黒幕判明
私は西園寺蘭子。霊能者です。
奇妙な依頼を受けた事から始まった一連の事件。
その全ての黒幕の正体が
私達は、親友の八木麗華の知り合いである心霊医師の矢部隆史さんがいる診療所に急いでいます。
「春菜ちゃん、私から絶対に離れないでね」
私は春菜ちゃんを見て言いました。
「はい」
春菜ちゃんは真剣な表情で応じます。
どこかに避難させようとも思ったのですが、一緒にいた方が良いという結論に達したのです。
「着いたで!」
麗華は車を停止させると同時に飛び出しました。
矢部さんの診療所から、おぞましい気が発せられているのがわかります。
「な、何、この気持ち悪い感じは?」
春菜ちゃんには霊感はないのですが、そんな彼女にまでわかるほど、その気は強烈でした。
「すっかり騙されていたんですね」
弟子の小松崎瑠希弥も悔しそうに言いました。
私と瑠希弥は、不動金縛りの術で縛ったイケメンと木崎麻美の霊体を車から出られないようにお札を貼りました。
「ええ。只の道具かと思っていたのだけどね」
私も苦々しい思いをしながら、麗華を追いかけます。
動物のアルコール漬けに春菜ちゃんが驚いて固まっているのを無理矢理引っ張って、私は瑠希弥と共に奥にある診療室に行きました。
「大丈夫か、矢部ッチ?」
麗華が、腕を撃たれて倒れた矢部さんを抱き起こしています。
「ああ。撃たれる瞬間に護法をかけたから、大した事はない。しかし、痛いな」
矢部さんはその死神のような顔でニヤリとしました。
相変わらず凄い顔です。
「お父さん!」
春菜ちゃんはベッドの上に寝たままの村上法務大臣に気づいて叫びました。
「危ない!」
私は駆け寄ろうとする春菜ちゃんを引き止めます。
春菜ちゃんには見えていないのです。
私達と村上大臣の間にいる憎悪の塊に。
「木崎麻美の父親?」
瑠希弥が呟きます。
確かにそうなのですが、すでに木崎の父親は、村上大臣を撃った銃に支配されています。
「何や、このバケモンは?」
麗華は矢部さんを部屋の隅に誘導しながら言いました。
木崎の父親は、銃に取り憑いていた怨念や残留思念に取り込まれ、ほとんど原形を留めていません。
辛うじて彼が木崎の父親だとわかるのは、微かに残っている木崎と共通した気のお陰です。
「第二次世界大戦で、戦地を転々としながら、数多くの命を奪い、その憎悪や怨念を吸収して、今日まで力を増大させて来たっちゅう訳か?」
麗華はその塊を睨みつけて言いました。
戦地だけではないようです。
虐殺が行われた場所、猟奇殺人が行われた場所。
様々なところにその銃は現れ、そこにある憎しみや恨みの念を吸い取り続けて来たのです。
もはや、銃ではありません。一個の意志を持った魔物です。
『ようやく来たか、西園寺蘭子。我らの最後の
その魔物が木崎の父親の口を借りて言います。その声とともに発せられた気は、通常の人間には堪えられそうにありません。
私は素早く結界を張って春菜ちゃんを守ります。
麗華は村上大臣を結界で守りました。
「それはどういう意味だ、化け物?」
いつの間にか、私は引っ込み、いけない私が表に出ていました。
私は仰天しましたが、時すでに遅く、隣にいる春菜ちゃんは、目を見開いて私を見ています。
とうとう知られてしまいました……。
ふと見ると、瑠希弥も驚愕の眼差しで私を見ています。ああ……。
いけない私は怒り心頭の顔で魔物を睨んでいます。
『我らは、お前の父親に一度封じられたのだ。だからずっと復讐の機会を窺っていたのだ』
魔物はニヤリとして言いました。
私の父に封じられた? 復讐?
「何かと思えば、そんな事か? ちいせえなあ、お前は。バカじゃねえか?」
いけない私はせせら笑って、魔物を挑発しました。全く、何を考えているの?
