親友 八木麗華

 私は西園寺蘭子。霊能者です。


 一般の方々のイメージだと、私達は非常に特殊な能力を持っている人間と思われがちなのですが、実はそうではないのです。


 霊を見たり感じたりする力は、誰もが持っています。


 ただ、それが自分でコントロールできるか出来ないかの違いなのです。


 これからお話するのは、類い稀な霊能力を持ちながらその力に翻弄された人物のお話です。



 八木麗華。今では私の親友であり、一番のライバルでもあります。


 彼女はわずか3歳で霊感に目覚め、5歳で除霊に成功した、天才霊感少女でした。


 但し、まだ私と出会う前の麗華は、私の友人の小学生のように自信に満ち溢れておらず、常に自分の力に怯え、周囲の人々の奇異の目と戦っていました。


 成長するに連れ、麗華の能力は加速度的に強大になり、彼女が数珠を持って現場に現れるだけで、浮遊霊達は浄化され、怨霊は鎮まり、悪霊は退散しました。


 そして彼女の不安は、能力の増大に比例するように高まって行きました。


 彼女はある偉大な霊能者を尋ね、力を失いたいと相談していました。


 しかしその霊能者は麗華の能力を見抜いていたので、その力の素晴らしさに驚嘆し、


「そんな事を考えない方がいい。その力は将来きっと役に立つ時が来る」


と諭して、何とか麗華を説得しました。


 それでも麗華は悩み続けました。


 昼夜を問わず聞こえる霊の声。


 麗華はノイローゼになりそうでした。


 彼女の精神が、もう少しで破綻してしまうという時に、私は彼女と出会いました。


 その時、私も自分の力に悩んでいたのです。


 同じ苦しみを持つ麗華に出会い、私は随分と楽な気持ちになりました。


 それは麗華も同じだったようです。


 私達はお互い気持ちは楽になりました。


 でも、悪霊達にとって私達の出会いは悪夢だったらしく、私と麗華はたびたび悪霊の一団に襲撃されました。


 代々霊能者の家系の私は、それなりの訓練と鍛錬を積んで来ていたので、ある程度戦う事ができました。


 でも、一般家庭で突然霊能力に目覚めてしまった麗華は、その能力の方向性が定まらず、強力な怨霊集団の前に身動きが取れなくなってしまいました。


 麗華はやがて怨霊に取り憑かれ、その能力を乗っ取られてしまいました。


 そして怨霊は私に襲いかかって来たのです。


 怨霊だけなら何とでもできたでしょうが、麗華の力が加わったとなると、私にも勝ち目がありません。


 攻撃を凌ぐので精一杯でした。


 私は麗華に心の声を最大にして呼びかけました。


『麗華、惑わされないで! 目覚めて! 貴女ならできる。貴女なら抜け出せるはずよ!』


 でも麗華には届いていません。


 彼女は怨霊の依り代となってしまい、私は肉体的にも霊的にも傷つきました。


 それでも私は呼びかけ続けました。


『麗華、お願いだから目覚めて! 貴女は負けない。貴女は私の一番の親友なのだから!』


 麗華の動きが止まりました。


「うおおおおおっっっっ!」


 憑衣していた怨霊が苦しみ始めました。そして麗華が強烈な光を放つと、怨霊は霧散しました。


 麗華がようやく私の呼びかけに応えてくれたのです。


 怨霊集団は私達の能力で全て浄化し、戦いは終わりました。


「蘭子」


 麗華はニッコリして言いました。私もニッコリして、


「麗華」


 と応じました。すると麗華は急に真顔になり、


「今回はウチの負けや。けどな、この次はそうはいかんで」


「えっ?」


 私は唖然としました。


「ウチはあんたよりずっと強いんや。今度は必ずあんたを…」


「私を?」


 私が促すように麗華の顔を覗き込むと、彼女は顔を赤らめて、


「あんたをウチが助けたる。覚悟しときーや」


と捨て台詞のような言葉を吐き、立ち去りました。


 でも私は信じていました。


 私と麗華は、生涯を通じて親友なのだと。




 それから数年後。


 私は様々なところに行き、除霊や浄霊、お清めの仕事をこなしています。


 そして時々耳にしてしまうのです。


「八木麗華は確かに優秀な霊能者だが、同時に金の亡者でもある」


という話を。


 いつかじっくり彼女と今後の活動について話し合いたいと思っています。

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