ります。


 でも、守りきれない時もあるのです。


 だからこそ、麗華には本気で反省してもらいたいのです。


「方便なのですね?」


 瑠希弥が私を嬉しそうに見ます。見抜かれたようです。


「ええ。あの子とは、一生付き合って行きたいから、今は厳しく接するの」


 私は真っ直ぐな眼差しの瑠希弥を見て、照れ臭くなりました。


「私も、先生と一生お付き合いしたいです」


「瑠希弥」


 つい、涙ぐんでしまいます。それを見て、瑠希弥が号泣しました。


「先生」


 涙脆過ぎですね、私達。




 事務所に戻った時、麗華から携帯に連絡が入りました。


「はい、西園寺蘭子です。只今留守にしております。メッセージをどうぞ」


 ふざけて言いました。すると麗華は、


「ご、ごめんなさい。ウチ、いえ、私がまちご、いえ、間違っていました。許して下さい。ほんま、いえ、本当に反省しています」


 麗華は一生懸命お詫びの言葉を言っています。


「お帰り、麗華。私の一番の親友」


 私がそう声をかけると、どんな動物が雄叫びを上げたのかというような声で、麗華が泣き出しました。


「また連絡するね」


 泣き止まない麗華に言って、私は通話を切りました。


 本当に反省したのかな?


 でも、それが麗華なのですから、これからもうまく付き合って行くしかないですね。


「さあ、今日も仕事、頑張りましょう、瑠希弥」


「はい、先生!」


 気合を入れ直します。


 


 西園寺蘭子でした。

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