ようやく一件落着
私は西園寺蘭子。霊能者です。
木崎麻美の罠に始まったこの事件、ようやく黒幕が登場です。
いけない私の真言攻撃にも堪えたその黒幕の正体は、一丁の銃に殺された人達の怨嗟と憎悪でした。
一瞬の隙を突かれ、私達はその魔物に動きを封じられ、触手のようなものでいけない事をされようとしていました。
「こら、そないなモンで突かれたりしたら、もう二度とまともなエッチできへんようになるやないか!」
親友の八木麗華が怒鳴りました。露骨過ぎよ、麗華。
弟子の小松崎瑠希弥はもう顔が破裂しそうなほど赤くなっています。
今の私達は宙に浮かんだ状態で、しかも何も身に着けておらず、その上大股開きだからです。
揚げ句に麗華のトンデモ発言があったのですから、純情な瑠希弥には堪えられないのでしょう。
『心配するな。お前達が生き延びる可能性はない。だから、これからの人生設計を心配する必要もないのだ』
魔物が言いました。麗華は歯軋りして、
「やかましいわ! ウチらがこの程度でやられる思うたら大間違いやで!」
するとそれを聞いたいけない私が、
「いい事言った、麗華。その通りだ。その腐れ外道の○玉引っこ抜いて、微塵切りにしてやるぜ」
もうどうかしてしまいそうです。
何を言っているのでしょうか、いけない私は……。
瑠希弥は私を驚愕の眼差しで見たまま動かなくなってしまいました。
「それは素晴らしいです」
麗華は固まりはしませんでしたが、いけない私には敬語です。
どちらにしても、魔物が取り憑いている木崎麻美の父親は霊体なので、その、引っこ抜いたり微塵切りにしたりはできません。
『強がりを言っている割には、あそこが反応しているぞ』
魔物の触手が私達の胸やあそこを
「うう……」
瑠希弥は涙を流しながら触手から逃れようと身を
「あ、そんなとこ、アホ、やめんか!」
麗華も抵抗しているようですが、感じてしまっているようです。
「くう……」
実はいけない私も口では強がりを言いますが、こういう攻撃には耐性がないようで、途端に大人しくなってしまいました。
『嫌だといいながらも、スケベな汁を
魔物は木崎の父親の霊体を借りてニヤリとします。
悔しいですが、反論できません。確かに腿の内側を液体が伝うのがわかります。
そして淫靡な音も聞こえて来ます。
「いやああ!」
瑠希弥の声が一段と大きくなりました。触手が中に侵入しようとしているようです。
「瑠希弥!」
さっきまで悶えてしまっていたいけない私は、瑠希弥のピンチに気づき、叫びました。
「てめえ、瑠希弥を放せ! それ以上その子に何かしたら絶対許さねえぞ!」
いけない私の気の高まり方が尋常ではありません。
やはり、いけない私にとっても瑠希弥は大切な存在なのです。
『もう一人の私、摩利支天真言の時間差二重奏よ』
私はいけない私に心の中で言いました。
「わかった!」
いけない私と私の真言が合体します。
「オンマリシエイソワカ!」
続いて私は瑠希弥にも呼びかけます。
『瑠希弥、感応力を全開にして、真言を増幅させて』
『わかりました、先生』
瑠希弥は触手に必死に抵抗しながら、私と行けない私の放った真言に自分の力を共鳴させて増幅させました。
「麗華、お前も手伝え!」
いけない私が麗華に叫びました。
「わかりました!」
麗華も瑠希弥によって増幅された真言に更に自分の気を投入しました。
『何だと!?』
怨嗟と憎悪の塊の魔物も、さすがに驚いたようです。
『バカな、そんな事ができるのか? 信じられん!』
私達の合体真言が魔物にぶち当たりました。
『くおおお!』
ありとあらゆる絶望を思い起こしてしまうような雄叫びが結界の間の中を駆け巡ります。
「もう一度だ!」
いけない私の号令で、私達はもう一撃真言を見舞いました。
「ぬああ!」
魔物は苦しみ悶えていたため、二撃目はまともに食らったようです。
