魅惑の占い師(ご本尊編その参)

 私は西園寺蘭子。霊能者です。


 魅惑の占い師である太田梨子の邸に入った私と親友の八木麗華は、エレベーターの中で霊の襲撃に遭っていました。


 閉所恐怖症の麗華は、戦闘不能状態に陥り、修験者達の霊にもてあそばれています。


「あああ!」


 とても表現できないような所を触られ、舐められ、麗華は悶絶しています。


 ちょっとだけ気持ち良さそうに見えるのは、思い違いでしょうか?


「最近、男日照りやねん」


 彼女が先日、そう言っていたのを思い出したからかしら?


 助けに行きたいのは山々ですが、私にも修験者の霊が襲いかかって来て、それどころではないのです。


 しかも、修験者だけあって、真言を使えるらしく、私の真言を弾かれました。


 とても厄介な敵です。気を引き締めないと勝てません。


「そのおつに澄ました西園寺蘭子もボロボロにしてあげなさい」


 また梨子の声がスピーカから聞こえました。


 その言い方、かなりムカつきますが、反論しても仕方ないので、私は気を集約させます。


「ひいうわあ!」


 修験者達の霊は嫌らしい笑みを浮かべ、舌なめずりしながら私に迫ります。


「はあ!」


 真言が効かないのなら、物理攻撃です。


 私は右手の人差し指に集中させた気を彼らに放ちました。


「ぐぎゃああ!」


 三体のうち一体が気の塊を食らって消滅しました。二体はそれを見て私から離れます。


 離れるといっても、狭いエレベーターの中ですから、それほど遠くに行った訳ではありません。


 時間をかけていると、麗華が崩壊してしまいそうなくらい悶えているので、急ぎます。


「ええい!」


 私は気を棒のように伸ばし、修験者の霊を攻撃します。


「ぎいえええおあう!」


 もう一体が気の棒に触れ、消滅しました。残る一体は不利と悟ったのか、壁を通って逃げてしまいました。


「麗華!」


 ようやく助けに行けると思って油断したのかも知れません。


 私は先に出て来ていたおかっぱの女性の霊と中年の男性の霊に捕まってしまいました。


 エレベーターの壁の向こうに潜んでいて、いきなり現れたのです。


「く!」


 中年の男性の霊はよだれを垂らしながら私に顔を近づけます。


 女性の霊は私を後ろから羽交い絞めにしていて、


「ひいうわあ!」


と気持ち悪い吐息を耳に吹きかけて来ました。思わず背筋がゾッとしてしまいます。


「ひぎぎぎ!」


 男性の霊は雄叫びを上げて、私の手術着を引っ張ります。


 あまりに貧弱なので、すぐに破れてしまいました。


 その下には何も着ていないので、要するに「全裸」です。


「ぶぎぎぎ!」


 男性の霊は狂喜して、私の乳房に吸い付きました。そんなに強く吸われると痛いです。


「母乳は出ないわよ!」


 私は指先から気を発し、男性の霊を弾き飛ばしました。


 気の練りが甘かったのか、男性の霊は飛ばされただけで、消滅しません。


「あがあ!」


 女性の霊が首を絞めます。呼吸が止まりそうです。


「くう……」


 私は印を結び、


「オンマリシエイソワカ」


と摩利支天の真言を放ちました。


「ぐげ!」


 女性の霊は私から離れ、苦しみました。


(この人達、浄化できないのね)


