八木麗華

八木麗華は心を入れ替えたのか?

 私は西園寺蘭子。霊能者です。除霊や祈祷、骨董品の鑑定、占い等もしております。


 先日、同居人の小松崎(こまつざき)瑠希弥(るきや)と共に訪れた女子校で、衝撃的な光景を見てしまいました。


 世の中にはまだまだ知らない事がたくさんあると思いました。


 何だか、小学生の作文みたいですが、幼児退行しそうな程、私にとっては刺激が強かったのです。


 


 今日は事務所に親友の八木麗華が遊びに来ています。


 そのせいか、瑠希弥はソワソワしており、落ち着きません。


「ほォ。随分とおもろいもん見たな、蘭子」


 麗華はソファにふんぞり返ってガハハと笑い、女子校の出来事の感想を述べました。


「ウチも見たかったなァ、先生同士の絡み」


 麗華はニヤニヤして私を見ます。私はムッとして向かいのソファに座り、


「な、何よ、麗華?」


 麗華は私に顔を近づけて、


「瑠希弥とそないな気ィにならんかったか?」


「バ、バカ!」

 

 私は瑠希弥に聞こえたのではないかと心配して彼女を見ましたが、瑠希弥は麗華を見るのが怖いのか、iPadに集中していました。


「今度そんなハレンチな事を言ったら絶交よ、麗華!」

 

 私は本気モードで麗華を睨みます。途端に麗華は焦り出して、


「あ、アホ、そないに怒らんでもええがな。冗談やて」


「冗談にも程度問題があるのよ、麗華」


「悪かったがな、蘭子。許してェな」

 

 麗華が泣きそうなので、私は許してあげました。


「それで、今日は只遊びに来ただけなの?」


 私は本題に入るために言いました。麗華はニッとして、


「さすが蘭子や。ウチは遊びに来た訳やない。仕事を手伝てつどうてほしいんや」


「どんな仕事?」


 すると麗華は、


「ついて来ればわかるて」


と言うだけで、詳しい話をしてくれません。


 


 そんな訳で、私と瑠希弥は、麗華に連れられてある川の畔(ほとり)に行きました。


 その川は結構広い川で、たくさんの船が行き交っています。


「わかったやろ、仕事の内容が?」


 麗華が私達を見て言います。


 私は川を見渡して、


「この川、先日の豪雨で、たくさんの方が亡くなっているのね」


 川のあちこちに、まだ自分が死んでしまった事に気づいていない霊が幾人もいます。


 このままでは、その霊達は悪霊化してしまうのです。


「ウチ一人だと、手に余るねん。力貸してくれへんか?」


「いいわよ。ね、瑠希弥」


 私が瑠希弥を見ると、彼女は会心の笑顔で、


「はい、先生」


 私達は声を揃えて観世音菩薩の真言を唱えます。


「オンアロリキヤソワカ」


 彷徨い歩いていた霊達が観音様の慈悲の光に包まれ、天へと昇って行きます。


 霊達は、皆私達に微笑みながら、消えて行きました。


「おおきに、蘭子、瑠希弥」


 瑠希弥は麗華にお礼を言われて恥ずかしそうに微笑みます。


「で、一体いくらで請け負ったの、この仕事?」


 私は裏に何かあると思い、単刀直入に尋ねました。すると麗華は、


「阿呆、ウチかてたまには只働きもするがな。人を守銭奴みたいに言わんといて」


 私は嬉しくなりました。ようやく麗華も「世の中、金」主義から離脱できたようです。


「そうなの。ごめんなさい、麗華」


 私が頭を下げると、麗華は照れ臭そうです。


「そこまでせんでもええがな、蘭子。ウチは今までそないな事ぎょうさんして来とるんやから、しゃあないがな」


 どうしたのでしょう? 麗華がおかしいです。ここまで人は変われるものなのでしょうか?


 その時、妙な音楽が鳴り響きました。


「おっと、ウチの携帯や」


 麗華は何故か胸の谷間から携帯を取り出して、


「毎度、鳥楯ローンでおま」


と言いながら、私達から離れて行きました。


 とりたてローン? 何の事でしょう?


 後でじっくり訊かせてもらう事にします。


 


 西園寺蘭子でした。

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