大自在天真言と大黒天真言の二連撃にも耐えた魔物も、四重奏の摩利支天真言は
遂に魔物は散り散りになりました。
その時、木崎の父親の霊体が分離しました。
「やったか?」
麗華が叫びました。
「いや、まだだ」
そこへ心霊医師の矢部隆史さんが飛び込んで来ました。
「その銃を隔離しない限り、そいつは何度でも復元する」
矢部さんはそう言って包帯のような白い布を投げました。
その布には何かの真言が書かれているようです。
「全て天に!」
矢部さんはそう言うと、
「オンカカカビサンマエイソワカ」
地蔵真言。全ての霊を導くものです。
私達も地蔵真言を唱えました。元々、銃に宿った憎悪は犠牲者のものです。
天に上げてあげる事こそが真の供養なのです。
真言の力を
禍々しい気を放っていた銃は地蔵真言によって浄化されて行き、コトンと床に落ちました。
それと同時に憎悪と怨嗟の塊も
「もういいようだね」
矢部さんは壁にあるボタンを押しました。
すると結界が解け、天井が開きます。
外は空が夕焼けに染まっていました。
細かく千切れたたくさんの人達の思いが、茜色に染まる天へと昇って行きます。
「やっと解放されたのね」
高く昇って行きながら、数え切れないほどの人達の憎しみが昇華され、消えました。
「終わったね」
矢部さんが言いました。
「ええ……」
そう応じながら、私達は自分達が一糸纏わぬ姿なのを思い出し、絶叫しました。
「わああ、すまない、退散するよ」
矢部さんは私達の悲鳴に驚き、結界の間を飛び出して行きました。
しばらくして、村上法務大臣の娘さんの春菜ちゃんが人数分のバスタオルを持って来てくれました。
「もう大丈夫なんですよね、蘭子さん」
それでも春菜ちゃんはちょっと怖そうに言いました。
「ええ、もう大丈夫よ」
私はいけない私に引っ込んでもらって、バスタオルを受け取りました。
「良かった、いつもの蘭子さんに戻ってくれて」
春菜ちゃんがそう言うと、
『何だよ、春菜。助けたのは私だぞ』
いけない私が心の奥で舌打ちしました。少し可哀想な気もしますが、仕方ないですね。
私は春菜ちゃんに苦笑いで応じ、麗華や瑠希弥と顔を見合わせました。
矢部さんの手配で、知り合いのブティックからたくさんの洋服と下着が届けられました。
私達はそこから好きなものを選ばせてもらい、ようやく人心地です。
「それにしても、ようサイズがわかったな、矢部ッチ」
麗華が感心して言うと、
「さっき見たからね」
矢部さんの発言にはドキッとしました。
あんな一瞬でサイズがわかるものなのかしら?
「何や、しっかり見とったんやないか。拝観料取らんとな」
麗華がニヤリとして言うと、
「その服がお代替わりだよ」
矢部さんもニヤリとしました。
私達は、村上大臣と春菜ちゃんを無事送り届け、春菜ちゃんの高校に置いて来た木崎麻美の肉体を回収し、イケメンの肉体も探し出して霊体を戻しました。
父親の霊体も異常がない事を確認してから本人がいるところに戻しました。
木崎麻美もイケメンも、木崎の父親と同様に銃の魔物に取り込まれていたようで、自分達が何をしていたのか全然覚えていないようでした。
ようやく一件落着です。
「それにしても、今回は危なかったなあ。ウチ、もう少しで殺人犯になるとこやったもんなあ」
麗華が車を運転しながら言いました。
「これに懲りて、むやみにイケメンに釣られるのを慎むようにね、麗華」
私が助手席で言うと、
「そうやな。気ィつけんとなあ」
さすがに麗華も懲りたのか、素直です。ホッとしました。でも、本当に懲りたのかしら?
そして、翌日の事です。
携帯に春菜ちゃんからメールが届きました。
「蘭子さん、みんなが私の事、怖がるんですけど、何があったんですか?」
それを見て、本当に申し訳ない事をしたと思いました。
西園寺蘭子でした。
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