 先程の修験者の霊もそうですが、すでに人ではなくなっているようです。


 姿こそ人なので、余計に哀れですが、消し飛ばすしかないようです。


「オンマカキャラヤソワカ!」


 私は「いけない私」の十八番おはこの大黒天真言を唱えました。


「ひいうあおがあ!」


 女性の霊と男性の霊はその力で消滅しました。


 彼らの素性は全くわかりませんが、梨子が術で縛って、人でなくしたのは確かです。


 許せる事ではありません。


「麗華!」


 私はハッとして、親友を助けようと身をひるがえします。


 しかし、そこには修験者の霊はいず、イッてしまったらしい麗華がヒクヒクしながら倒れていました。


 どうやら、さっきの大黒天真言で、修験者の霊も消滅したようです。


 でも、いくら気を失っているからって、股を大きく広げているのはやめて欲しいです。


 そういう私も、麗華同様全裸ですが。


「麗華、大丈夫?」


 私は麗華に駆け寄り、頬を軽く叩きました。


「ああ、蘭子!」


 麗華は泣きながら私に抱きついて来ました。


 全裸の女同士がエレベーターの中で抱き合っているのって、かなり危ないですね。


「さすがね、西園寺さん。いいわ。私の儀式の部屋においでなさい」


 もう一度梨子の声がしました。その途端、ガコンとエレベーターが動き出しました。


「……」


 麗華は怯える目で天井を見渡しています。


 階表示が「B5」になり、エレベーターは停止して、扉がゆっくりと開きます。


 私は震える麗華を庇うようにして立ち、扉の向こうを睨みました。


「いらっしゃい、西園寺さん、八木さん。ここが私の儀式の部屋よ」


 扉の向こうには、むせ返るような線香の煙と、目が眩みそうになる金ピカの大きな仏像がありました。


 広い部屋です。天井まで十メートル以上はあるでしょう。もしかすると、地下五階なのはこのせいかも知れませんね。


 気味の悪い仏像は目を見開き、口には笑みを浮かべています。


 今までに見た事がない隠微な顔と身体です。大きさは坐像ですが、五メートルくらいありまして。


 えーと。男性の巨大なあれが、仏像に付いているのです。しかも、そそり立っています……。


 恥ずかしい……。


 目のやり場に困ります。


「なるほど、あんたの信心してるんは、摩多羅神まんたらじんやな?」


 エレベーターから解放されたので、いつもの麗華が復活です。


「ほお。良くご存知ね。そうよ。私のご本尊様は、摩多羅神。最強の神よ」


 梨子はニヤリとして言いました。梨子も全裸です。結構毛深いですね。コホン……。


 こうなって来ると、裸なのがあまり恥ずかしくなくなって来ます。


 但し、梨子の身体は何だかヌメヌメと輝き、妙な臭いがして来ます。


「何が最強や。男の子種を搾り取って集めて、それを徳の高い僧侶の骨を砕いて練りこんで作った壺に三日三晩仕込み、それに浸かると、神の子を宿せるなんちゅうアホみたいな事信じてるんやろ? 笑ってまうわ」


 麗華は一歩進み出て梨子に言い放ちました。


 何、その信仰? それに近いものは聞いた事があるけど……。


「笑いたい者は笑えばいい。すでに私は、神の子を宿しているのだからな!」


 梨子は高笑いをして、自分のお腹をさすりました。


「そんなん、子種を提供させられた男の子やろ? 神の子ちゃうわ」


 麗華が今までの鬱憤うっぷんを晴らすかのように梨子を挑発しました。


 ちょっと待ってください。話の流れから察するに、梨子の身体でヌメヌメ光っているのは、子種ですか? じゃあ、この烏賊いかが腐ったような嫌な臭いは……。


 全身から汗が噴き出します。


「我が神を愚弄する者は許さぬ!」


 梨子の顔が鬼の形相になりました。すると麗華は、


「やっと本当の顔見せたな、エロ占い師。この麗華さんが叩きのめしてくれるで」


と舌なめずりします。


「我が神の怒りを食らうがいい!」


 梨子が仏像に手を合わせると、仏像からニューッと同じ姿をした霊体が現れました。


 何ですか、あれ? 直視できません。


「おうおう、またケッタイな神さんやなあ。ぶちのめしがいがあるわ」


 麗華は指をボキボキ鳴らしながら、そのおぞましい姿の霊体を見上げます。


「一つうとくわ。あれはごつければいいちゅうもんやないで、梨子はん」


 麗華はその霊体の股間にそそり立っているあれをジッと見て言います。


 ちなみに私は見ていません。無理です。カマトトと言われようと、ぶりっ子(死語ですか?)と言われようと、見られないものは見られないのです。


「貴女もすぐに我が神の素晴らしさがわかるわよ、八木さん」


 梨子は不敵な笑みを浮かべて言いました。


 あの余裕、気になります。麗華、大丈夫?


 


 西園寺蘭子でした。

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