『減らず口を叩くのもそこまでだ。全員我らに取り込んでくれるから覚悟せよ』
魔物の気が爆発的に高まりました。
周囲にあったパーテーションや診療器具の入った戸棚がガタガタと揺れ出します。
「瑠希弥、春菜と大臣を連れてここを出ろ。こいつは私と麗華で始末する」
いけない私は魔物を睨んだままで言いました。
「はい!」
瑠希弥は麗華から大臣を託されると、春菜ちゃんと共に大臣を抱えて診療室を出ようとしました。
『逃がさんよ』
魔物の声が響いたかと思うと、ドアが固く閉ざされ、開かなくなってしまいました。
「西園寺さん、ここじゃ狭いから、奥の道場で戦った方がいい」
矢部さんが苦しそうに言います。
「そうみたいだな!」
いけない私は嬉しそうに舌舐りし、
「オンマケイシバラヤソワカ!」
いきなり大自在天真言を唱えました。
『ぐうおお!』
魔物はそれをまともに食らい、壁を突き破って、その向こうにある大きな空間に飛ばされました。
「あ、いや、そんな乱暴な……」
邸の中がボロボロになっていくさまを見て、矢部さんは引きつっています。
ごめんなさい、矢部さん。修理代は私が払いますから。
「行くぞ、麗華!」
いけない私は一緒に呆然としていた麗華に声をかけ、奥の道場に行きました。
「あ、はい」
相変わらず、いけない私には腰が低い麗華です。
そこは畳百畳敷きくらいの広さがある板の間です。
一見すると、剣道場のようにも見えますが、霊的な配置を考えた結界の間のようです。
「なるほどなあ。ここなら、手加減なしで戦えるって訳か、矢部ッチ。ありがたいぜ」
いけない私はますます嬉しそうです。
「先生、加勢します」
瑠希弥が麗華の後から入って来ました。
「大臣と春菜ちゃんは矢部さんが守ってくれています」
瑠希弥は絶対に一緒にいますという顔つきで言いました。
「よし、許す。後な、私の事は蘭子さんだ、瑠希弥」
いけない私はまだそこにこだわるようです。
「はい、ら、蘭子さん」
瑠希弥も相変わらず私の名前を呼びにくいようです。
「さっきから銃を使わんけど、何か理由があるんか、バケモン?」
麗華がニヤリとして尋ねます。
しかし魔物は答えません。
「撃てる訳ねえよな? 弾を撃つたびに力が減るんだからさ。っていうか、私らを相手にするには、そんな事したら勝てねえからだろ?」
いけない私は更に挑発的な事を言ってのけました。
『黙れ!』
魔物が雄叫びを上げました。すると突風のような気が道場中を駆け巡り、私達は服を切り裂かれてしまいました。
「きゃっ!」
瑠希弥は以前と同じように大きな胸をプルプル震わせて身を
「面白い事してくれるな!」
いけない私は、服が全部千切れ飛んだのにどこも隠そうとしないばかりか、仁王立ちです。
丸見えです。
「先生……」
瑠希弥が唖然としているのがわかります。
「こいつら、全員男の怨念と残留思念なんやな。だから女と見れば、こういう事をしたあなる変態や」
麗華も胸をボンと突き出して言いました。
羞恥心のなさでは、いけない私と麗華は同レベルのようです。
『その通りだ。これからお前達をたっぷりと可愛がってやる。そして、あの世に逝かせてやる!』
再び突風のような気が駆け巡ります。
「オンマリシエイソワカ」
いけない私と瑠希弥の摩利支天真言の二重奏です。
「オンマカキャラヤソワカ」
続けて、麗華といけない私の大黒天真言の二重奏です。
『ぬぐおお!』
魔物の放った気は摩利支天真言で消滅し、魔物本体は大黒天真言で吹き飛び、結界の端にぶつかって止まりました。
「消えねえのか……」
少しだけ、いけない私に焦りの色が見せます。
最初の大自在天真言に引き続き、大黒天真言をまともに食らっても消えない。
相当強い気の塊です。
『終わりか? ならば今度は我らの番だな!』
一瞬の隙を突かれ、私達は魔物の放った気によって縛られてしまいました。
「このヤロウ!」
いけない私は歯軋りしました。
三人共宙に浮かされ、大股開きさせられています。
要するにいけないところが丸見え状態です。
瑠希弥はすでに泣きそうです。私はいけない私ですから涙は出ませんが、もう限界に近いです。
『さて、ではじっくりと味わおうか』
魔物は言いました。その途端、魔物から蛇のような触手が三本伸びて来ました。
まさか、それって……? 非常に嫌な予感がします。
どうすればいいの?
西園寺蘭子でした。
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